第14話 ルナの影の努力 牛娘の予感
深夜。 事後の余韻と温もりに包まれたベッドの中で、ふと目が覚めた。 腕の中にいたフェンが、むくりと身を起こしたからだ。
「……ん、どうしたフェン? トイレか?」 「……いえ。ルナの気配が、屋敷から消えました」
フェンの獣耳がピクリと動く。 俺たちは昨晩、当然ながら二人きりの個室で過ごしていた。ルナは自分の部屋で寝ていたはずだ。
「こんな時間にどこへ……。外か?」 「はい。森の方へ……。なんだか、空気が張り詰めているような……」
心配そうに眉を寄せるフェン。 俺たちは顔を見合わせ、急いで服を着て(フェンはマイクロビキニに、俺の上着を一枚羽織った姿で)静かに屋敷を抜け出した。
森の奥から、微かに空気を切り裂く音が聞こえてくる。
◇
屋敷から少し離れた開けた場所。 月明かりの下、ルナが一人で修行をしていた。 身の丈ほどもある巨大なブーメランを、何度も何度も大木に向かって投げている。
「……くっ! まだ……まだ軽い!」
ブンッ! と音を立ててブーメランが飛ぶが、木の幹に浅い傷をつけるだけで弾かれて戻ってくる。 ルナは悔しそうに唇を噛み、乱れた呼吸を整えている。
「姉様みたいに……強くならなきゃ……。いつまでも守られてるだけじゃ……」
その姿を、俺たちは木陰からそっと見守っていた。 隣にいるフェンの耳が、悲しげにぺたんと垂れる。
「ルナ……。あの子、自分の魔力量が少ないことをずっと気にしていて……」 「天才肌の姉を持つと苦労するな」 「私が手伝ってきます!」
飛び出そうとするフェンの肩を、俺は掴んで止めた。
「待て。お前が教えたら、ルナは余計に惨めになるかもしれない。……俺に任せてくれないか?」 「主様が?」 「ああ。少し『魔法』をかけるだけだ」
俺はルナに見えない位置で、視界のモードを切り替えた。
『 System_View : [ Wireframe_Mode ] On 』
カチッ。 視界から色彩とテクスチャが消え去った。 世界が黒バックに「緑色の線」だけで構成された、無機質な3D空間へと変わる。
ルナの体も、無数のポリゴンの集合体として表示される。 彼女の頭上に、数値化されたパラメータが浮かぶ。
Target: Luna (Werewolf) Stamina: 24 / 180 (Low) Muscle_Fatigue: 85% (Warning)
ボロボロじゃないか。 俺はまず、コンソールを開いて彼女のステータスを書き換えようとした。疲れを消し、筋力を上げてやろうと。
Target: Luna > Set_Str( 200 )
ターンッ。
> Error : Access Denied > Reason : 対象オブジェクトは生体データにより保護されています(Read Only)
(……やっぱりか)
薄々気づいていたが、この権限でも「生き物そのもの」の数値を直接いじることはできないらしい。状態異常や、けがは治せるが。 隣で見ていたフェンが、空中に浮かぶ赤いエラーウィンドウを見て不思議そうに首をかしげる。
「主様? 何か赤い板が出ましたけど……」 「いや、生物の体は神様の領域ってことらしい。……なら、アプローチを変えるまでだ」
俺は視線をルナではなく、彼女が手にしている「ブーメラン」へと移した。 無機物なら、ただのオブジェクトデータだ。いくらでもいじれる。
俺は空中にキーボードを展開し、高速でコードを記述した。
Target = Object (Luna_Boomerang); // 物理演算のオーバーライド If ( Impact == True ) { Mass = Mass * 50; // インパクトの瞬間、質量を50倍に加重 Hardness = Unbreakable; // 硬度:破壊不能 } // 軌道補正 Guidance_System = Auto_Return (Accuracy:100%);
(よし。ついでにエフェクトも追加しておくか)
俺はエンターキーを叩いた。
> Update Complete.
◇
「……あと、一回だけ……」
ルナは震える腕でブーメランを構えた。 もう握力も限界に近い。これでダメなら、今日は諦めよう。 そう思って、彼女は渾身の力を込めて腕を振った。
「はぁぁぁッ!!」
ヒュンッ!!
