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第15話 手紙



日差しが強い。無駄に晴天だ。


 デジタル腕時計で時間を確認する。時刻は10時32分と表示されている。


 俺と優奈に変装した万美は、万美の両親が眠るお墓がある浅井墓地に訪れていた。


「どこら辺にあるの?」

「結構奥です」


「そっか。それならよかった」

「なんでです?」


 万美は不思議そうに訊ねてくる。


 その姿で敬語を使われるのは一日経っても慣れないな。


「だって、お墓を調べるんだよ。罰当たりだし、管理者にばれたら色々と面倒だし。それに今の君は他人から見たら表崎万美じゃなくて波戸優奈だからね」


「あ、そうでしたね」

「だろ。だから、時間をかけて調べるのは無理だ。だから、色々と調べて目星をつけてきた」


 事前に調べるのは怪盗として当たり前の事だ。情報は一つでも多く持っている方が選択肢が増える。


「お墓のどこです?」

「カロート」


「カロートってなんです?」

「納骨部屋だよ。そこならものを隠せる」


 雨風を凌げる場所で普通は絶対に触れない場所だ。そこ以外の部分には隠すのは難しい。


「なるほど。ありそうですね」

「だから、俺がそのカロートを開ける間、見張っててほしい」


 平日のこの時間だから人は少ないと思うけど、ゼロではないはず。今のところは誰にも会っていないけど。


「了解です。でも、そこになかったらどうします?」

「なかったら、またその時に考えるよ」


「そうですよね」


 走行している内に「表崎家」のお墓の前に着いた。


 よく見るタイプの普通のお墓だ。これは地上カロート式ってやつに違いない。


「表崎家の方々、今から無礼な事をします。これは表崎家の為にする事です。お許しください」


 俺は目を閉じて、合掌をした。


 オカルトとかはあまり信用しない方だ。でも、人知を超えた何かがあるとは思っている。


だから、出来るだけの事はしておかないと。人生何があるか分からない。


 俺はゆっくり目を開けた。

 隣では万美が俺と同じように目を閉じて、合掌をしている。


 家族が眠るお墓に本来の姿で来させてあげたいな。なんで、こんないい子が辛い思いをしないといけないんだ。何も悪い事なんてしてないのに。


 万美は目を開けた。


「それじゃ、カロートを開けていくね」

「はい。私は見張っておきます」


「頼んだ」

 俺は屈んで、お墓の下部にあるカロートの蓋の両側を掴む。 


「誰か来てる?」

 あー、そわそわしてしまう。


「誰も来てません」

「じゃあ、開けるよ。すいません。表崎家のご先祖様達」


 俺はゆっくり蓋を手前に引き出していく。


 本当に罰当たりな事をしているな。普段あんまり緊張しないのに、今はかなり緊張して手が震えている。


 蓋を引き出し終えて、地面に置いた。


「何かあります?」

「ちょっと待って」


 俺はカロートの中を見る。骨壺が何個もある。これは表崎家の人達のものだ。


「これって……」


 カロートの中にあるはずがないものが入っていた。それはお菓子などを大量に入れる事ができるプレーン缶だった。


「何かあったんですか?」

 俺はそのプレーン缶を取り出して、「これだよ」と地面に置いた。


「お菓子を入れる箱?」

「開けてもいい?」


「はい。どうぞ」

 俺は地面に置いたプレーン缶の蓋を開けた。プレーン缶の中にはアルバムが5冊と「892981529」と書かれた紙の切れ端とUSBメモリーと「万美へ」と書かれた便箋が入っていた。


