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第4話 天地に輝く五ツ星


舞台の四方で炸裂する爆発。

何万枚もの色紙が桜吹雪のように舞い降りた。


太鼓の音が観客たちの骨を震わせ、祭囃子に似た軽快なメロディが期待と高揚を掻き立てる。


アラハバキを宿した人形を抱いた女の子は、興奮のあまりウサギのように飛び跳ねた。

「あらあら、こんなに喜んで。ゆみちゃんは本当に五ツ星が好きなのね」

孫の可愛らしさに、ゆみちゃんの祖母は目を細める。


「うん、大好き!」

「じゃあ、五ツ星の中では誰が一番好きなの?」

「もちろん、あかりちゃん! 一番かわいくて、一番元気で……!」


雲のように立ち上るスモークを、巨大アラバッキーの目から放たれたレーザー光が蜜柑色に染め上げた。


『さあ、最初に躍り出たのは五ツ星の一番星! 伝説の始まり、僕らの小さな太陽、天城あかり!』


オレンジのスモークの中から、小さな影が空中でトンボを切りながら飛び出し、アイアンマンばりの三点着地を決める。

短い栗色の髪、少年のように溌剌とした大きな瞳。

弾ける笑顔に、観客たちの心も身体も跳ね上がった。


《これは王道じゃのう。出だしとしては悪くない》


巨大アラバッキーのレーザーの色が変わり、今度はとろけるようなクリーム色に染まる。


乳色の靄の中から、二人目の少女がバレリーナのように滑り出た。

若草色の髪、健康的な褐色の肌。

その優しげな顔立ちは、人間離れした端正さだ。

花びらのような唇を開けば、オペラ歌手顔負けのアカペラが響き渡った。


『あかりちゃんに続くのは、五ツ星の歌姫! 歌えば銀の鈴、喋れば十ヶ国語! フランス帰りの才媛、イリア・チャンドラー・ミンユェ・葛城ちゃんだ!』


「ヒバ、皆サン! 今夜もヨロシクです!」

「「ビバ!イリアちゃん!」」


おっとりと手を振る少女に、観客たちはもろ手を挙げて応える。


《名前がロシアとインドと中国と日本でごちゃ混ぜじゃないか! あと、"ビバ"はイタリア語じゃろ!》


わりと真面目なツッコミをする神様だったがーー。

あいにく、ここには気にする者など、誰もいない。


突然、祭囃子を鋭い竜笛の音が切り裂いた。

それに続くのは、勇壮な尺八の調べ。


天から降る青白い光の中に立つのは、鴉の濡羽色の髪を武者ポニーテールにまとめた小柄な少女。


アイドルらしからぬ、武術の袴を思わせる露出の少ない衣装。

最初の二人とは一線を画す、静かで凛とした佇まい。

腰に下げたのは、黒鞘の日本刀と脇差――。


舞台の四方から、不気味な音楽とともに、燐光を放つ妖怪たちが現れた。

鬼、河童、化け狐にがしゃどくろ。

幼い子供の観客たちが悲鳴を上げる。


《黒く塗ったドローンに、風船を吊り上げておるのじゃな……ユキコの仕業か》


少女の手が刀の柄にかかる。

次の瞬間――銀光が舞台を埋め尽くし、妖怪たちは一筋の煙を残して消え去った。

一呼吸の静寂。そして、爆発的な歓声。


『業界初!サムライ系アイドル! 剣道二段の武闘派!刀を振るえば、僕らの心も真っ二つ! 鹿島リンちゃん!』


《……何が"剣道二段"なものか。神刀流か? 中条流か? あの動きは古流の実戦剣術じゃ。しかも、あの娘、動くものを斬り慣れておるぞ》


鹿島の姓と、あの剣の腕。

偶然とは思えない。


神話の時代から続く腐れ縁――苦手な奴の顔が脳裏をよぎる。

自分アラハバキの祭りを、天津神たちが見逃すはずがない。

いよいよ尖兵を送り込んできたか!!


