居残り勉強
上山奈苗は放課後、教室にいた。そしてもう1人、担任の中村がいる。すでに帰りの会は終わり、奈苗以外の生徒はみんな帰っている。だが、奈苗は帰る事ができない。今日のテストの成績が悪く、居残り勉強を命じられたのだ。成績が悪いからだとわかっている。だが、なかなかそれが直らない。直したいと思っているのに。
「今日は居残りね」
「はい・・・」
奈苗は居残り勉強を始めた。中村は教室を出ていった。教室はとても静かだ。今さっきまでの賑やかさがまるで嘘のようだ。だが、明日になればまた賑やかな部屋になるだろう。
「バイバーイ!」
教室の外で声が聞こえた。友人の優子だ。
「バイバーイ・・・」
奈苗は元気がなさそうだ。テストの日はいつも居残り勉強だからだ。そんな事が続き、奈苗はテストやテスト返しが嫌いになってしまった。テスト返しで必ず居残り勉強されるからだ。
「頑張らなくっちゃ」
奈苗は再び居残り勉強を始めた。だが、なかなか進まない。どうしよう。奈苗は悩んでいた。
「また怒られちゃったよ・・・」
今日あったテスト返しの時が頭をよぎる。何度もあって、奈苗はうんざりしている。
それは5限目だった。今日は算数のテスト返しだ。奈苗は緊張していた。点数はどうだろう。また点数が悪かったら、居残りさせられる。
奈苗はテストを取りに行った。中村は厳しい表情だ。また悪い点数だったんだろう。奈苗は予感していた。
「またこんな点数・・・。居残り勉強しなさい!」
「はい・・・」
奈苗は下を向いてしまった。また居残り勉強だ。
席に戻った奈苗は、考えていた。また母、真理恵にも怒られる。どうしよう。それもテストが嫌いになる理由だ。
奈苗は帰って来た時の事を想像した。あまりにも怖い。もう帰りたくない。
「ただいま・・・」
奈苗が玄関にやって来ると、真理恵がやって来た。真理恵は厳しい表情だ。
「テストだったんでしょ? 見せなさい・・・」
奈苗は下を向いている。もう逃げられない。どうしよう。見せるしかない。奈苗は震えていた。
「はい・・・」
奈苗はテストを見せた。それを見て、真理恵は厳しい表情になった。
「こんな点数で・・・。恥ずかしいと思わないの?」
「・・・、はい・・・」
奈苗は下を向いてしまった。どうしよう。また怒られた。
「ごめんなさいと言えないの?」
「・・・、ごめんなさい・・・」
奈苗は泣きそうだった。だが、泣くなと言われている。本当は泣きたいのに。
奈苗はマイナス感情になっていた。だが、やらなければ全く先に進まない。頑張らないと。
「こんな事になるの、嫌だな・・・」
「大丈夫?」
突然、誰かの声が聞こえた。明らかにこの声は中村じゃない。誰だろう。と、そこには1人の幽霊がいた。その幽霊は女の子だ。幽霊だけど、とてもかわいい。友達になれそうだ。
「ううん」
「そう・・・。教えようか?」
幽霊は優しそうだ。まさか、居残り勉強を手伝ってくれるんだろうか? とても嬉しいな。まさか、幽霊が手伝ってくれるとは。奈苗は戸惑っていたが、すぐに引き受けた。
「本当? ありがとう」
すると、幽霊はきめ細やかに奈苗を指導した。見た目は女の子だが、まるで先生のように上手だ。どうしてだろう。
「ここは、こうやってするの」
「ありがとう! すっごくわかりやすい!」
奈苗は感動していた。こんなにできる幽霊がいたとは。でも、どうしてここにいるんだろう。まさか、かつてここにいた子供だろうか?
「そう。ありがとう」
その後はスラスラと居残り勉強が進んだ。こんなに早くできるとは。奈苗は信じられなかった。
数十分後、奈苗は居残り勉強を終えた。いつもは1時間ぐらいかかっていたのに、今回はこんなに早くできた。中村も驚くだろうな。
「ありがとう。全部できた!」
「本当。よかった。じゃあね」
すると、幽霊は消えていった。どこに行ったんだろう。全くわからない。
奈苗は立ち上がり、職員室に向かった。職員室にはまだ中村がいるだろうな。中村は驚くかな?
