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第八話 長老の依頼(3)

俺は馬小屋の材料を俺たちの家の前に並べていたテリーさんを呼びに家まで戻ってきた。

「テリーさん。」

「ん、ああ。スグハ、それにナオヤか。どうかしたか?」

テリーさんは額に浮かんだ汗を手で拭いながら言った。

「ミレイさんの実家でみんなで昼食を食べるので、テリーさんもきてください。」

「そうか。一通り材料は揃えたから、明後日には完成できると思うぞ。」

テリーさんは庭に並べられた木材を指しながら言った。

「ありがとうございます。」

「さて、行くか。」

テリーさんは俺とスグハの前を歩き始めた。

「あ、そうだナオヤ。俺に対しては敬語じゃなくていいぞ。スグハと契約している時点で俺よりも強いんだから。」

「そうで…、そうか。わかった。」


その後、俺はテリーにどんな馬がいいか聞かれたが、馬に関しての知識はほぼ皆無なので、テリーに任せることにした。

そんな話をしているうちにミレイさんの実家の食堂に着いた。

木の看板に「森盛食堂」と書かれていた。

木のドアを開けると、木でできた椅子やテーブルが並べられていて、みんなもう座ってメニュー表と睨めっこをしていた。

ちょうどチャドさんの両隣が空いていたので、テリーが左隣、俺が右隣に座ることになった。

チャドさんはもう決めたらしく、静かに木のコップに入った水を飲んでいた。

俺はメニュー表を見て言った。

「結構いろんな種類があるんですね。」

「でしょ?看板娘のあたしがおすすめするのは薬草カレーだよ!食べると魔力が増えて気分が良くなるの!」

ミレイさんは自警団の制服ではなく皮のドレスを着ていて、普通の村娘って感じの格好で言った。

てか、気分が良くなるってそれ、麻薬じゃないよな?

