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第1章 フェアでなければ、推理にならない

――まず最初に言わせてください!!


犯人のいない推理小説の切なさは、プリンを逆さにして、何度振っても落ちてこないあの感じ……いや、これじゃあ、伝わらないか。(笑)


毒殺オチの密室トリック、あるいはラストで「実は自殺でした」なんて言われた日には、もう本を閉じながら、なんともいえない空虚感に包まれてしまいます。


「え、じゃあ今まで一生懸命、誰が犯人か考えてた自分ってなに……?」

という、ちょっと切ない気分になっちゃうんです。


推理小説って、そもそも読者と作者のフェアな頭脳戦だと思うんです。


「さて、あなたはこの手がかりで、真相にたどり着けるかな?」と作者が挑み、

読者は「よし、推理してみようじゃないの!」と構える。


読者に勝負を挑むなら、ちゃんと、納得できるカードを配ってからにしてくれと。

推理小説において、読者は「情報を共有したパートナー」であって、

あまりに突飛な結末とかで、とにかく最後に驚かせればいいものじゃないんです。




【1】空間の不可能性


推理小説の魅力といえば、やっぱり“どう考えても不可能”な状況。

中でも、特に有名で心をくすぐられるのが――そう、「密室殺人」。


「こんな状況、どうやって犯行が可能なの!?」と、読者の脳をフル回転させる。

それこそが、“空間の不可能性”が持つ真骨頂です。


特に納得いかないのが、「密室殺人」と銘打っておきながら――死因が毒というパターンです。


毒を飲ませておいて、あとは被害者が自分で歩いて密室に入り、ドアを施錠。

で、しばらくして死んでました――って。


……いや、それって「密室」じゃなくて、**ただの“部屋で死んだ人”**じゃないですか?


しかも、ラストで探偵がドヤ顔で「これは自殺でした」とか言い出した日には、

読者としてはもう、肩すかしもいいところです。


まあ、タイトルに“殺人”とは書いてなかったけど……

……いや、そういう問題じゃないし!


理想の展開は、やっぱりこうです。

犯人が密室の中で、自分の手で刺すなり、首を絞めるなりして、

それでいて――どうやって部屋から消えたのか、まるでわからない。


そんな“物理的に不可能”に見える状況にこそ、

読者は「よし、解いてやる!」と燃えるんです。


……なのに、


「どうです不可能でしょう。だってこれ、自殺ですから!」


なんて展開が来た日には、肩から力が抜けますよ。


推理って、そういうことじゃない。


驚かせてくれるのは嬉しい。でも、こっちは“解きたい”んです。


お願いだから――“推理させてくれ”と。



■私の理想の密室トリックは――

たとえば、こんなシーンです。


夜。リビングで数人と談笑していた被害者が、

「じゃあ、そろそろ寝るよ」と笑いながら立ち上がり、

みんなの目の前で、自室のドアを開けて中へ入っていく。


ドアが閉まり、被害者が一人で部屋に入ったことを、全員が確認した。

直後――**カチッ。**内側から鍵をかける音。

それを、全員が耳にしていた。


その後、出入りはゼロ。

誰ひとり部屋に近づいていない。


しかし、10分後。

突然、部屋の中から――叫び声。


主人公がドアを蹴破って駆け込む。


椅子に座ったまま、胸を一突きされて絶命している被害者。


ドアも窓も、ぴたりと施錠。

凶器は見当たらず、侵入・脱出の痕跡も一切なし。


……はい、来ました。“完全な密室”。


こういうのに、私はゾクゾクするんです。


……で、ちょっと試しに、これをAIに聞いてみたんですよ。


「この状況、どうやって殺せると思いますか?」って。


返ってきた答えが、こちら。


・椅子の背もたれにバネ仕掛けのナイフを仕込んで、もたれた瞬間に発動

・天井からナイフを吊り下げ、タイマーで落下 → 排水溝に繋いだワイヤーで回収


……いやいやいや、『名探偵マリオメーカー』かよ。


で、「それって読者、納得しますかね?」と聞いてみたら、AIの答えがこちら。


「とても鋭いご指摘です。確かに納得はしませんね」


……おまえが言うな。(笑)



――だから私は、『空間の不可能性』について、こう決めています。


・犯人は、ちゃんといること。(いなくちゃ、推理にならない)

・密室殺人において毒殺はナシ。(やるなら、物理で勝負して)

・「実は自殺でした」オチはNG。(犯人当てさせる気ゼロは、ちょっと……)


