03 色彩の彼方に
ここ、タランチュラ星雲。
遠くから見ていた絵とは違う。
星雲はただの模様じゃない。
光が、渦が、色が、生きている。
赤、青、紫、金
ゴッホの渦巻く夜空が、シャガールの青の祈りが、そのまま宇宙に撒かれたみたいだ。
目で追うだけで胸の奥が鳴る。
圧倒されて、息すらするのを忘れて
「こら、何を見とれている。
女の尻でも見とけ。
観測プローブをさっさと出せ!」
背後から先任士官の怒号。
全然ロマンがない。
けど、こういう人がいないとこの船は回らないのも事実だ。
また怒られた。
また、失敗した。
僕は本当に、同時が苦手だ。
一つのことなら集中して誰にも負けない。
でも、それ以外はさっぱりだ。
プローブ自動投下の手順を取り違えて、補佐AIに訂正され、
その訂正を見落として怒鳴られて、
怒鳴られて焦って、さらに間違えるという悪循環。
「いつになったら一人前になれるんだろうな……」
思わず、声に出てしまった。
視界の端で、星雲がゆっくりと形を変える。
まるで僕を笑っているようにも、励ましてくれているようにも見える。
この美しい星雲やこの空域のどこかに、父が消えた。
僕だけが成長しないわけにはいかない。
深呼吸して、手順を頭の中で組み直す。
今度こそミスしない。
タランチュラ星雲の光を背に受けて、僕は再びコンソールに手を伸ばした。




