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第8話 百剣の巨神、ブリアレオス


【もう十分だ。下がりゃー!!】


アルルカン男爵の甲高い怒号が響いた。


イリリアナ皇女を奪還せんと舞台に押し寄せていた円盤獸たちが、潮が引くように後退する。

神社を囲む異次元の壁まで、統率された動きで退いた。


【役に立たぬ雑魚どもとはいえ、これ以上の兵力の浪費は目に余る! かくなる上は、麿自ら打って出るまで!!】


金属を引き裂くようなキーンキーンという耳障りな音が響く。

巨大円盤の底部に刻まれた、アルルカン家の紋章に切れ目が走った。


蓮の花弁のように開いた口から、ゆっくりと落下するのは、

高さ十七メートルほどの、赤黒い蛹。


石畳に激突するかと思った瞬間、蛹の底部が裂けた。

コンパスのような軸足と、イナゴの脚を掛け合わせた奇怪なフォルムが、大地を踏みしめる。


「は、なんだ……思ったより小さいじゃねーか!」


誰かが、震える声で言った。

賛同する者は、いなかった。


それもそのはず。

円盤の母艦が投下した金属の蛹は、サイズこそ通常の円盤の二倍程度。

だが、その機体から放たれる圧倒的な存在感は、まるで赤黒い奈落の穴。


目の前に広がる虚無が、ゆっくりと口を開けていく。

その絶望を前に、笑える者などいない。


「気をつけて、あかり! すごい気配だ!」

「うん……さっきから、ゲームのボスのテーマが頭ん中で鳴りっぱなしだよ」


あかりとりんが、武器を握り直す。

イリアは可憐な顔を青ざめさせ、震える唇で叫んだ。


「アルルカン……なんという見下げ果てた男! 鬼巧神イクス・マキーナは、オルゴン王たちからの贈り物。惑星を守るための御神機を、侵略に使うなど……!!」


その言葉に応えるかのように、舞台の目の前に浮かぶアルルカン男爵の立体映像が滑る。

後方へと漂いながら、頭部だけを残して機械の蛹へと融合した。


【くははは、オルゴン王など迷信の産物。鬼巧神イクス・マキーナも道具に過ぎぬ! そのことが分かっておられなかった故、先帝はーー】


ーーチュドーンッ!!


台詞の途中で、あかりの奇襲が炸裂。

マギーマイトの杖から放たれた閃光が、赤黒い装甲板にさくらんぼ色の爆発を起こす。


乱れ舞う花吹雪の中、神の剣を手にした少女が駆けた。


ーー深雷。


鹿島神刀流秘伝の歩法は、風より速く、影よりも静か。

さらに、マギーマイトの花びらには通常のセンサーを遮断する力がある。


機械兵器にとって、防御不可能なはずの連携。


しかしーー


ーーギンッ!


巨大な蛹の殻が一部開き、湾曲した刃へと変じた。

その一閃が、青髪の少女の剣を弾き返す。


「くっ……ならばっ!!」


りんは止まらない。

この相手に怯めば、死しかないことを本能で悟っている。


鹿島神刀流・嵐風あらし太刀たち


嵐雲を裂く閃電のごとき連続攻撃が、敵をみじん切りにせん、と襲いかかる。


【ーー小賢しや!!】


雷光をまとった斬撃の網が、蜘蛛の糸のようにあっさりと引き裂かれた。


「……ッ!?」


りんの目が、大きく見開かれる。

正中線を境に、蛹の殻が左右へと割れた。

装甲板だと思っていたものは、実は無数の刃を備えた百の腕だったのだ――!


少女は死を覚悟した。


「りんから――離れろ!!」


天城あかりが、友の前に飛び出した。

舞台の上を舞うような、迷いのないステップ。

大気を蹴る足が、深紅の足跡を空中に残す。


その手に握られたワンドの先には、膨れ上がる魔力の塊。

巨大なハンマーのように、それを振り下ろした。


ドンッ!!


衝撃波が炸裂。

地面に固定されていないものが、一斉に浮き上がる。

百剣の巨人もたたらを踏み、数歩後退した。


その刹那、銀色のアルミ缶のような物体が飛来。

巨人が反射的に斬り裂いた、その瞬間。


ーーブワッ!!


弾けるように飛び出したのは、クリーム色のナノマシン雲。

微細な機械の粒子が、巨人の全身を覆い尽くす。


「――逃げてください!」


イリアの援護射撃だ。


ベージュのドレスが変形し、バズーカ砲へと姿を変えた。

次々に放たれる銀色の弾頭が、さらにナノマシンの霧を濃くする。

何層にも重なる機械の網が、巨人を絡め取っていった。


「りん、退こう!」

「う、うん!」


あかりは友の腕を掴み、引っ張り上げる。

だが、二人が一歩目を踏み出すより早く、


【無駄じゃ! 無駄じゃ! 無駄じゃあああ!!】


アルルカン男爵の巨人が、ナノマシンの包囲を引き裂いた。


「ルビーレッド・スクリーン!!」


あかりが叫び、魔力の障壁を張る。

全力を振り絞った防御の魔法。


だが、八階建てのビルに匹敵する巨体は、躊躇なく突撃した。


バキィィィィン!!


魔力の障壁が、一瞬で粉砕される。


ドォォォォォン!!!


凄まじい衝撃が、魔法少女と斬魔剣士を空高く吹き飛ばした――!



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