創造の力
対象より勝る力が無ければ、逆転は不可能に等しい。
故に、俺には圧倒的な力が必要だった。
圧倒的な力に少しでも近づく為、日々修行を積み重ねていたが、そんなものは今日で終わりだ。
修行に充てていた時間は、この力の研究に置き換わる事になるだろう。
自分の特性を理解する時間が俺には必要なのだ。
そういえば、あの少女はどうなったのだろうか。
まあ、あの衝撃で死なない訳が……。
「あれ、生きてんじゃん」
現場に近づいて見れば、少女は上半身を起こし、俺を鋭い眼光で見つめていた。
その様子を見れば、彼女が今どういう気持ちなのか想像は容易い。
きっと、死ねなかったからキレているのだろう。
敵を逆転で倒しつつ、彼女を望みを叶えるという一石二鳥の戦略を即座に思いつき、遂行したがまさか失敗するとは思わなかった。
あずきバーは想像以上に硬い。
うん、いい勉強になった。
「私の服を綺麗にしてくれないか?」
少女はゆっくりと立ち上がり、不服そうな顔で投げかける。
俺は少女の肩に触れ、脳内で元の服のイメージを呼び起こし、服に付着した全ての汚れを取り除いてあげた。
「私の家まで着いてこい。そこで話したい事がある」
少女はそう言って、俺に見向きもせず足を運ぶ。
力をタダで渡したのだから、命令に従うのは当然だと遠回しに言っているかのようだった。
何か重要な情報が得られるのだとしたら、意味はある。
いち早くこの力の研究を進めたいところだが、仕方ない。
話を聞いてみる事にしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふーん、なかなか良い家じゃねーか」
「私が想像した家だからな。良い家になるのは当然だ」
外見はかなり悲惨なものだったが、肝心な室内は過ごしやすそうな雰囲気が漂っている。
モダン風と言うべきだろうか。
物は綺麗に纏まっているし、家具の配置も俺の好みに近い。
「ちなみに、元は何で出来てるんだ?」
「全部その辺に落ちてる石」
俺に託されたこの力は自分と触れた物体に想像した効果が乗る。
なるほど、そういう使い方も出来るのか……。
俺は辺りを見渡しながら、石で出来た柔らかいソファーになんとなく腰を掛ける。
少女は目の前の机に小さい石を二つ置き、俺の横に座った。
「そういえば、君の名前は?」
「メアリア・ミスティ」
「いい名前だね」
「ありがとう。けど、私はこの名前で150年以上は生きてるから、別に何も響かない」
一瞬、何を言っているんだコイツはと思ったが、俺はすぐにその原理を理解した。
「まさかお前、この力で……」
「うん。だから私は永遠に生きることができた。そして、あんたにその力を付与すれば、私は元の年齢に戻って簡単に死ねると思った」
「もしそうなれば、この家も石に元通りだったって訳か」
俺はメアリアが置いた小さい石を一つ手に取り、その中心をじっと見つめる。
「そもそも、なぜそこまで死にたがる」
「私は150年の間、ずっとある物を追い求めてきた。けれど、それはまだ見つかっていない。単純に探し疲れた。ただ、それだけの事」
「じゃあ、俺が変わりに見つけてやる」
「無謀だ。諦めた方が良い」
メアリアは本気の目を俺に向ける。
150年の歴史を見てきたその目は、説得力しか無い。
しかし、俺には妙な自信があった。
この力を使いこなす事が出来れば、探し物を見つけることくらい簡単なはず。
恐らく、メアリアは想像という無限大の力を上手く使いこなせていないだけだ。
「一応聞くが、ある物とは何だ?」
「創造の力。今、あんたが持ってる考える方の想像では無く、創る方の創造」
「その力を手にしてどうする」
「妹を甦らせる」
メアリアは顔を曇らせながら俯く。
俺はその表情ですぐに察した。
「過去に何かあったのか」
「……あまり思い出させないでくれ」
多分、何度聞いても答えは帰ってこない。
きっと、俺の想像以上に重い過去がメアリアの胸の奥底に眠っているのだろう。
「話は以上だ。帰ってもらって構わない」
「いや、話聞くだけ聞いて帰るやつがいるかよ」
俺は二つの石に触れ、石を紅茶の入ったティーカップに作り替える。
想像力さえあれば、ただの石から液体を生み出す事もさえも可能なのだ。
「これは?」
「飲んでみたらわかる」
そうは言ったものの、味は保証できない。何かの手違いで失敗している可能性もある。
故に、俺が最初に毒味を引き受けようとしたが、メアリアは既にティーカップに手を掛け、口へ運んでいた。
「まさか、そん中に毒が入ってると思って、直ぐに飲んだんじゃ無いだろうな」
「美味しい……」
表情は変わらないが、先程までの落ち込んだ様子とは違い、心に笑みが見える。
どうやら、死に急いだ訳では無いらしい。
「何だこの飲み物は! 詳しく教えろ!」
「遠い国の伝統的な飲み物を想像で出力しただけだよ。前に本で見たんだ」
「へぇ」
飲み物の正体は紅茶だが、転生前のあれこれを話すとややこしくなるし、めんどくさい。
だから、適当な嘘で堅めることにしたのだ。
「さて、そろそろ俺にも話をさせて貰おうか」
俺がメアリアについて来たのは、ちゃんと意味がある。
最初は、彼女の要望通り殺そうとした。しかし、よく良く考えれば、勿体のない事だと俺は悟った。
メアリアは生かす――いや、活かすべきだ。
「メアリア、俺の付き人になれ」
「ほう」
「お前の夢は俺が叶える。だから、俺の夢をお前が叶えてくれ」
メアリアは顎に手を当て、なんとも言えない表情を浮かべる。
刹那――家が真っ二つに割れ、綺麗な夜空と共に無数の狼の群れが姿を表した。




