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第20話:管理者同士の邂逅

「いつまでやってんだよ!」


俺のツッコミで、ようやくフェンとルナは我に返った。


悠乃は「はぁ、はぁ……全部吸い取られた……」とぐったりしているが、その顔はスッキリとして満足げだ。


「……さて、お楽しみはここまでだ。原因が分かったぞ」


俺は部屋に残る甘いミルクの香りを振り払い、真剣な顔で告げた。


悠乃だけが発症しなかった理由。それは「風呂に入らなかった」からだ。


つまり、毒の発生源は共同浴場にある。


「えっ、お風呂が?」


「ああ。食事に毒を混ぜても、俺のパッチで防がれる。だが、皮膚からの直接侵入(ポート443)はノーマークだった」


俺は窓の外、湯気を立てる浴場を睨んだ。


「昨晩、あの浴場で何かが起きた。……いや、誰かが仕込んだんだ」


浴場の湯に毒を混ぜ、村人全員を汚染できる人物。


外部の人間が入り込めば目立つ。ならば、内部の人間――それも、浴場を管理する立場にある者が怪しい。


「悠乃、この村で風呂の管理をしているのは誰だ?」


「えっと……風呂番のナギちゃんじゃけど……。あの子はええ子よ? そんなことするわけないわ」


「あとは、合鍵を持っているであろう族長と、その孫娘くらいか」


容疑者は三人。


風呂番の娘『ナギ』。


族長の『ガウ』。


族長の孫娘『ミミ』。


「全員を広場に集めてくれ。……少し、『テスト』をする」


「ああ、あと、ルナとフェン…悠乃も。ちょっと来てくれ」


「「…?」」


ルナとフェンは人は顔を合わせる。カイが人に相談することなんて、今まで一度もなかったからだ。それを不思議そうな顔で悠乃が見つめる



広場には、不安そうな顔をした村人たちが集まっていた。


その中心に、俺が呼び出した三人が立っている。


風呂番の娘ナギは、おどおどとした小柄な牛娘だ。



挿絵(By みてみん)



族長ガウは、昨日俺と酒を飲んだ豪快なオッサン。


孫娘のミミは、まだ角も生え揃っていない幼い少女だ。



挿絵(By みてみん)






「カイ殿、我らを疑うのか?」


族長が不快そうに眉を寄せる。


「疑っているわけじゃありません。ただ、毒の発生源を特定するために協力してほしいだけです」


俺は三人の周りを歩きながら、システムウィンドウを開いた。


Target: Nagi (Bath_Keeper)Target: Gau (Chief)Target: Mimi (Granddaughter)Status: Poison (All)


三人とも、表向きは『毒(Poison)』状態になっている。


村人と同じ被害者を装っているわけだ。だが、もし犯人がこの中にいるなら、それは「偽装」だ。自分で毒を盛っておいて、自分もかかったフリをしている。


(……だが、ステータス画面上は完璧に『毒』だ。データ偽装までしているとしたら、相当な手練れだぞ)


ならば、物理的な矛盾バグを突くしかない。


「これから、俺が一人ずつ解毒します。そして、本当に治ったかどうかを……悠乃に確認してもらいます」


「確認?」


「ああ。毒が消えれば、ミルクが出るはずだ。それを実際に絞って確認する」


俺の言葉に、風呂番のナギが一瞬だけ顔を強張らせたのを、俺は見逃さなかった。


「まずは族長からだ」


俺は族長に解毒コマンドを撃った。


当然、男である族長からミルクは出ない。これはダミーだ。


「うむ、体が軽くなったぞ!」


「よし。次は孫娘のミミちゃんだ」


幼いミミにも解毒を撃つ。


彼女もまだ子供なので、ミルクは出ない。これもダミー。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「どういたしまして。……さて、最後はナギさんだ」


俺はナギの前に立った。


彼女は、この村の成人女性だ。毒さえ消えれば、他の村娘たちと同様にミルクが出るはずだ。


「……お願いします」


ナギが震える声で言う。


俺はコマンドを入力した。


Command : Cure_Status [ Poison ]


カチッ。


「はい、完了だ。……悠乃、頼む」


悠乃が前に出た。


ナギは観念したように、着ている服の胸元を開いた。


そこには、牛人族らしかぬ、控えめな膨らみがあった。


「失礼するで……」


悠乃がナギの胸をマッサージし、絞り出すように圧をかけた。


……シーン。


何も出ない。


一滴も。


「……あれ?」


悠乃が首を傾げる。


「おかしいのぉ。毒は消えたはずなのに、全然張ってないわ。まるで……『最初からミルクを作る機能がない』みたいじゃ」


「ッ!?」


ナギの顔色が消えた。


村人たちがざわめき始める。


「どういうことだ?」


「ナギちゃん、なんで?」


俺は冷徹に告げた。


「答えは簡単だ。……そいつは牛人族じゃないからだ」


「化けの皮が剥がれたな。……いや、その皮もよく出来てるが」


俺の言葉が終わるより早く、ナギ――いや、ナギに化けていた「女」が動いた。


「チッ……! バレたか。勘のいいガキは嫌いだよ」


ドォォォンッ!!


女が地面を蹴り、バックステップで距離を取った。


同時に、族長のガウと、孫娘のミミもまた、奇妙な音を立てて変身を解いた。


グチャッ、ボコォッ!


族長の体躯が膨れ上がり、皮膚がヌルヌルとした粘液に覆われる。


手足が触手に変わり、頭部が巨大な軟体動物のように変形していく。


――タコの擬人化モンスター(クラーケン・ウォーリア)。


孫娘のミミは、背中から節足動物のような羽が生え、手足が黒光りする甲殻に覆われた。


ギチギチと音を立てる複眼と、巨大な後ろ足。


――コオロギの擬人化モンスター(インセクト・ナイト)。


まさか三人とも誘拐されていたとは…予想できなかった…


「な、なんじゃこいつらぁぁぁ!?」


悠乃が悲鳴を上げて腰を抜かす。


本物の三人は、すでにこいつらに誘拐され、どこかへ監禁されているということか。


「よく見破ったね、同業者(同類)さん」


ナギに化けていた女が、ニヤリと笑った。


彼女は空中に手をかざし、俺と同じ「システムウィンドウ」を展開した。


User : Code_Name [ Vermouth ]Access_Level : Administrator


「あんたも『管理者』なんでしょ? まさかこんな僻地でカチ合うとはね」


女――ベルモットは、黒いボディスーツのような戦闘服に身を包み、挑発的に俺を見据えた。



挿絵(By みてみん)




コマンド使い。


俺以外にも、この世界の理を書き換える能力者がいたのか。


「主様! こいつら、敵ですね!」


フェンが即座に戦闘態勢に入り、氷の魔力を練り上げる。


ルナも背中の巨大ブーメランを構えた。


「フェン、ルナ! あの化け物二匹はお前たちに任せる!」


「はいっ!」


「分かったわ!」


マッチアップは決まった。


フェン vs 族長擬態(タコ男)。


ルナ vs 孫娘擬態(コオロギ女)。


そして。


「へぇ、私とやる気? いいわよ、デバッグしてあげる」


ベルモットが指を鳴らすと、彼女の周囲に無数の赤い警告ウィンドウ(攻撃用コード)が展開された。


「……上等だ。お前のそのふざけたコード、俺がリファクタリング(修正)してやるよ」


俺もまた、青いウィンドウを展開して対峙した。


コマンドバトル。


物理法則を無視した、管理者同士の論理戦争ロジカル・ウォーが始まる。


(続く)

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