これらは、私の中では――**“最低限のマナー”**です。




【2】時間の不可能性


密室に続いて、推理小説でもう一つの“定番の不可能”といえば――そう、「アリバイ」です。


アリバイ崩しって、本来は超ストイックな頭脳戦だと思うんです。


「絶対にその時間、現場には行けなかったはずの人物が、どうやって犯行を成し遂げたのか?」


この一点に絞って、作者と読者が真正面からぶつかり合う。

緻密な時間管理、行動の検証、証言の重ね合わせ――一手ごとに知恵と根性が試される勝負です。


だからこそ、私は言いたい。

「ちゃんとやってくれ」と。



たとえばですが――


「実は双子でした」とか、「変装で別人がなりすましてました」とか。


……いや、それってもう、アリバイ崩しというより、**“設定で無敵化”**してるだけじゃないですか。


本来、アリバイ崩しの醍醐味って、

「この人は絶対に現場に行けなかったはずなのに、どうやって?」という

“時間と空間の矛盾”を、論理の力でじわじわ突いていく過程にあるはずなんです。


それなのに、ラストで「実は殺したのは、双子の弟でした〜」なんて言われた日には――


「はい出た、最終兵器“設定でぶん殴る”やつ!」


……ってなりますよね?


そこに推理の積み上げなんて、もうない。

ただの“作者の後出しジャンケン”。


フェアプレイじゃないし、読者の思考をナメてる。

はっきり言って――作者、反則負け。即・退場です。



あと、よくあるのがこれです。

電車の時刻表をガッツリ見せておいて――

ラストで「実は、夏祭りの臨時便が出てました!」とか、

「途中で飛行機に乗っちゃいました!」とか。


……いや、ちょっと待って。


じゃあなんで、あんなに時刻表を丁寧に見せてきたのよ!?


読者はページをめくりながら、乗り換えや到着時刻を真剣に追ってたんですよ。

指でページを戻したりして、「この便に乗ったのか……いや待てよ」って、

頭フル回転で読み解いてたのに、


最後に「その電車、使ってません」って――


……そりゃ本も閉じますって。


さらに、「目撃者の証言がウソでした」とか、「実は思い違いでした」とか。

もうここまで来ると――


「どっちなんだい!!(by なかやまきんに君)」

状態です。読者の脳が筋肉痛になります。



そして極めつけが、これ。


アリバイ崩しをしていたのに――


**「実はこの死体、別の場所で殺して運びました」**パターン。


……いやいや、ちょっと待ってくださいよ。


それ、うちの米沢さん(※『相棒』の鑑識)を敵に回してますよ?


血痕の飛び方、死斑の位置、床の擦れ跡、遺体の冷たさ……

鑑識って、魔法じゃなくて“科学と経験”で事件を読み解いてるんです。


それを最後に、「あ、死んだのは別の場所でした〜」なんて言われたら――


米沢さん、眼鏡外して震えます。


で、右京さんが、静かにこう言うわけです。


「あなた、人間として……恥を知りなさい」

「許しませんよ」


……置いてけぼりの読者は、こうなります。


「え、じゃあ今までの鑑識パート、全部ノイズだったの!?」


崩れ落ちますよ、ほんとに。


だってそれ、**ミステリーじゃなくて“イリュージョン”**なんです。

つまり、“謎”じゃなくて、“仕掛けの暴露”で終わっちゃってるんです。


――だから私は、『時間の不可能性』について、こう決めています。


・双子は禁止。(DNAが同じでも、トリックは別だ)

・変装による入れ替わりも禁止。(変装の魔法、使わないで)

・臨時便・裏道・秘密の交通手段、原則NG。(ファンタジーじゃないんだ)

・目撃証言の曖昧さやウソでの誘導もNG。(証言はフェアであれ)

・「別の場所で殺して運んだ」オチも禁止。(鑑識をなめるな。許しませんよ!)


これらは、やっぱり“フェアプレイの基本ルール”だと思うんです。


読者は、ちゃんと頭を使って、論理的に読み解こうとしている。

なのに、あとから“それ言っちゃう!?”みたいな後出しで台無しにされたら……


もう、この作者の作品、次は読まなくていいかなって。


キャラがどんなに良くても、動機がどれだけ深くても。

このルールを破ってしまったら、


私の中では、それはもう“推理小説”じゃありません。


……さて。


次の章では、さらに熱く語らせてもらいます。


「ドローンが飛び交うトリックは、どうなのか問題」について――です。

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