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第3章 その相棒、事件を動かせますか?

――無自覚な“ひと言”が、奇跡を呼び寄せる。


【1】“推理の神様”は、ポンコツのひと言から降りてくる


推理小説において、探偵と並んで事件に関わる“バディ”という存在がいます。


警察モノなら相棒、私立探偵なら助手、学生探偵なら親友ポジション。

気難しい探偵の隣で、要領が悪かったり、よく喋ったり、「なんで殺したんですかぁ〜?」と空気を読まずに質問するような、あの“うるさいけど憎めない”系の人。


――いますよね。そして、めちゃくちゃ大事なんです、こういう人。


一見すると、事件解決にまったく貢献していないように見える。

むしろ足を引っ張ってすらいる。

だけど私は、こう信じています。


「本当に良いバディとは、“推理の神様”を呼び出す存在である」


たとえば、主人公が悩みに悩んで、壁に向かって沈黙している。

そこへバディがチュッパチャプスを舐めながら近づいてきて、こう言う。


「え? 先輩、プリンって混ぜて食べる派なんですか? うわ、変わってますねぇ~」


――その何気ない一言が、「混ぜてない=底に沈んだ毒」という着想に繋がり、

ロジックが一気に駆け出す……!


こういうの、たまりませんよね。


バディの言葉や行動が、探偵の思考を“ブースト”する。

それが“相棒もの”の醍醐味であり、美学です。


そして大事なのは、バディ本人がそのことに気づいていないこと。

「オレのおかげで解決したな!」なんて自覚されると、急にダサくなる。


本人はただのほほんと、「え? 僕、なんか言った?」という顔でいてくれた方が、

読者はこう思うのです。


「このポンコツがいなかったら、事件は解けてなかったんだ」


──この“片想い的な相棒関係”、私は本当に好きなんです。




【2】ただ隣にいるだけでは、“バディ”とは呼べない


……と、ここまでバディ愛を語ってきた私ですが、ちょっとだけ厳しいことも言わせてください。


推理小説に登場する“バディ”には、いろんなパターンがあります。


・ドジっ子で場を和ませる存在

・ギャグ担当として笑いを担う存在

・暴走しがちな探偵を止めるブレーキ役

・あるいは、読者を惑わす“ミスリード要員”


それらの役割ももちろん意味はあります。

でも、それだけじゃ足りないんです。


重要なのは――


バディが、「事件解決の決定打」を与えているか?

そこが、ただ“隣に立ってる人”と、“物語を動かす存在”との決定的な違いです。


どれほど愛されキャラでも、事件のロジックに関与できていないのなら、

「このコンビ、必要だった?」と読者に思われてしまう。


さらに言えば――


有能な探偵になればなるほど、

ポンコツなバディが事件に貢献する余地は、ほとんどなくなる。


それでも、その“たったひと言”の居場所を、物語の中に用意できるか?


それが問われるんです。


バディの何気ない言葉や行動が、探偵の視点を切り替える。

その瞬間を、いかに自然に、そして説得力をもって描けるか?


もし読者が「いや、それくらい探偵が気づけよ」と思ってしまったら――

そのコンビは、作者の“独りよがり”に見えてしまうかもしれません。


だったら、最初からバディなんて出さずに、

金田一耕助やコロンボのように、探偵ひとりで事件を解けばいい。


それでも、あえてバディを出すというのなら――

そこには、「他者の視点が必要だ」という物語上の必然性と、

推理の本線とは異なる**“創作のひと捻り”に、労力を注ぐ覚悟**が求められます。


だから私は、こう考えます。


バディとは、“奇跡の必然”を呼び込む存在である。

そして、有能な探偵とは――

その奇跡の舞台を、ちゃんとバディに用意してあげられる存在なのだ。




【3】“自然なヒント”を書くのは、ミステリ界の錬金術


……そして、最後にひとつ、創り手としての本音を言わせてください。


この“無自覚なヒント”を考えて、ポンコツなバディに自然に言わせることが、もう本当に難しい。


・探偵がスルーしそうな盲点で

・読者は「おおっ」と思える絶妙さで

・バディが自然に言いそうなセリフで

・伏線っぽすぎず、でも効果的で……


……って、どこの神業ですか。


一歩間違えれば、「いや探偵、そこ気づけよ」ってツッコまれ、

逆にわかりやすすぎると「作者の駒でしょ」とバレる。

そのギリギリのラインで、“自然”と“伏線”を両立させるって――

もう、読者との神経戦なんですよ。


つまりこれは、

読者にとっては何気ないバディのひと言なのに、探偵だけがそこから閃く――

そんな状況をいかに“自然に”描くかという、

まさに、ミステリ界の錬金術のような作業なんです。


――ここで、正直に告白します。


・思いついたときは、ひとりでガッツポーズ。

・浮かばないときは、冷蔵庫を開けてプリンの蓋をそっと開け、

 下に皿もないのに、逆さにして振り続けます。

 ……もちろん、やっぱり落ちてきませんが。(笑)


でも、それでも書きたいんです。


なぜなら、そんな“奇跡のような作品”が書けたとき、

「ああ、このバディ、生きてる……」って、実感できるし、

それが、読者の心に最も深く刺さる瞬間になると、信じているから……。


バディの何気ないひと言が、事件を、探偵を、そして物語を動かす。

その瞬間こそが、作り手としての自分自身が、物語に救われる瞬間なのです。



さて――


ここまで“バディという存在”の意味を語ってきましたが、

どれほどキャラが活きていても、事件そのものが偶然の積み重ねでできていたら、すべてが台無しです。


次の章では、ついに本題の核心へ。

**「偶然ではなく、必然で成立する殺人事件とは何か?」**という、物語構造の“核”に迫ります。

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