01 出航前夜
名前が二つあるのか、とよく聞かれる。
違う。
ダンが氏で、シンヤが名だ。
だからダン・シンヤ。
だけどみんなは、面白がって僕を「ダンシンヤ」と呼ぶ。
明日、僕は宇宙へ出る。
18歳、新米士官として。
幼い頃、真冬の夜に見上げた星空を、僕は今でも忘れられない。
凍えるほど冷たい空気の中で、星々は赤く、青く、黄色く、恐ろしいほど鮮やかに輝いていた。
淡く流れる銀河は、まるで誰かの吐息のように、静かに空を横切っていた。
あの時から、ずっと夢見ていた。
あの光の中へ行くことを。
父は、深宇宙探査船の艦長だった。
僕が三歳の時、任務の途中で行方不明になった。
生きているのか、死んでいるのか、それさえ分からない。
母も宇宙艦隊に所属している。
今は地上勤務だ。
僕の為に艦を降りた。
最後の通信には、こう残されていた。
二十万光年先、未開の星間雲へ向かう。
母は、今でも言う。
「あなたのお父さんは、生きている」
確信に満ちたその声を、僕は疑えなかった。
そして今、僕はその星間雲へ向かう船に乗る。
この船の任務は、戦うことじゃない。
銀河内の複雑に絡み合った重力場のマップを作ること。
それが完成すれば、人類はもっと安全にワープできる。
もっと遠くへ行ける。
もっと豊かな文明になる。
でも、僕にとっての本当の目的は、たった一つだ。
あの銀河の奥に、父の痕跡が残っていないか。
それを、この目で確かめること。
怖くないと言えば、嘘になる。
宇宙は、美しい。
でも同じくらい、恐ろしい場所だ。
それでも僕は行く。
あの冬の星空に誓ったから。
明日、出航する。




