17 決戦前夜:俺は餌になる
ブリッジ全体が凍りついた。
「シンヤ……今なんと言った?」シズの声が震えていた。
俺は静かに、設計図をホロスクリーンへ投げる。
多次元蜘蛛の巣
二隻の艦がフィールドを展開し、その中央に一点だけ穴を開ける。
そこに俺が立つ。
宇宙服一つで。
「奴らは、俺だけに興味がある」
「なら俺が餌だ」
ハルがすぐに反論した。
「シンヤ、それは…あなたが消滅する可能性が98.3%」
「だから言ってんだろ。俺の出番だ ってな。」
俺は全員へ説明する。
多次元から三次元へ侵入する際、必ず形を持つ瞬間がある。
その僅かな一秒。
そこだけが、唯一つけ入る隙。
二隻が同期し、多次元フィールドを 檻のように収束させる。
ただし
中心の餌が強烈でなければ来ない。
だから俺が立つ。
シズが叫んだ。
「シンヤ! そんなの……死にに行くようなものじゃない!」
「死ぬかもな」
俺は笑った。
「だけど、全員は返す。
シズ、ダンを頼んだ。」
その言葉で、ブリッジがしんと静まる。
シズが顔を伏せる。
涙が落ちる。
「……バカ」
エアロックが開く。
宇宙の冷たさが、まるで刃物のように肌を刺す。
俺は浮かび上がり、二隻の中央、何もない虚空へ立つ。
ただ一人。
暗黒の宇宙に。
俺を見ろ。
ここだ。
そう思考を放つ。
次の瞬間宇宙が歪んだ。
凶暴知性体の思考圧が、津波のように押し寄せた。
美味い……
これは……他の人間とは異質……
欲しい。
その脳を、知識を、概念を喰う。
俺だけに向く飢え。
囲んでいた二隻のAIが同時に叫ぶ。
「ターゲット、個体化開始!」
宇宙が裂け、黒い闇が形を作り始めた。
今だ。
1秒勝負だ。
俺は一歩、奴らへ踏み出す。
光も音も消える。
あるのはただ俺と奴らだけ。
奴らが喰らいつく瞬間を、俺は逆に利用する。
ようこそ。
喰う側が喰われる感覚、教えてやるよ。
俺の脳が燃える。
全身が砕けそうになる。
だが、耐える。
耐え切る!なぜなら。
ここで折れたら、
帰還した仲間たちが二度と笑えなくなるから。
二隻の艦が全力でフィールドを収束させる。
「同調率95……98……!シンヤ、あと0.4秒耐えて!!」
「圧縮完了まで3……2……1!」
奴らの個体が、 完全に檻へ閉じ込められた。
だが同時に俺の意識が、ふっと消えた。
身体が弾け飛ぶような衝撃。
宇宙に放り出される感覚。
そして最後に聞こえたのは、シズの叫びだった。
「シンヤぁああああああ!!!」




