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天才マニピュレーターの逆転殺  作者: アトラ


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1/3

球に打たれ死す

 気がつけば、俺はもう『逆転』に徹するようになっていた。


 なぜ逆転に徹しているのかと聞かれたら、きっとこう答えるだろう。


「逆転でしか得られない栄養素を摂取する為」と。


 この栄養素には、様々な幸福成分が詰まっている。


 幸福成分を摂取すれば身体中の力が抜けて、リラクゼーション効果をもたらしてくれるのだ。


 栄養素の為に逆転をし、逆転の為に精神を削る。


 俺はそんな生活を日々送っていた。


 しかしながら、俺の心はまだ完全なる幸福で満たされていない。


 ――その理由は明白だった。


 ジャンルを『ゲーム』に絞り、栄養素を補っていたからである。


『ゲーム』は、逆転という観点で見れば、どのジャンルよりも効率が良い。


 よって、俺はこう考えた。


 効率が良ければ、栄養素もそれに比例して、より多く摂取出来るのでは無いか――と。


 結果的に俺の考えは間違っていた。


 あまりにも効率が良すぎる故に、逆転の新鮮味が薄れていき、栄養素もそれに比例して取得量が減少していたのだ。


 それでも、俺は賞味期限が切れるこの瞬間を待ち望んでいた。


 俺が裏で作り上げてきた『普通』の人間を『逆転』の道具に仕立て上げる時が来たのだから。


 ◆◇◆◇◆◇◆


『ゲーム』で栄養素を摂取している間、俺はその陰で更なる『逆転』の為に修行を積み重ねてきた。


 とはいえ、大して特別なことはしていない。


 この世に溢れている情報を頭に叩き込み、運動能力を向上させただけである。


 人間が生きることの出来る限られた時間の中で、全てを兼ね備える事は出来ない。


 故に、完璧に近い人間を作るにはこれが最適解なのだ。


 俺の実力はまだ完璧には程遠い。だが、アベレージはとっくのとうに超えている。


 賞味期限が切れ、良い感じに手応えを感じている今……己の実力を試すついでに、栄養素を摂取してやろうという算段だ。


 その舞台となるのは、俺の高校で毎年夏に行われている球技大会である。


 各クラスで決められた種目を事前に割り振り、トーナメント形式で同学年のチームと戦うというシンプルな大会形式に加えて、由緒あるイベントの為、毎年大きな盛り上がりを見せているらしい。


 ちなみに、俺はドッジボールを選択した。


 ――理由は二つある。


 一つ目は、精神的ダメージと物理的ダメージを同時に負わせることができるという点。


 二つ目は、逆転のターゲットとなる人物がドッジボールを選んでいるという情報を事前に仕入れていたからである。


 その人物の名は『未野川大みのかわだい』。


 彼は俺と同じ高校一年生で、驚異的な身体能力と頭脳を持っていることから、天才と謳われている。


 故に、この学校で彼の名を知らない人は居ない。


 いわゆる、有名人と言うやつだ。


 俺は彼の名が知れ渡ってからというもの、彼を打ち負かすことだけを考えて来た。


 そして、今日――その時がきたのだ。


 俺は運動着に着替え、グラウンドで入念な準備運動をする。


 その後、トーナメント表が掲載され、暑い日差しが降り注ぐ中、球技大会が開催された。


 俺のクラスは、長い攻防の末、順調に勝ち上がって行き、良い雰囲気のまま、決勝戦へと駒を進めた。


 まだ『未野川大みのかわだい』には当たっていない。


 だからこそ、確信していた。


 決勝戦は『未野川大みのかわだい』率いるクラスと戦うことになる――と。


 当然、彼が期待を裏切ることは無く、別ブロックでしっかりと勝ち進んできていた。


 こうして迎えた決勝戦。


 俺は今までと同じように、あまり目立たぬよう、さり気なくボールを避け続ける。


 スピーディーな戦いが繰り広げられる中、味方は徐々に減っていき、気がつけば内野には俺一人。


 対して、相手のクラスはかなりの人数が内野に残っている。


 人数不利とはいえ、未野川大みのかわだいさえ倒してしまえば関係ない。


 ……後は逆転するだけだ。


 未野川大みのかわだいが投げる球は正確かつ速い。


 ただ、逆に言えばそれだけと言える。


 彼の動きを観察したところ、彼は人より反射神経が劣っているように見える。


 すなわち、攻撃の主導権を握ることさえ出来れば、勝利は堅い。


 俺のプランは完璧だった。


 が、突如として想定外の事態が訪れる。


(…………ッ!)


 気がつけば、俺は地面に蹲り悶えていた。


 彼が放ったボールが地面を跳ねて、股間に直撃したのだ。


 一度屈むフェイントを入れてしまった事で、下に意識を集中させたのが仇となったのだろう。


 俺の周りから、クスクスと笑い声が聞こえる。


 痛みと悔しさが同時に押し寄せる中、徐々に気が遠のいていく。


 ここから逆転する方法を模索するが、何も思いつかない。


 あまりの痛みに思考が停止してしまっているのだ。


 お、俺の逆転……。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 目を開ければ、見知らぬ白い天井が姿を現した。


 恐らく、気を失って病院に運ばれてしまったのだろう。


 俺は一度、体を起こそうとする。しかし、体が言うことを聞いてくれない。


 まるで、金縛りにあったような感覚だ。


 余程、重体なのだろうか。


 あまり状況が呑み込めずにいると、ガチャっと扉が開く音がした。


 入ってきたのは、黒い服を纏った一人の少女だった。


 彼女は何も言わず、ベッドの横から俺をじっと見つめている。


 絶妙な気味の悪さを感じつつも、俺が今出来ることは無い。


 強いていえば、目線を合わせる事くらいだ。


 俺はしばらくアイコンタクトを取り続ける。


 すると、少女は霧となってその場から姿を消してしまった。


 その瞬間、不意に目眩が訪れる。恐らく、幻覚でも見ていたのだろう。


 今は安静にしていろという自分自身へのメッセージを受け、俺はゆっくりと目を閉ざし深い眠りについたのだった。


 その後、俺は知ることになる。


 生後数ヶ月の赤ちゃんに転生したのだと……。






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