09 緊急信号
もう半年過ぎた、いつもの地図作り、ほんと地道な作業だよ。
仕事はもう、目を瞑ってもできるよ。
手が自然に動くんだよ、まあ慣れという訓練だよ。
今日は休暇。
暇だ部屋にいても仕方ないので、ラウンジに来ている。
ここには、お目当てがあるのよ。
色々な人種が食事したり、雑談したり、恋人と語り合ったり。
熱いな、あそこは。
僕は定番の席、ラウンジの窓際。
目の前には、宇宙が広がっている。
永遠に続く光。
無限の時間の表現。
今の僕は、宇宙の時空の点に過ぎない。
前も後ろも、別の時間が流れている。
ここに来るとなんか、ワクワクが止まらない。
相変わらず、星々は美しい。
惚れ惚れする。
あの、星には、未知の生命体がいるのだろうか。
言語がわかるレベルだろうか。 ワープのレベルだろうか。
ひょっとして、異世界もの定番、中世ヨーロッパ、騎士とか貴族とかお姫様とか。
ひとり、ニヤニヤと妄想している。
シズは、彼が来ていることは、知っている。
来た時から、目の端で追っている。
「鏡見た方がいいわよ。気味悪い。
窓を見て呆けているあんたは、ここにいる中で一番の変態だよ。
窓がなんでいいのかね?」
相変わらず、ニヤニヤしている彼。
ん?この感覚はなんだろう、ただただ眺めているだけで、心がざわつきだす。
……?
おや、さっき、光が点滅しなかったか?
あそこだ……。
光……消えた……光……
まさか、モールス信号か?
「ブリッジ、至急連絡。緊急回線オープン。」
無線越しに先任士官の声が響く。
「座標34、マーク8、+5度補正。確認願います。
光の点滅、モールスではないかと?」
僕が立ち上がろうとした瞬間、横から低い声がかぶさる。
「……やっと、私の暇な時間を邪魔してくれるのね。」
シズは窓の外を見つめ、眉をひそめる。
その目は冷静そのものだが、体の微かな緊張から、内心は既に反応していることがわかる。
「点滅……モールス、か。」
僕の呟きに、シズは小さく頷いた。
「確認、私が先に動く。
あなたは、指示を待ちなさい。」
普段の勝気な彼女とは違う、ブリッジ上のプロフェッショナルな顔。
僕はその横顔を見つめながら、自分も覚悟を決める。
休暇の静けさは、あっという間に引き裂かれた。
窓の外の光モールス信号かもしれない点滅を、ブリッジから確認する。
「これより先には入るな。戻れなくなる。」
艦長の声が緊張を帯びて響く。
簡潔だ。
だが、言葉の重みが全員の胸を打つ。
シズは眉をひそめ、無言でモニターを凝視する。
普段の勝気さは消え、冷徹な判断者の顔に変わる。
「了解……座標をマーク、周囲警戒。異常信号を解析開始。」
僕は手が少し震えているのに気づく。
休暇気分は一瞬で吹き飛び、
宇宙の無限の美しさと同時に、無慈悲な危険も肌で感じる。
ブリッジの空気は、静かだが鋭く張り詰めている。
誰も声を上げず、ただ目の前のスクリーンと窓の外の光に集中している。
「この先……本当に、何があるんだろう。」
僕の心の声は小さく震えるが、シズは一瞥もくれず、解析作業に没頭する。
守られるべきなのは、僕ではなく任務そのものだと、無言の圧力で教えてくれる。
十九万光年先の光が、僕たちの進む道の危険と美しさを、静かに照らしている。
窓の外、無限に広がる宇宙が、静かに僕たちを試しているようだった。
あらゆるプローブを出して観測するも、宇宙は異常ではない
物理的には、何も問題はないという結果が出た。
なら、これは……何だ。
僕は艦の窓から、目の前に広がる宇宙をじっと眺めていた。
光の向こう、星間の空間。静かな美しさに、ざわざわする感覚が肌を泡立たせる。
皆、同じ感覚を抱いているのがわかる。
ブリッジの空気が、微妙に震えている。
そして、突然
「停止します」
シズ少尉の声が響いた。
その指示は、艦長権限を逸脱していた。
「危険です。
これより先は……高次元思考波に満ちています。
.......(これを言えば 人間でいられなくなる。)
心が焼けるレベルがこの空域に満ちています。」
ブリッジの全員が、一瞬息を飲む。
物理的には安全それでも、何かが違う。
目に見えず、触れることもできない波動が、確かに艦を包んでいる。
艦内のモニターには異常なし。
しかし、感覚は決して嘘をつかない
この先には、未知が待ち構えているのだと、皆の心が一斉に告げていた。




