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新米士官の秘密  作者: HAL
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02 鋼鉄の覚悟

 出航して七日目。


 この船がただの探査船ではないことを、僕はようやく実感し始めている。


 艦隊は、行方不明者が出たことを、極めて重く受け止めていた。


 この艦の安全係数は、理論上の最高値。

 装甲、防御フィールド、推進力、搭載兵装

 どれを取っても、これ以上は積めないという限界まで、技術が注ぎ込まれている。


 これは「探す船」じゃない。

 これは「連れて帰る船」だ。


 艦長は、元提督だ。

 艦隊司令部の、あの重たい椅子を自分から降りて、こう言ったらしい。


「俺しかいないだろ」


 誰も反論できなかったという。

 誰よりも多くの部下を失い、誰よりも多くを連れ帰った人だからだ。

 上層部は今でも言うそうだ。

 あの時の決断は、正しかった。


 そして、この船を設計し直したのが、タクヤ博士だ。

 父の船の設計にも関わっていた人物で、母とも現場で何度も顔を合わせていたという。


 博士は、初日、僕の前に立ってこう言った。


「今度は違う。

 今度は、絶対に連れて帰れる」

 その声は震えていなかった。

 だからこそ、僕の胸は少しだけ、苦しくなった。


 今日の任務は、重力場観測ユニットの展開だった。

 手順は単純。

 だけど、実際の宇宙は、教本よりはるかに冷たく、速く、重たい。


 僕はミスをした。

 ほんの〇・四秒、操作が遅れた。


 観測ユニットは、乱れた重力潮に引きずられ、予定軌道から外れた。

 警報が鳴り、ブリッジが一瞬、凍りついた。


 艦長の声が響く。


「新人、指示を復唱しろ」


 喉が張りついて、声が震えた。

 それでも僕は、必死で手順を唱え直し、再投入を成功させた。


 作業が終わったあと、叱責はなかった。

 代わりに、艦長はこう言った。


「宇宙は、お前の憧れよりも、少しだけ厳しい。覚えておけ」


 はい、としか言えなかった。


 それでも、その夜。

 整備区画の小さな観測窓から見えた星間雲は、信じられないほど美しかった。


 淡い光が、雲の奥で脈打っている。

 まるで、生きているように。


 あの向こうに、父がいる。


 そう思うと、怖さより先に、胸の奥が熱くなった。


 僕はまだ、失敗ばかりの新米士官だけど。

 この船は、本気で「誰かを帰すため」に作られている。


 だから

 僕も、本気でここにいる。

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