おまけ 視点とジャンルの関係
小説を書くうえで避けて通れないのが、「視点」という選択です。
同じ物語でも、どの視点で描くかによって――
読者の「読み心地」「没入感」「読後感」は、まったく違うものになります。
それほどに重要な“視点・物語の窓”。
まずは、その代表的な3つの視点を整理してみましょう。
◆ 三人称一元視点
・特定のキャラに寄り添う。
・内面も外面も描けるが、他のキャラの頭の中は描かない。
・読者は「そのキャラと一緒に考える」感覚になれる。
⇒一人称の没入感と、三人称の客観性をバランスよく持つ。
現代エンタメ小説の王道。
◆ 神視点(全知視点)
・誰の内心でも未来でも描ける。作者=神。
・群像劇や歴史大河に便利。
・ただし「この人の心もあの人の心も…」と何でも見せすぎると、緊張感が薄れる。
⇒世界の全体像を見せる力は強力だが、謎解きの“フェアさ”は壊れやすい。
◆ 一人称
・語り手本人の「私」「俺」で語る。
・没入感が強いが、体験したことしか描けない。
・嘘や勘違いを混ぜられるので、トリックとの相性は抜群。
⇒「語り手をどこまで信用していいのか?」という揺さぶりも武器になる。
◆ ミステリーと視点
さて、このエッセイは“推理小説”の話です。
だから一番大事なのは――視点とフェアプレイの関係です。
・王道は「一人称」か「三人称一元」
→ 探偵と読者が「同じ条件」で推理できるから。
・神視点は要注意
→ 読者だけが余計な情報を知ってしまうと、フェアプレイ原則が壊れる。
→ 実際、新人賞では「神視点は即落とす」という審査員の話もある。
・客観カメラ視点
→ 映像的で雰囲気は出るけれど、謎解きの「手がかり提示」が難しくなる。
【結論】
ミステリーで視点を選ぶなら、一人称 or 三人称一元が最も安全で強い。
神視点はほぼ地雷。
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◆ おまけのおまけ:ジャンル別の視点相性
◎ホラー
・一人称 → 没入感。暗闇の物音が「自分の体験」になる。
・三人称客観 → 感情を排した淡々描写が逆に不気味。
・神視点 → 「この先で死ぬ」と予告することで強いサスペンス。
⇒恐怖は「情報の制限」から生まれる。一人称と客観は特に効果的。
◎ファンタジー
・一人称 → 異世界転生などで、読者の分身としての没入感。
・三人称一元 → 王道英雄譚。キャラの内面と世界描写を両立できる。
・神視点 → 大河叙事詩や群像劇で国や歴史を描くのに有効。
⇒「広い世界を見せたいか」「主人公と一緒に歩かせたいか」で視点を決める。
◎ラブコメ
・一人称 → 主人公のツッコミと心の声が笑いを生む。
・三人称一元 → 相手の仕草や微妙な心理を丁寧に描ける。
・神視点 → 登場人物全員の恋心を俯瞰でき、すれ違いがもどかしく面白い。
⇒ラブコメは「勘違い」と「心の声」で動く。
どの視点を選ぶかで笑いの質が変わる。
◎人間ドラマ
・一人称 → 苦悩や葛藤を深く描ける。
・三人称一元 → 内面と行動のギャップを浮かび上がらせる。
・神視点 → 複数人物の思惑を絡ませ、社会や家族の縮図を作れる。
⇒「個人の心を掘るのか」「人間関係の網を描くのか」で最適解が変わる。
【 まとめ】
どんなに構成が巧みで、トリックが精緻で、キャラクターが魅力的でも――
読者を「気持ちよく」させられなければ、人は最後まで読み続けてはくれません。
・その“気持ちよさ”を決定づける大きな要素のひとつが「視点」です。
・ミステリーなら、フェアプレイを守れる一人称・三人称一元。
・ホラーなら、没入を極める一人称や、不気味さを増す客観カメラ。
・ファンタジーなら、世界を広げる神視点や、英雄譚を支える三人称一元。
・ラブコメなら、勘違いを笑いに変える一人称や、相互の心理を描く三人称。
――ジャンルごとに「最も効果を発揮する視点」は異なります。
大事なのは、ジャンルに合った視点を選び、物語と読者の相性を最高に整えること。
そのベストマッチこそが、作品を“ただ良いもの”から、“気持ちよく読み続けられるもの”へと引き上げてくれるのです。