「さて、出してこよっかな?」
奈苗は教室を出て、職員室に向かった。奈苗は廊下を見渡した。だが、そこにも幽霊はいない。もう廊下からいなくなったんだろうか? それとも、見えなくなったんだろうか?
奈苗は職員室の前にやって来た。そこには中村がいて、ノートパソコンで作業をしていた。
「失礼します」
中村は顔を上げた。そこには奈苗がいる。できたんだろうか? かなり早かったな。
「上山さん、できた?」
「うん」
奈苗はノートを提出した。中村は喜んでいる。こんなに早くできるとは。これは真理恵にも言わないと。
「今度は頑張ってね」
「はい」
奈苗は出入り口に向かった。中村はその後姿をじっと見ている。
「失礼しました」
奈苗は職員室を後にした。早く家に帰らないと。きっと母が心配しているだろう。
帰り道の間、奈苗は気になっていた。あの幽霊の事だ。あの幽霊、優しくてかわいかったな。また会いたいな。どこにいるんだろう。
奈苗は家に帰ってきた。だが、気分が浮かれない。また怒られると思っているからだ。どういう目で迎えるだろう。
「ただいまー」
玄関に入ると、そこには真理恵がいた。だが、いつもの表情だ。どうしたんだろう。奈苗は戸惑っている。
「おかえりー。今日のテストの事、聞いたわよ。今度は頑張ってね」
「うん・・・」
だが、真理恵はある事を思い出している。いつもは明るい表情なのに、どうしたんだろう。
「どうしたの?」
「絵美里ちゃんの事を思い出してね」
絵美里ちゃん? 初めて聞く名前だ。誰だろう。全くわからないな。この近くに住んでいた女の子だろうか?
「どんな子?」
「私の同級生なんだけど、小学校3年生の時に交通事故で亡くなっちゃったの」
こんな子がいたのか。交通事故で亡くなったとか。両親はとても驚いただろうな。そして、泣いただろうな。同級生も泣いただろうな。
「そうなんだ・・・」
奈苗は思った。自分がいつも通っている通学路には、横断歩道を渡る場所がある。そこは信号機も歩道橋もない。とても危ない場所だ。帰り道には気を付けない。こんな子みたいに交通事故で死にたくないな。
「こんな子なんだけどね」
真理恵は1枚の女の子の写真を奈苗に見せた。その子が絵美里だ。それを見て、奈苗は反応した。放課後に居残り勉強を手伝ってくれた幽霊に顔がそっくりなのだ。
「えっ!?」
「どうしたの?」
初めて見せた子なのに、どうしてこんなに反応しているんだろうか? まるで会った事があるかのような反応だ。
「な、何でも・・・」
「言いなさい」
真理恵は優しそうな表情だ。あの幽霊の事、言おうかな?
「放課後、この子に似た幽霊と出会ったの」
「本当?」
それを聞いて、真理恵は驚いた。まさか、あの幽霊は絵美里だろうか? 幽霊になって、今も小学校にいるんだろうか?
「うん」
「まさか、あの子の幽霊かな? あの子、先生になりたいと言ってたんだけどね」
絵美里は両親が教員で、自分も教員になりたいと思っていた。だが、その夢は小学校3年生で終わってしまった。あまりにも突然の出来事で、両親は涙を流したという。それ以来、両親は学校で絵美里が交通事故で亡くなった事を話しているという。もうそんな悲劇が起きないように。
「まさか・・・」
奈苗は思った。あの幽霊が教える事が得意だったのは、教員になるのが夢だったからかな? 少し違うけれど、幽霊になって、その夢を実現したんだろうか?
「どうしたの?」
「あの幽霊、あの子かなと思って」
「そうかもしれないね」
真理恵は思った。やはりあの幽霊は絵美里だったんだな。自分も会ってみたいな。そして、これまでの日々を語り合いたいな。でも、本当に会えるかな?