第2話 毒キノコのプロパティを書き換えて、ついでに神獣を拾いました
『レベルが 150 に上昇しました』
脳内に響いたアナウンスに、俺は呆然と立ち尽くしていた。 さっきまで俺を食い殺そうとしていたベヒーモスは、影も形もない。
「……本当に、消えちまったのか?」
恐る恐る、自分の手のひらを見る。 意識を集中すると、再び視界に半透明のウィンドウが展開された。
『 ユーザー:カイ・ウォーカー 』 『 権限レベル:管理者(Administrator) 』 『 現在のモード:デバッグ(Debug) 』
どうやら夢じゃないらしい。 俺は、この世界のあらゆる事象を編集・操作できる「管理者権限」を手に入れてしまったようだ。 要するに、今の俺はゲームの開発者(運営)みたいなもの……ってことか?
「……ぐぅ」
思考を巡らせていると、腹が鳴った。 そういえば、朝から何も食べていない。 勇者パーティを追い出され、この魔の森に放り込まれて数時間。緊張が解けた途端、猛烈な空腹感が襲ってきた。
「何か食うものは……」
周囲を見渡すが、あるのは鬱蒼とした木々と、根元に生えた毒々しい紫色のキノコだけ。 見るからにヤバい。ドクロマークの模様がついている。
「これ、食ったら死ぬよな……」
普通ならスルーだ。だが、今の俺には「アレ」が見えている。 キノコを凝視すると、詳細情報がポップアップしたのだ。
『 アイテム名:デッドリーポイズンマッシュ 』 『 レア度:C 』 『 効果:即死毒(摂取後3秒で心停止) 』 『 味:泥雑巾 』
「やっぱり即死毒じゃないか! しかも味、最悪かよ」
だが、俺の視界にはその横に、小さな『編集(Edit)』ボタンが表示されていた。 ……これ、いけるのか?
俺は空中のボタンをタップした。 すると、キーボードのようなインターフェースが現れ、文字の書き換えが可能になる。
「えーと、『効果』の『即死毒』を削除して……『体力回復・大』に変更。で、『味』を……」
俺は少し迷ってから、欲望のままに入力した。
『 味:最高級A5ランク和牛ステーキ(焼き加減:ミディアムレア) 』
「よし、決定(Enter)!」
『ピロン♪ オブジェクト情報を更新しました』
見た目は相変わらず毒々しい紫色のキノコだ。 だが、システムを信じろ。俺は意を決して、キノコを齧った。
「――ッ!?」
口の中に広がったのは、泥の味でも毒の苦味でもない。 溢れ出す肉汁。芳醇な脂の甘み。香ばしい炭火の香り。
「うっま!! なんだこれ、完全に高級ステーキだ!」
俺は夢中でキノコを平らげた。 食べ終わる頃には、満腹感と共に体力が全快していた。
「すげぇ……。これなら、この森でも余裕で生きていけるぞ」
水が欲しければ泥水を「ミネラルウォーター」に書き換えればいいし、家が欲しければ木の枝を「ログハウス」に書き換えればいい。 もはやサバイバルですらない。ただの接待キャンプだ。
そんな風に、俺が万能感に浸っていた時だった。
「クゥ……ン……」
茂みの奥から、弱々しい鳴き声が聞こえた。 近づいてみると、そこには一匹の小さな銀色の狼が倒れていた。 脇腹に深い傷を負い、血を流している。まだ子供だろうか。
「ひどい怪我だ……」
ステータスを確認する。
『 個体名:フェンリル(幼体) 』 『 状態:瀕死(残りHP:3 / 50,000) 』 『 備考:古代神獣の末裔 』
「フェ、フェンリル!?」
伝説級の魔物じゃないか。 本来なら人間が遭遇したら即死する相手だ。だが、今のこいつはただの死にかけのワンコにしか見えない。 つぶらな瞳が、助けを求めるように俺を見つめている。
「……勇者パーティなら、『レア素材だ』って言ってトドメを刺すんだろうな」
だが、俺は追放された身だ。 それに、弱っている奴を見捨てるのは寝覚めが悪い。
「安心しろ。今、治してやる」
俺は狼に手をかざした。 ポーションはない。回復魔法も使えない。 だが、俺には管理者権限がある。
俺はフェンリルのHPバーを指先でスライドさせ、右端まで一気に引っ張った。
『 コマンド実行:[ Full Heal ] 』
カチッ。
瞬間、狼の体が眩い光に包まれる。 傷口がふさがるどころか、毛並みがツヤツヤになり、生命力が満ち溢れていく。
「グルルッ、ワオォォォン!!」
元気になったフェンリルが、嬉しそうに吠えた。 よかった、これで一安心――と思った、次の瞬間。
光がさらに強まり、狼の輪郭が変わり始めた。 四足歩行の姿から、二本足へ。 毛皮が消え、滑らかな肌へ。
「え?」
光が収まると、そこには――信じられない光景が広がっていた。
四足歩行の狼の姿はない。
代わりにそこに座っていたのは、健康的に日焼けした肌を持つ、絶世の美少女だった。
「……え?」
俺は目を疑った。
月光を弾くような銀色のロングヘアーに、ぴょこんと生えた獣耳。
そして何より目を引くのは、その刺激的すぎる格好だ。
身に着けているのは、漆黒のマイクロビキニだけ。
極限まで布面積を削ったその衣装は、彼女の引き締まった褐色の肢体と、暴力的なまでに豊満な胸部を、隠すどころか強調していた。
だが、完全に人型というわけではない。
両腕の肘から先は、真っ白でフワフワな「獣の毛並み」に覆われている。
銀髪、褐色肌、黒い水着、そして白銀のケモ腕。
その色彩のコントラストが、彼女の野性的な美しさを際立たせていた。
少女は長い睫毛を震わせて瞼を開くと、琥珀色の瞳で俺をじっと見上げた。
「……あー、システムさん? これはどういうバグですか?(最高ですけど)」
「その、フェン……。服はそれでいいのか? 寒くない?」
俺が目のやり場に困りながら尋ねると、フェンは豊かな胸を張り、マイクロビキニの紐を指で弾いてみせた。
「はいっ! これくらい肌を出していないと、毛並みの感覚が鈍ってしまいますから! これが最強の『狩猟形態』なのです!」
「なるほど、機能性重視ってことか……(絶対違う気がするけど)」
「それに、主様に撫でていただく時も、布がない方が気持ちいいですし……♡」
「……あ、はい」
「我が傷を癒やし、真の力を呼び覚ましてくれたのですね……!」
少女――フェンリルは、感極まった様子で俺に飛びついてきた。
「貴方様こそ、我が主! このフェンリル、魂の果てまでお仕えいたします!」
「……はい?」
こうして俺は、最強のデバッグ能力と、伝説の神獣(美少女)を手に入れてしまったのだった。 一方その頃、俺を追放した勇者たちが、最初のザコ敵相手に全滅の危機に瀕していることなど、知る由もなかった。
おまけ
諸事情により服を着ています
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