プロローグ
──“読者と対等に戦う気のある推理小説”って、どこ行った?
はじめて推理小説を読んだとき、私は思ったんです。
「これ、めちゃくちゃ面白い……!」って。
誰かが殺されるたびに、「次は誰が!?」「どうやって!?」とページをめくる手が止まらない。
犯人を推理して、証拠を拾い、現場の謎を一つずつ組み立てていく――
すべてがカチッとハマる、あの“理屈で解ける快感”。
現場にいるような没入感。
そして、“余りの出ない数学”みたいなロジックの美しさ。
あの感覚、わかりますよね?
……あなたも、きっと取り憑かれた側だと信じてます。
*
最初の出会いは、ブックオフでまとめ買いした文庫本の中の一冊。
吉村達也『トリック狂殺人事件』でした。
そこから私は完全に沼落ち。
ブックオフが、もはや我が家の書斎に(笑)。
・綾辻行人で「おい、最後どうなってんだよ……!(震)」
・有栖川有栖で「いやそれヒント出てたじゃん!くやしい!」
・島田荘司で「その発想はなかった!!」
・東野圭吾で「ロジックも感情も持ってくるの反則でしょ……」
・伊坂幸太郎で「構成どうなってんの!?ニクい!」
・湊かなえで「いや、後味えぐぅ……でも読んじゃう……」
……ね? わかってくれるでしょ、この感じ。
※ちなみにこの方々は、ハズレのない“信頼と実績のプロ”です。
でもね、読書人生が長くなると……出会っちゃうんですよ。
「ちょ、待てや。それ、推理させる気あった!?」なやつに。
「俺の時間を返せぇぇぇぇぇ!」
……って本をゴミ箱に投げた経験、ありますよね?
私はそこで思ったんです。
「自分が書くなら、まずは“自分が納得できるやつ”を書こう」って。
・読者とガチで勝負する。
・読者をナメない。
・読者を、“ちゃんと”騙す。
このエッセイは、そんな私の「理想の推理小説」を、いったん整理しておこうと思って書いたものです。
書き手としての自戒であり、読者への誓約書でもあります。
もちろん偏ってる。でも、それが“本気のミステリ愛”ってやつでしょ?
「わかる……その気持ち!」って思ったあなた。もう共犯成立です。
次章からは、
「いやその密室、無理ありすぎでしょ!」とか、
「なんでアリバイが“たまたま”成立してんの!?」みたいな話を、
ミステリ愛とツッコミを込めてお届けしていきます。
さあ、いきましょう。
このモヤモヤ、ツッコミたかったのは――あなただって、そうでしょう?