「有瀬さん」

 万美は嬉しそうな顔をしている。


「ビンゴみたいだな。ここに大事な物を隠していたみたいだ。この便箋とアルバムは君のものだね」

 俺は便箋とアルバム5冊を万美に渡す。


「見てもいいですか?」

「いいよ。でも、その前にこれを閉めさせてくれ」と言って、カロートの蓋を指差す。


 このまま開けていたらかなり罰当たりだ。


「あ、そうですね。見張っておきます」

「頼んだ」


 地面に置いたカロートの蓋を手に取り、元に戻していく。


 取り外す時は緊張したが、元に戻す時は全然緊張しない。


それは色々な物が入ったプレーン缶があったから。もし、何もなかったら俺は怪盗の弟子でも探偵代行でもなく、ただの墓荒らしでしかない。一番たちが悪く、罰当たりだ。


 カロートの蓋を元の状態に戻した。


「これでOK」

 これでもう気にする事はない。


「ありがとうございます」

「どう致しまして。もう大丈夫だから見てもいいよ」


「はい」

 万美は返事をして、アルバムを開いて、ページを捲っていく。


 万美は涙を流し始めた。

 ページが進んでいくにつれて、目から流れる涙の量が増える。 


「家族の写真だった?」

「……はい。そうです」

「そのアルバムが無事でよかったね」


 万美は涙を流しながら頷いた。


 もう見る事さえ出来なかったと思っていた家族との写真が手に取って見る事が出来る。


それだけでも、万美にとっては嬉しい事なのだろう。万美の表情を見ていると家族と言うものは素敵なものかもしれないと思う。 


「手紙、読んでいいですか?」

「どうぞ。アルバム持っとくよ」


「ありがとうございます」

 万美は俺にアルバム5冊を手渡してくる。


 俺はそのアルバムを受け取る。

 万美は便箋の封を開けて、中から二つ折りになっている手紙を取り出す。そして、二つ折りになっている手紙を開き、黙読し始めた。


「……お姉ちゃん」

 万美は嗚咽に近い涙を流す。


「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……です」


「何が書いていたんだい?」

「読んで……ください」

 万美は俺に手紙を差し出した。


「いいの?」

「はい。有瀬さんならいいです」


「あ、ありがとう」

 俺はアルバムをプレーン缶に入れてから、手紙を受け取り、目を通す。


『万美へ。

 この手紙を貴方が読む頃には私はこの世に居ないでしょう。

 私の全財産は貴方の通帳に全て移しているから生活の足しや進学の費用に当てて。貴方の面倒は永久子おばさんが見てくれるはずだから安心して。USBメモリーは私が追っていた事件の情報が入っているから守谷探偵に渡して。守谷探偵以外には渡しちゃ駄目よ。その紙の切れ端の数字はパスワード。ある金庫のもの。その金庫の中にはこの事件の黒幕が映っている動画のデータが入ったUSBメモリーが入っている。貴方がその金庫に行かないように場所は記さない。USBメモリーとパスワードを守谷探偵に渡し後は、どこかに隠れなさい。事件が解決するまでは。そうしないと、貴方の命が狙われる。こんな危ない仕事を選んでごめんね。本当にごめん。憎まれても仕方がない。どう思っても構わない。ごめんね、1人にしちゃって。情けなくて酷いお姉ちゃんだよね。そんなお姉ちゃんを許してとは言わない。でも、その代わりにずっと覚えててほしい。貴方を、万美を愛している事を。世界中の誰よりもね。家族として、姉として。もう一度だけ書かせて。愛してる。千尋より』と書かれていた。


 表崎さんは自分が殺される事が分かっていたみたいだ。それはどこのタイミングだったんだ。


ちょっと待てよ。守谷探偵って書いているという事はYM社の前で会った後に書いたのか。


それじゃ、その直後に何かあったのかもしれない。それは一体なんなんだ。あと、金庫はどこの金庫だ。考えなくちゃいけないものが山積みだ。


でも、一つだけ分かった事がある。それはお姉さんが万美ちゃの事を心の底から愛していたと言う事だ。


「……絶対に犯人を見つけるから」

 梶野、もしくはそれ以外の犯人を見つけてやる。そうしないと、万美が安心して生活を送れない。


「はい。私も手伝います」

「無茶はしないでくれよ。君が生きる事がお姉さんの望みなんだから」


「分かってます。だから、できる事をさせてください」

 万美は手で涙を拭って、力強く言った。

「……わかった」


 手に入れたUSBメモリーを事務所に戻って見ないといけないし、どこの金庫のパスワードか調べないといけない、それ以外にもやる事はたくさんある。


 やる事が増えたと言う事は事件解決に向かって、前進したと言う事。やる事をこなしていけば真相に近づくはずだ。


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