第17話 一位が出勤しなかった
優奈の家のリビングのソファに座り、優奈の帰りを待っている。
迎えに行こうかと言ったが、万美の傍に居てあげてと断れた。
自分の近くでも色々と問題が起こっているのに人を気遣う事ができるなんて本当に素敵だな。まぁ、それと比例するように変な部分も多いが。
ズボンのポケットからスマホを取り出して、ホーム画面で時間を確認する。
0時50分。
優奈が働いているキャバクラの営業時間は0時までだ。もう少ししたら帰って来るはず。
ソファから立ち上がり、万美が寝ている部屋のドアを少し開ける。
万美は布団ですやすやと寝ている。これだけリラックスして寝れているのはいいことだ。それだけ優奈の事を信頼しているのだろう。
玄関の方から鍵を開けようとする音が聞こえる。
俺はドアをゆっくり閉めて、玄関へ向かう。
ようやく帰って来たか。お疲れ様だな。
玄関のドアが開き、ビールの缶が入ったコンビニのレジ袋を手に持つ、優奈が入って来た。
「ただいま。あっり」
優奈は普段と同じテンションだ。よくそのテンションを保てるな。その秘訣を教えて欲しい。いや、もしかしたら、ただのから元気の恐れもあるな。結構無茶するタイプだし。
「おかえり」
「おかえりのチューはしてくれないの?」
優奈は目を閉じて、口を近づけてくる。
「しねぇよ。彼氏じゃねぇし」
「え? もううちに居るのは彼氏と同じじゃん」
「違うわ。どんな理論だよ。それにドアを閉めろ」
「ノリ悪い」
優奈は不機嫌そうにドアを閉めた。
「ノリとかじゃねぇよ」
「はいはい。ちょっと、ソファに座らせて」
優奈はヒールを脱いで、家に上がり、リビングに向かう。
「話を流すな」
フリーダム。自由すぎだろ。
俺は玄関の鍵を閉めてから、リビングへ行く。
優奈はソファに座り、テーブルの上にビールの缶が入ったコンビニのレジ袋を置いた。
「あー終わった」
「人の話聞いてます?」
「あのさ。聞いて欲しい事があるんだけど聞い
て」
優奈はソファを叩き、隣に座るように催促してきた。
「俺の話は無視か」
仕方なく、優奈の隣に座った。
「あのね。最近一位になった子が居るって話したじゃん」
「……言ってたな」
無視ね。これはもう話しに付き合うしかない。本当に都合のいい耳をしているな。
「その子がね。今日出勤しなかったのよ」
「連絡とかは?」
「店の人がしたけど電話に出なかったの」
「飛んだのか?」
「いや、あれだけの売り上げで飛ぶはずないと思うんだけど」
優奈の言うとおりだな。飛ぶ理由は仕事や人間関係で馴染めなかったとかだもんな。
「それもそうだな。彼氏は知ってるのか」
「分かんない。会ったこと無いし。写真はあるけど」
「なんで、写真はあるんだよ」
「美鈴が入りたての頃に『私の彼氏なんです。いいでしょ』って自慢してLINEで写真を送ってきたの」
優奈の声には憎しみがこもっている気がする。
「そ、そうなのか」
ちょっとイタイ子なんだな。その子は。
「うん。まぁ、私の彼氏も素敵よって、あっりの写真送ったけどね」
「おい。何勝手に送ってんだよ。それにいつ撮った」
プライベートの情報だぞ。それに俺に気づかれずにどう撮った。俺が優奈にいつ隙を見せたんだ。
「この写真なんだけど」
優奈はスマホの画面を俺に見せてきた。
「人の話を聞いてます?」
「うるさい。見て」
「は、はい」
理不尽ではないか。優奈さんよ。でも、見ないと話が進まないのも事実だ。
俺はスマホの画面を見た。画面には笑顔でピースをしている短髪の真面目そうな男性が写っている。
きっと、優しい子なのだろう。ただの憶測だけど。
「私のあっりの方がかっこいいわ」
「お前のあっりではないぞ」
いつからお前の物になったんだよ。説明してくれよ。
「でも、心配。最近物騒だし。変な事に巻き込まれてなかったらいいけど」
優奈は心配そうに言った。
「お、おう。そうだな」
情調不安定か。感情の触れ幅が凄すぎるぞ。人を心配するのは大切だけどさ。
「私の事守ってね。私のあっり」
「守るけど、お前のあっりではない」
酔っているのか。いや、足元ふらふらじゃなかったし、顔も赤くない。と言う事はしらふでこれを言っているのか。
「冷たい。でも、そう言うところ好き」
「はいはい。じゃあ、帰るな」
ソファから立ち上がる。
「え、帰るの?」
「明日も事件解決の為に色々と調べないといけないからな」
「そっか。それなら仕方ないね。でも、事件解決したら呑みに付き合ってよ」
「おう。気が済むまで付き合ってやるよ」
「本当に?」
優奈は嬉しそうに訊ねてくる。
「うん。本当だけど」
「じゃあ、今の言葉告白として受け止めるね」
「なんで、そうなるんだよ」
どう解釈したら、そうなるんだよ。お前の思考回路を見せてくれ。
「そうなるでしょ」
「ならねぇよ。まぁ、何かあったら連絡しろよ。駆けつけてやるから」
「あーたまらん。それも告白でしょ」
「告白じゃねぇよ」
こいつ、全ての言葉をプラスに捉えているだろう。
「もう、照れちゃって」
「照れてない。帰るな」
「自分に正直になればいいのに」
「正直だ。これ以上、声を出したら万美が起きるかもしれないから、本当に帰るな」
それは正直ではなくて、優奈の思い通りになれって事だろうが。
「仕方ないな。お休み」
「お休み」
俺はドアを開けて、外に出た。
明日はまた色々と調べないと。事件を一つ解決するのに凄い労力が掛かるんだな。事件を解決する為に動いている人達に感服する。