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第1話 大怪盗の愛弟子



世間を騒がせた大怪盗の弟子は師匠の後を継ぐのかと言う質問をされた場合、皆はどう答えるだろう。


 想像できる答えは「あり得ない質問だから答えられない」とか「もう少しましな質問をして」とかに違いない。


 それは当たり前の答えだ。そんな空想のような質問を現実で答えられる人間は世界中に百人居ればいい方だ。


 残念な事に俺はその質問を答えられる。なぜなら、数十年前、世間を騒がせた大怪盗ラウールの弟子の1人だから。


 答えはこうだ。


 継がない。理由は簡単。追われる身になるし、自分をずっと偽らないといけない。そんなこと面倒だ。俺はただ何事もなく平凡な日々を浪費したいだけ。


「あと3分もすれば大怪盗ラウールが予告した時間になる。全員気合を入れろ」


 防弾チョッキを身に纏った中年の警察が金庫室の前で大勢の警察達に気合を注入する。


 気合を入れるのはいいが、もう少し痩せてからにしろよ。贅肉のせいで防弾チョッキがきつそうに見える。


 大勢の人間を仕切る立場なら、周りからどう見えているか考えろよ。まぁ、俺は別に警察じゃないからいいけど。


「おう!」

 大勢の警察達は気合を入れて、返事をする。


 凄い気合だな。ちょっと、引くわ。

 けど、同じように振舞わないと。俺が警察に変装して、一緒に居るのがばれてしまう。


 ここに居る理由は金庫室で保管されている宝石などを盗む訳じゃない。


 ただ師匠の名前を使って、泥棒をしようとしている者、もしくは者達を懲らしめたいだけ。さすがに師匠の名前を汚される事だけは許せない。


 一応弟子だし。

 それにしても、偽大怪盗さんはどうやって金庫室の中の物を盗むのだろう。


 この帝都中央銀行のセキュリティーは都内随一。その銀行の金庫室となれば簡単に開ける事はまず不可能。


それにこの警察の人数。停電させて混乱させるか。いや、その方法なら金庫室のドアを開ける時間が稼げない。金庫室の天井に穴を開けて、侵入する。


でも、それは技術力などの問題で考えにくい。だとすると、可能性が一番高いのはこの場に居る全員を眠らせて、金庫室を開ける時間を稼いで解除する、だろう。


 まぁ、お手並み拝見と行きますか。偽大怪盗さんはここに大怪盗ラウールの弟子が居るなんて想像もしていないだろうし。


 3分が経ち、予告の時間になった。すると、照明が突然消えた。これで時間を稼ぐつもりなのか。


「電気が消えたぞ」

「慌てるな。すぐに予備電源が復旧するはずだ」


 中年の警察は冷静に指示を出す。

 地面にコロンと何かが落ちた音がした。そして、変な臭いがする。


 ……これは催眠ガスか。


 俺は急いで手で口を塞ぎ、その場にうつ伏せで寝た。

 ドタ、ドタ、と人間が倒れる音が聞こえてくる。

徐々に人の声が減っていく。


 これは催眠ガスでこの場に居る全員を眠らせてから、金庫室のドアのセキュリティーをゆっくり解くつもりだな。


 予備電源が復旧して、照明が点く。大勢の警察達が倒れている。


 金庫室の方に視線を向ける。

 金庫室の前には警察の姿をした男達が三人立っていた。


 複数犯だったのか。こいつら、俺と同じように警察に変装していたみたいだ。


 三人とも印象に残りにくい顔をしているな。それに体格も全員、普通。


 三人の内の1人が金庫室のドアのセキュリティーを解除しようとしている。


他の二人は見張り係。この状況はある意味ラッキー。警察の相手をしないで済む。


 俺は防弾チョッキのポケットから閃光弾を取り出して、寝たまま男達の方へ投げる。


「おい。なんだこれ」

「あいつ、意識があるぞ」


 見張りの男二人が騒いでいる。俺は両耳を両手で塞いで、目を閉じた。


 閃光弾が光ったのだろう。目を閉じていても、光っているのが分かる。


 ……3、2、1。両耳から両手を離して、目を開ける。


 男達三人は苦しんでいる。思った以上に威力があったみたいだ。


 俺は立ち上がり、男達のもとへ駆け寄る。

「人の名前を使うのはよくないよ。君達」


 1人ずつ殴って、気絶させていく。もう少し色んなシュチュエーションを考えて来るべきだ。


 あーでも、大怪盗ラウールの弟子が来るなんて普通考えないか。どんまいと言うしかないか。


 男三人が気絶したのを確認する。その後、金庫室のドアに三人をもたれかけさす。


 防弾チョッキのポケットから師匠が使っていた予告状と同じデザインの予告状を取り出して、三人の前に置く。予告状には「偽大怪盗よ。哀れだな。BY怪盗ラウールの弟子」と書いている。


