10 呼ぶ声
僕の心に、何かが、語りかけてきた。
言葉というより、震えのような、記憶の底に触れるような感覚。
それは僕の意識の奥底、誰にも触れられたことのない場所を、静かに叩いた。
応えろ。聞こえるだろう。
……誰だ?
体が勝手に強張る。
呼吸が浅くなる。
これは外からの声じゃない。
頭の中の僕が反応している。
ようやく、呼んでくれたな。
は?
まるで、まるで別の「俺」が、ずっとそこにいたかのように。
俺の出番だな。
低い声。
落ち着いていて、どこか懐かしい。
でも確実に、僕自身じゃない。
「……誰だ? お前。」
言葉に出したつもりはない。
でもそれには届いていた。
名乗りはまだ早い。
けど安心しろ。
お前が『感じた』ということは、もう逃げられないってことでもある。
心臓が跳ねた。
あの光は、お前を呼んだ。
そして俺たちは応じた。
僕は震えながら、必死に窓の外の光景に意識を戻そうとする。
でもそれは、静かに笑った。
ようこそだ。
高次元の扉はもう開いている。
「……やっと話せるな、シンヤ。」
その声は、シンヤの内側から響いた。
シンヤは恐怖よりも先に、どこか懐かしさを感じた。
ずっと前から、自分の中にいた気配
それが言葉を持っただけだった。
「誤解すんなよ。
俺は……お前じゃない。
でも、お前の中にいる理由はある。」
彼は語り始める。
「俺は……あっち側の存在だった。
ここで言うところの、食らう奴らの一族だ。」
シンヤの全身に戦慄が走る。
だが声は続けた。
「だけどな。
俺たちの中にも……お前達と同じように、
共存を選んだ者たちがいたんだよ。
喰わずに、奪わずに、生きていこうとしてた。」
ほんの束の間、声は優しい響きを帯びた。
「……仲間だったんだ。
俺にとっての家族みたいなもんだ。」
その瞬間、声が震えた。
記憶を引き裂かれているようだった。
「でもな……暴力には勝てなかった。
肉体ごと喰われるんじゃない。
次元そのものを裂かれて、存在を消されるんだ。」
「……仲間は全員喰われた。
俺は逃げた。
唯一、逃げた。」
後悔でもなく、悲しみでもない。
それは罪に近かった。
「追われながら、俺は次元を渡り続けた。
三次元じゃ隠れられない。
五次元は耐えられない。
四次元が……唯一の安全圏だった。」
「だが……あそこは牢獄だよ。
永遠の今が続く世界。
存在を削られ続ける地獄だった。」
「気づいたら、俺は力を使い果たして……
この世界に墜ちた。」
「お前に……出会った。」
「シンヤ、お前は穴だった。
人間で言うところの 特異点 だ。
意識が伸び、折れ曲がり、捻れ、
俺が隠れるには最高の形だった。」
「だから俺は……
お前の内側に逃げ込んだ。
それが、お前の不思議な直感の正体だ。」
声が重く沈む。
「シンヤ。
俺とお前は、運命共同体だ。
お前が、この場所に来たことでバレた。
食らう奴らが、俺を見つけた。」
「あいつらとは戦えない。……勝てる相手じゃない。
俺だけじゃ。」
一拍。
「でも、対処はできる。お前と俺でなら。」
「わかったか、シンヤ。
俺達二人で、この世界を守るんだ。」




