11 高次元知性の宣告
守護者
『お前は、選ばれた。呼ばれた存在だ。』
声ではない。
脳に直接、焼き付くように流れ込んでくる。
『われらは、お前を待っていた。
ここでお前たちを再教育する。』
再教育?
その言葉が意味するものを理解する前に、さらに何かが押し寄せた。
『この先には、お前たちの文明では太刀打ちできない凶暴な知性体がいる。
思考だけで、お前たちなど容易く消し去るだろう。』
凶暴な知性体……
支配下……?
そんな概念が頭に浮かびかけた瞬間、それは僕の思考そのものに触れた。
『ではテストしよう。
お前の脳域を整理する。
限界値は……ふむ。ここだ。』
やめ
抵抗の暇すらなく、意識がひっくり返った。
頭が裂ける。
脳が沸騰するように熱く、眼球の奥が爆散しそうだ。
呼吸なんてもう概念として存在しない。
血が逆流する。電流が骨を焼く。
光が弾け、跳ね、宇宙が白いノイズに変わる。
魂だけが肉体から浮き上がっていく。
(……死んだ? 俺……今、死んだのか?)
自分の身体が遠くに見える。
動かない。
ただ苦痛に固まった像として凍結している。
目の前には、ブリッジの仲間たち。
皆、僕を見ているが、誰一人として動けていない。
シズも仙人先任士官も、艦長も。
凍った時間の中で苦悶の表情を浮かべている。
でもその苦しみは、僕が感じているものの欠片ほどもない。
声が再び降ってきた。
『気にするな。これは序の口だ。
お前たちは脆弱だが……まだ、壊れてはいない。』
まるで実験動物に向けるような、冷徹な観察者の声。
『さあ学べ。
これは、第一段階だ。』
「ほれ。」
そのひと言が落ちた瞬間、世界が裏返った。
空気が裂け、音が消え、視界が三層に分割される。
色と形の概念そのものが崩れ、君の思考へ直接、別の層が流れ込んでくる。
30%の思考次元
それは脳の処理では捉えられない領域。
存在の軸 が横にスライドし、君は並行した自分の思考を同時に視る。
胸骨が砕かれるような圧。
体が石化するような硬直。
だがさっきより違う。
痛みそのものが 情報 として読める。
恐怖が別の自分の反応だと理解できる。
意識が三つに分岐して、同時に会話しようとしている。
「よし。
まだ崩壊していないな。
30%でこれだけ持つなら、大したもんじゃ。
……だが あいつら はこの十倍は来るぞ。
思考そのものが弾丸、
意識が爆薬、
存在証明が戦場になる世界じゃ。」
守護者は続ける。
「ゆっくりせい。
いま感じている頭の耳鳴り、胸の軋み、視界の分裂……
全部、【次元負荷】の初期症状じゃ。
耐えられる。
まだいける。」
「では つぎ、45% じゃ。」
世界がまた軋む。
君の思考が歪み、
別の場所で別の自分が息を吸う音が聞こえ、
時間軸がひとつ、巻き戻りはじめる。
彼らは語られる。
「最終の生命体終端種。
おまえらの言葉で言うなら、自己進化を捨てた完成体 じゃ。」
守護者の声は淡々としている。
「おまえ達は成長する。
経験を積み、学び、手探りで未来を作ろうとする。
だがあいつら は違う。
あいつらの進化は
奪い取る ことでしか成立しない。」
彼らは獲物を倒すと、その脳、記憶、思考、知識、感情、
すべてを消費し、吸収し、自己の叡智に書き加える。
創造ではなく略奪。
創作ではなく複製。
誕生ではなく統合。
その繰り返しの果て、彼らはこうなる運命だと守護者は言う。
「いずれ、宇宙にただ一体だけの超知性が残る。
それが 彼らにとっての完成形 じゃ。」
彼らは互いに襲い合い、
思考速度、計算力、認知能力……
そのすべてで殺し合っている。
肉体戦ではない。
精神戦でもない。
純粋な知能の戦争だ。
一秒で十万回の思考試合、
一瞬で千の戦略が崩壊し、
勝者が敗者の知を丸ごと吸い取る。
テレキネシスなど幼児の遊び。
物質を動かすなど、彼らの能力の底にも届かない。
守護者は君に視線を向ける
「おまえの文明は、まだ創造する知性じゃ。
彼らのような奪い続ける知性とは相容れん。
……だがだからこそ、
おまえがここで選ばれた。」
守護者はゆっくりと言葉を続ける。
「この宇宙には、
彼らの進化を止めうる存在が、たった一つある。
それが
自分の外側に未来を作る知性。
つまり、おまえ達のような種族じゃ。」
そして。
「さあ……次の段階を見せよう。
あいつらの本当の姿を。」