手から離れた瞬間、ブーメランが赤黒い光を纏った。 空気を裂く音が、爆音へと変わる。
ドォォォォォォンッ!!!
着弾した瞬間、大木が真ん中からへし折れ、木っ端微塵に弾け飛んだ。 いや、木だけではない。その後ろにあった岩までもが粉砕されている。 まるで攻城兵器の大砲を撃ち込んだような破壊力だ。
「え……?」
ルナが呆然と立ち尽くす。 その手元に、ブーメランがシュルルッと自動で戻り、ピタリと収まった。
「な、なによこれ……!? 私の力……?」 「いや、ちょっと『アップデートパッチ』を当てといたんだ」
俺とフェンは木陰から姿を現した。
「カ、カイ!? 姉様まで!? いつから見てたのよ!」 「最初からだ。ルナ、すごい特訓してたんだな」 「……見ないでよ!」
ルナは顔を真っ赤にして隠そうとするが、フェンが優しく抱きしめた。
「凄いわルナ。私だってあんな威力、出せないもの」 「……嘘よ。姉様ならできる」 「本当だ。それに、それはルナ専用の武器だ。俺はいじったけど、それを使いこなして当てたのはルナの実力だよ」
俺は近づき、彼女の手にあるブーメランを指差した。
「姉さんとは違う、お前だけの強さがあればいい」
ルナはブーメランを強く握りしめ、俯いて小さな声で呟いた。
「……ありがと。……お兄ちゃん」 「え?」 「な、なんでもないっ!!」
ルナは脱兎のごとく屋敷へと走り去っていった。 尻尾がパタパタと激しく揺れているのが見える。
「ふふ、主様。『お兄ちゃん』ですって」 「……破壊力ありすぎだろ」
俺たちは苦笑しながら、仲良く屋敷へと戻った。
◇ ◇ ◇
翌朝。 食卓には、いつものように(俺が美味しく改良した)朝食が並んでいたが、族長のガルムの表情は曇っていた。
「……何かあったんですか、ガルムさん」
俺が尋ねると、ガルムは重いため息をついて地図を広げた。
「実はな、カイ殿。隣の領地にある『ホルスタインの村』との連絡が、ここ数日途絶えているのだ」
「ホルスタイン……?」
その名前に、俺の脳内検索エンジンが即座に反応した。 ホルスタイン。牛。つまり――。
ま…まさか!?
「牛人族の村だ。彼らとは古くから交易をしていて、特にあちらの特産である『濃厚ミルク』や『チーズ』は、我が里の食糧事情に欠かせないのだ……」
「牛……ミルク……」
俺の脳裏に、豊満な果実を携えた、おおらかなお姉さんたちの姿が浮かんだ。 フェンやルナのような狼系もいいが、牛系女子の包容力も捨てがたい。いや、むしろ男のロマンだ。
「もともと古くから親交もある…だから心配なんだ。」
「定期便が来ないどころか、使者を出しても戻ってこん。何やら不吉な予感がしてな」
ガルムが深刻そうに腕を組む。 フェンが心配そうに口を開いた。
「父上、私たちが様子を見てきましょうか? 主様がいれば、どんな魔物が出ても安心ですし」 「うむ……カイ殿、頼めるだろうか?」
俺は即答した。食い気味に。
「任せてください。交易の復活は、この里の未来(と俺の欲望)に関わる重大事です。すぐに原因を究明してきます」
「おお、なんと心強い! では頼んだぞ!」
「ちなみにですが…その…牛人族の娘さんたちは…上裸にオーバーオールとか着ていませんか…?」「…カイ殿…?」「いえ…何でもありません…」
…
「牛柄のマイクロビキニを着たおっぱいの大きな豊かな体系のお姉さまとかいますか…?」「…カイ殿…?」「いえ…何でもありません…」
三人「…」
三人「…」
三人「…」
こうして俺たちは、新たなヒロイン――もとい、新たなトラブルの待つ『牛人の村』へと向かうことになった。 フェンのようなスレンダー(巨乳)とは違う、ド級の豊満さが待っている予感に、俺の足取りは自然と軽くなっていた。
(続く)
おまけ




