想像とあずきバー
転生してから、11年の月日が流れた。
前世では『天坂礼』として活動していたが、もうその名は無い。
『リヴ・シャンデリア』――それが俺の新しい名だ。
今は母親の『レフト・シャンデリア』、父親の『ライト・シャンデリア』と共に平凡な暮らしを送っている。
だが、それはあくまで表での話。裏では、前世と同じように修行を積み重ねていた。
この世界のありとあらゆる知識を詰め込み、身体能力を向上させる。
効率を考えれば、結局これが最適解なのだ。
とはいえ、修行ばかりしていると栄養素が疎かになる。
栄養素を摂取しないと死ぬ訳では無いが、精神的にも身体的にも悪い影響が生じているのは、過去の経験からして間違いない。
だからこそ、修行の合間に廃村へ出向き、定期的に湧いてくる狼のような動物を殺し続けているのだが、貰える栄養素は日に日に減っていく。
そもそも、一体につき貰える栄養素が極端に少なすぎる。
――感情があり、言葉を発することのできる格のある人物。
より多くの栄養素を得るためには、そんな強者を探し出し、逆転し無ければならない。
かといって、今そんなやつに出くわせば、フルボッコにされるだけだ。
何か力が欲しい。
修行で手に入らないような未知の力が……。
「ちょっくら見に来てみたら、まさかこんな所にガキがいるとはなあ。驚いたぜ」
背後から嫌な足音が聞こえる。
振り向いてみれば、大柄の男が堂々と近づいできていた。
「残念だけど君に構っている暇はないんだ。今日の目的は果たしたし、さっさと帰らせてもらうよ」
「おっと、この俺様がそう簡単に逃がすとでも?」
男がそう言った次の瞬間、俺の周囲を囲むように狼の群れが現れた。
俺が栄養素の糧にしていたあの動物と容姿が一致している。
そこら辺に住み着いている動物だとばかり思い込んでいたが、まさかこの男が生み出していたものだとは思わなかった。
「アルブリム、リタ、パーブル、ノック、ライガ、ヴァルフ、ナハル、グレイブ、スファン、ルーマニア、アガス、フォル、トッポ…………」
何かの呪文でも詠唱し始めたのだろうか。
いや、違う。視線と指を指している方向からして、時計回りに狼一匹一匹の名前を呼んでいるだけだ。
恐らく、順番が男に戻ってくれば一斉に狼が襲っているのだろう。
そうなる前に、ここから逆転する方法を考えるしかない。
まず、この狼は一見強そうに見えて、とてつもなく弱い。
どこか適当に殴ったり蹴れば、一発で成仏するくらい弱い。
しかし、いくら弱い生き物でも、群れを成せば大きな驚異へと生まれ変わる。
ならば、狼の名前を一匹ずつ呼んでいる男を直接叩くしか無いのだが、勝ち目は無いだろう。
筋肉量も体格も俺の上位互換なのだから。
さて、どうしたものか……。
空を飛んで逃げる?
そんなことは出来ない無い。
「……ナイトファウルよ。そのガキを喰らい尽くし、養分にするのだ!」
――終わった。
狼が一斉に駆け、負けを確信したその時、俺の目の前に何かが現れた。
「お前は……」
特徴的な黒い服には見覚えがある。転生した際、俺を覗いていた少女だ。
きっと、走馬灯でも見ているのだろう。
刹那――少女は何も言わずに手を差し伸べる。
俺は思考する間もなく手を掴んだ。
すると、俺の体が少女と共に浮き始める。
「……浮いただと!?」
地で叫ぶ男の声で俺は我に返る。
どうやら、夢では無いらしい。
「私の力が欲しいか?」
少女は空中で冷酷に語りかける。
「嫌と言ったら?」
「無理やりにでもお前に力を授ける。そして、私は落下して死ぬ」
「ほう。その力とやらが、人体に悪影響を及ぼすものだとしたら、君は悪魔だね」
「明確な欠点はない。強いて言うなら、この力を持った者は精神的に追い詰められる事になる」
「分かった。けど、死ぬ前にちゃんと説明書は残していけよ」
少女は少し間を開けて話し出す。
「この力は想像力で出来ている。自分と触れた物に対して脳内で考えた想像が効果として発揮する。これで理解できたかな?」
「ああ、バッチリだ」
その瞬間、少女は俺の手首を強く握りしめた。
形容し難い液体のような何かが体に流れ込んでくる。
何かが全身に回った時、浮遊効果が解け、すぐさま落下していく。
「……くっ、離せ! 死なせろ!」
「死なせてやるよ。アイツを倒した後にな!」
俺は脳内で宙に浮く想像をし、己に付与する。
すると、空中で留まることができた。
やはり、少女の言っていたことは本当だったようだ。
「な、何をする気だ!」
「お前をあずきバーにしてぶっぱなすんだよ!」
はてなマークを浮かべる少女に目もくれず、俺は『全身があずきバー並の硬さになる』という想像を腕から流し入れる。
その後、自分にかけた浮遊を解除し、己にパワーが100倍になる想像を付与する。
そして……。
「オラァァッ……!」
俺は大柄の男に向かって少女を空中からぶん投げた。
その速度は誰の目にも追うことは出来ない。
「何ィィぃぃぃぃぃぃィィ……!」
大柄の男は少女と激突し全身から血を吹き出す。身の回りにいた狼も全て消滅してしまった。
俺は地面に着地し、その威力を見て思った。
これは逆転に使える……と。