 その場から離れて、男性トイレに向かう。

 警察達が目を覚ます前に逃げないと。


 男性トイレに入る。奥の個室トイレとその前の個室トイレのドアが閉まっている。


 閉まっていない個室トイレに入り、内側から施錠する。


 身に纏っている防弾チョッキなどを全て脱ぐ。その後、施錠を解除する。


 トイレの便座を台代わりにして、閉まっている個室トイレに飛び入る。そこには用意していたスーツ一式が入ったビジネスカバンがある。


 俺はビジネスカバンを開けて、スーツに着替える。

 着替え終えて、施錠を解除して、ドアを開ける。


そして、脱いだ防弾チョッキなどが置いてある個室トイレの中から防弾チョッキなどを取り、一番奥の個室トイレの前に行く。


そのまま防弾チョッキなどをその個室に投げ込む。

 個室トイレの中には眠らせた警察が居る。


 申し訳ないな。数時間もトイレの中で寝させて。

 裏口からばれないように出る。外は真っ暗になっていた。


 ……はぁ、最悪だ。一日が終わる。今日こんな事がなかったら一日中パチンコをするつもりだったのに。


まぁ、金が全然ないから一日持つか分からなかったけど。でも、予定を潰されたのは事実。もうこんな事は起きないでくれよ。頼むから。


 繁華街に行き、通行人に混じっていく。通行人の誰もが俺がさっきまで警察に変装していたなんて思わないだろう。


まぁ、ばれるはずがない。もしばれたら、それは俺が大きなミスをしたか。それとも、その気づいた者が天才的な頭脳を持っている奴かだ。


 それにしても、スーツは似合わない。こう言うしっかりとした服装は慣れない。変装している時は他人を演じているから違和感を覚える事はない。


だが、有瀬吉平ありせきっぺい本人でスーツを着ている場合は別。

 拒否反応に近いものを身体が発する。


 路地裏の入り口前付近で立ち止まり、ズボンのポケットから、スマホを取り出して、電源を点ける。


 スマホの画面には「優奈19時26分着信」と表示されている。


 何の用だ。まぁ、どんな用かは何となく想像できるけど。電話を掛け直さないといけないのか。


掛けたくないな。でも、掛け直さないと後で色々と面倒だしな。飯奢ってもらわないといけないし。


 スマホの画面をタッチして、優奈ゆなに電話を掛けた。すると、着信音が3回も鳴らない内に電話が繋がった。


 俺はスマホを耳に当てる。


「もしもし、有瀬だけど」

「あっり。なんでさっき電話に出なかったの?」


 テンションの高い声が聞こえてくる。間違いない。優奈だ。


「色々と用があったんだよ」

「噓だ。定職にもつかない。バイトもしない。色々と代行はしてくれるだけの駄目男なのに」


 事実を言うな。色々と男にはあるんだよ。いや、女性にも色々あるか。て言うか、そんなのどうでもいい。


「うるさい。そんな事言うなら電話切るぞ」

「ごめん、ごめん。限りなく本音に近い噓だよ」


「謝る気ゼロじゃねぇか」

 それはもう本音なんだよ。


「許してにゃん」

「……お前いくつだよ」


 たしか俺と同じ25歳だろ。さすがにそれは引くぞ。もう少し大人の女性の話し方をしろ。俺も25歳にしたらダメダメな方だけど。


「おないじゃん。それにちょっとその冷めた言い方なんかいい」

 優奈の声は少し嬉しそう。


「……切るぞ」

「噓噓。でも、この言葉使いお店ではウケるんだよ」


「……仕事先メイド喫茶でしたっけ」

「キャバクラ。夜の女ってやつ」


「はいはい」

 こんな変わった感性を持っている優奈だけど、店ではナンバー3らしい。それもアフターなどもせずに。きっと、話が面白いからだろう。それにおまけで美人だし。


「はいは一回」

「おかんか。俺、親居ないけどな」


「あれ、複雑な家庭環境な話する?」

「しない。って言うかさ、本題を早く言えよ」


「あー、私の代行で今彼を振ってほしいの」

 代行の依頼かよ。


「またか。今年何人目だよ」


 結構面倒なんだよな。優奈に変装して、男を振るの。それに優奈に変装する時に履くスカートの下から入って来る風。あのスカートの独特の風が気持ち悪くて仕方がない。


「6人かな。いや、8人だったかも」

「半年も経ってないのに多すぎだろ」


「えぇ、いいじゃん。どの男とも寝てないんだし」

「……はぁ。そう言う話じゃないんだよ」


 溜息が出る。あと、すぐに俺にそう言う話をするな。聞く方の身にもなれ。


「じゃあ、どう言う話よ」

「あーもういい。とにかく振ればいいんだな」


「そう言う事」

 なんで、声がうきうきしているんだよ。


「じゃあ、3万プラス飯三回な」

「OK。あんがと」


「それでいつ振ればいいんだ?」

「明日の夜。絶対に明日の夜」


「はいよ。明日の昼間ぐらいに服借りに行くわ」

「うん。待ってる。じゃあね。愛してる」


 通話が切れた。本当にいつもながら自分勝手な奴だ。まぁ、それが優奈の良いとこかもしれないけど。


 ズボンのポケットにスマホを入れた。

「あのーすいません」


 路地裏から出て来た高身長の男に話しかけられた。顔が見上げないといけない高さにある。きっと、身長は185ぐらいだろう。10cmぐらいくれ。


それにむかつくぐらいイケメン。年齢は俺よりちょっと上ぐらいっぽいな。


「は、はい。何ですか?」

「ちょっとこのホテルの場所が分からなくて」


 高身長の男は俺にスマホの画面を見せてきた。画面には何も映ってない。

 どう言う事だ?


「何も映ってませんよ」

「はい。本当の理由は違いますから」


 背中に激痛が走る。身体の自由が利かない。視界もどんどん真っ暗になっていく。この男は一体何者なんだ。それに何の為にこんな事を。


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