アラハバキが緊張感に、体を固くする頃、天から下る光の色が!血のような赤に変わる。


檜の板に映る五芒星。

その中心に立つのは、夜を人の形に切り取ったかのような少女。


墨色のドレス、ソックスにパゴダ傘。

身にまとうのは、暴力的なまでのフリルとリボン。

蛇のようなツインテールの下で、驚くほど大きな瞳と黒い唇が妖艶に笑う。


『おお、来た来た! ついに来た! 天上天下に唯一無二! ゴスロリ・ヤンデレ・悪魔崇拝系堕天使アイドル! 僕らのために天国から降りてきた、天使ナターサちゃんだ!!』


《なんじゃ、こやつは! 設定が多すぎて核融合を起こしておるぞ!!》


思わず呻くアラハバキ。

天使ナターサは、魔術のように取り出したマイクを握り、唇をぺろりと舐めた。

そして、聞く者の心を蕩かすような甘い声で言った。


「やあ、大地の闇と炎の女神のお祭りにやってきたファンの皆! ボクに生け贄にしてほしい子は、ちゃんとご飯を食べて、よく寝て、お風呂に入って、歯磨きするんだよ♪」

「はーい!」


アラハバキの依代を抱いたゆみちゃんが、元気よく手を挙げる。

この子は、あのドス黒いアイドルが何を言っているのか、理解しているのだろうか?


いや、それ以前にーー。

こんな劇物を、子供も観ているコンサートに持ち込むな!!

アラハバキは思わず、日本の将来に不安を覚えた。


ナターサの紹介が終わった途端、舞台の周囲で再び爆発が起きる。

四色のレーザーが乱れ飛ぶ中、少女たちは一斉にポーズを決め、高らかに叫んだ。


『あなたの夢のために、只今参上! ボクたち、四人そろって五ツ星!』


《ちょっ待てええええ!!!》


アラハバキは、思わずアラバッキー人形のまま突っ込みを入れてしまった。

突然動き出したぬいぐるみに、ゆみちゃんもびっくりである。


「おばあちゃん、アラバッキーが今、動いたよ!」

「あらあら、説明書には音楽に合わせて動くと書いてあったから、それかしらね?」


よしよし、と宥めるように、ゆみちゃんはアラバッキーの頭を撫でる。

しかし、荒ぶる神の気持ちは、その程度では収まらない。


《なんで四人組で五ツ星なのじゃ! 特盛牛丼を頼んだら並盛が出たようなものじゃないか! 吉◯家なら一揆打ち壊しものじゃぞ! ユキコ、説明せい!!》


「五ツ星の欠番メンバーはミステリー。ファンこそが五人目のメンバーだとか、将来相応しい子が現れた時のために空けてあるとか、いろんな説があるよ」


もちろん、アラハバキの声が聞こえているわけではないが、白鳥雪子は得意げに説明する。


「看板サギみたいなもんだが、インパクトはあるよな」

「だろ? だろ! でも、五ツ星が四人組なのも、今夜までかもね……」

「お前、何か企んでるのか?」

「まあ、それは最後のお楽しみ。ほら、ショーが始まるぞ」


どや顔で笑う悪友に、武司は不安を隠せなかった。

雪子がこんな顔をするのは、大抵何かでかいことを企んでいる時だ。

そして武司の経験から言って、それは八割方、本当にろくでもないことなのだ。


一方、アラハバキは雪子の説明にまったく納得せず、腕を組んでギリギリと怒りを漏らしていた。


《ぐぬぬぬ……ワシの大事な祭に、こんな色物どもを呼んで! こやつらの腕前が見かけ倒しなら、容赦せんぞ!》


気に入らなかった時は、このオタク山師にどんなえげつない祟りをかけてやろうか。

そんなことを考えていたアラハバキだったが――


五ツ星のコンサートが始まった瞬間、黙ってしまった。

いや、沈黙させられたのだ。


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