4)ので、義妹のところに逃げました
シャルはすぐに返事をくれました。
その返事には翌日迎えの馬車を向かわせるから用意しておくように書いてありました。
旦那様と顔を合わせないよう絶賛部屋に引きこもり中のわたしに、旦那様にきちんとお伝えする勇気が出るはずもなく。一晩かけて手紙を書きました。
旦那様には感謝していること。でももう、自分の気持ちをごまかせないこと。もう彼の前には現れないこと。最後に、ごめんなさいと謝辞を書いた手紙。
その手紙を執事に預け、旦那様が留守の間に迎えに来てくれた馬車に乗りました。
使用人には「本家に遊びに行く」と嘘をついてしまいました。善良な彼らはわたしの嘘を信じ、笑顔で送り出してくれました。シャルと食べるようにと、お菓子まで用意して。
色々な意味でズキズキと痛む胸に手をあて、わたしはシャルの待つハワード邸に向かったのでした。
◇◇◇
お屋敷に着くと、わたしはすぐにお風呂に連れていかれました。まだ日も高いのに、です。馬車で来たと言っても、旅行してきたわけでもないのです。びっくりしている内にあたたかなお湯に浸けられ、もこもこの可愛らしい寝間着を着せられ、これまた可愛らしいお部屋のふわふわのベッドにご招待されました。
そこにはわたしと同じもこもこの寝間着を着た、同じく入浴済みのシャル。ベッドの周りには色とりどりのプチスイーツと紅茶セット。
「これは一体…」
思わずつぶやいたわたしに、シャルはにっこりと笑いました。
「パジャマパーティーよ!かなしい時には、あたたかいものとあまいもの、それからなんでも話せるしんゆうが必要なの。さあ、いったい何があったのか教えてちょうだい」
そう言ってわたしの手を握る彼女の手は、いつかと同じく温かくて、わたしはぽつりぽつりと自分の気持ちを話したのでした。
◇◇◇
「メイ、大丈夫よ!わたくしの好きな小説では、離縁したあとに運命のであいがあったり、実はずっとヒロインのことを想っていた殿方がさっそうと迎えにあらわれるのよ。他のおんなのことを想いつづけるお兄さまよりよっぽどすてきな殿方と、きっとしあわせになれるわ」
しばらくは旦那様のことを忘れられないだろうと思いつつ、シャルが一生懸命励まそうとしてくれているのが心から嬉しくて、「ありがとう…わたし、幸せになるわ」と彼女を抱きしめました。
小さなシャルの体は小さく震えているのに気が付かないふりをして「ねえシャル、義姉妹じゃなくなっても、仲良くしてくれるかしら」と聞くと彼女は、「もちろんよ。メイがいやって言っても遊びに行きますからね」と言って抱きしめ返してくれたのでした。
◇◇◇
「一晩じゅうお話ししましょうね」と笑っていた小さな淑女の体はやっぱり年相応でした。
途中から王都の新しいスイーツやシャルのお気に入りの小説、流行りのドレスの形が似合うかどうかなど、いつものお茶会のような話題に移り、だんだんと話し方がのんびりとしてきたと思ったころ、彼女はこてんと夢の世界に入っていきました。
その絹のような髪の毛をゆっくりと撫でながら、考えるのはやっぱり旦那様のことで。
もうお帰りになったかしら。今日のお仕事も大変だったでしょうに、わたしの手紙で煩わせていないといいけれど。ああでも、離縁となると手続きも煩雑だろうから、ご迷惑をかけてしまうわね。そもそも旦那様はどうしてこの結婚を容認したのかしら。他に想い人がいるのに。そもそもその想い人って、どなたなのかしら。
そんなことをとりとめなく考えていると、遠慮がちなノックの音がしました。シャルの髪をなでていた手を止め、彼女を起こさないようにそうっと扉に近づいてした返事に応えた声に、わたしは息を止めるほどびっくりしました。
「メイ、私だ」
なんと、今頃邸でくつろいでいるかしらなどと考えていた、正にその旦那様の声だったのです。