まあ、メニューで出してるくらいだし、きっと大丈夫だろう。

「じゃあ、それにしようかな。」

「はーい!おかーさーん!」

そう言ってミレイさんは厨房の方に向かって慌ただしく走って行った。


しばらくして、全員の料理が運ばれてきた。

「そいじゃ、新しい仲間の入団祝いというわけで。」

ランガスさんが威勢よく言った。

「団長から何か一言を!」

「…明日からがんばれ。」

チャドさんは静かに言った。

「んじゃ、いただきます!」

ランガスさんが両手を合わせて言った。

それに合わせて俺たちも「いただきます。」と声を揃えて言った。


「にがっ!」

俺と同じく、薬草カレーを注文したライトが一口食べて言った。

「確かに苦いな。でも辛いカレーよりも美味い気がする。」

俺もやや緑っぽい色のカレーを一口口に入れて言った。

肉類は入っておらず、植物だけが具材となっているのだが、なかなか食える。

残念なことに米はここでは採れないため、ライスはなかった。

「だろ?カレーも美味いが、パンも美味いぞ。」

ランガスさんが黒く焼けこげたようなパンを口に放り込みながら言った。

「…カレーはパンにつけると美味い。」

カレーと一緒に黒パンを頼んでいたチャドさんが俺に黒パンを渡しながら言った。

「あ、ありがとうございます。」

俺はチャドさんからパンを受け取ってカレーを浸して食べた。

「お、確かに美味しいですね。」

黒パンの甘味がカレーの苦味を緩和してくれていて、ちょうどいい。

チャドさんは俺のセリフを聞いて少しニッコリと笑った。

「お、兄貴、俺にもパンくれよ。」

「…ん。」

テリーが赤色のスープを啜りながら言った。

テリーはチャドさんから受け取ったパンをスープに浸して食べた。

「甘くて美味いな。」

「テリーは相変わらず甘いもの好きねえ。」

甘いパンを食べながら幸せそうな顔をしているテリーを見ながらスグハが言った。

「スグハー!あたしのパンあげよっかー?」

チャドさんの正面に座っていたミレイさんがスグハに声をかけた。

「食べるー!」

スグハが嬉しそうにぱたぱたと羽を動かしてミレイさんのもとへ向かった。

そしてパンを受け取ると、俺の元に帰ってきて、俺のカレースープをごっそり持って行った。

「あ、おい。俺の!」

俺が非難の目を向けるとスグハはにやにやしながら言った。

「だって食べたかったんだもーん!んー!おいしー!」

そんな俺たちの様子を見ていたテリーが自分のスープの皿を差し出して言った。

「スグハ、俺のもー…」

「いや。いい。」

バッサリ。

テリーはしょんぼりしながらまたスープに黒パンを浸して食べ始めた。

「テリーは相変わらずだな。」

ラミアさんが言った。

「昔からこうなんですか?」

静かに野菜シチューを啜っていたツバサが言った。

「ああ。10歳くらいの時にスグハに長老の家の前で出会ってからな。かれこれ50年か。」

「そういえば他のみんなは精霊と契約していないんですか?」

エルサさんにパンを押し付けられてややうんざりした様子のライトが、話題を変えて気を逸らそうとして言った。

「一応、俺は契約しているカチーナはいるぞ。」

ランガスさんが木のコップに入った水を飲み干しながら言った。

「出てこーい。」

ランガスさんは胸ポケットに向かって言った。

するとひょこっと緑色のショートボブの女の子の顔が現れた。

「こいつはレミ。恥ずかしがり屋な蝶羽のカチーナだ。」

「レミー!久しぶりじゃない!」

スグハがレミのところまで行くと、レミはホッとしたような顔をして、胸ポケットから出た。

レミは緑色の蝶の羽をぱたぱた動かして、スグハの方に向かった。

レミの服装はスグハの色違いのようなワンピースで、胸元には大きな赤いリボンが付いていた。

「そのリボンは俺がつけてやったんだ。」

テリーが赤いリボンを見ながら言った。

「俺は不器用でこういうのつけるの苦手だからなあ。」

ランガスさんはガハハと笑いながら言った。

「うぅ…。じゃあなんでこんなのつけたんですかぁ…。」

レミがリボンをひらひらさせて苦情を言った。

「いいだろ?そっちの方が可愛いし。なあ?」

同意を求められて俺は咄嗟に頷いた。

「似合ってるよ。」

「これのせいで目立っちゃうんですよぉ!」

「ねえねえ。」

ひらひら揺れるリボンを見ていたスグハが言った。

「あたしもああいうの欲しい。」

「そうか。じゃあ今度探してみるか?」

「それならススムさんに教わったら?」

ススムと何やら話していたミレイさんが言った。

「え?ススム、細工とかできたっけ?」

ライトが不思議そうに言った。

俺とライトとススムは美術部だったのだが、細工とかはライトが得意で、ススムはどちらかというと模写とかの方が得意だった気がするのだが。

「スキルでもあるから、素材さえあればできるはず。」

「…明日の警備でついでに近くの街に行く。…その時に探してみるといい。」

チャドさんが言った。

「ありがとうございます。」

「あ、でもナオヤは奴隷だったんだっけ?街には猿耳族がいっぱいいるんじゃあ…。」

ツバサがあの設定をここで持ち出してきた。

「大丈夫だよ。ライトのおかげで、いい猿耳族もいっぱいいることもわかったし。」

俺が言うと、ライトに懲りずにパンを薦めていたエルサさんが食いついてきた。

「そうね!ライトはいい猿耳族ね!あの時剣を交えてわかったもの。この人は絶対に他種族を虐げたりしないって。あの言葉、信じてるわよ。」

「あ、ああ。」

ライトはやや困惑気味に頷いた。

「まあ、その近くの街は私たちエルフやドワーフの精霊種族にも優しい人間が多いからな。エルサはまだあまり行ったことがないからわからなかっただろうが、あの街は猿耳族が多種族と共存している街でもあるんだぞ。」

ラミアさんが言った。

「エルサは全然聞く耳を持ってくれなかったからなあ。エルフ狩りをしている連中なんて、猿耳族の1割くらいの人数だぞ?」

「え、そうなんですか?」

俺が言うと、テリーが言った。

「魔法の面で言うと、エルフの方が強いからな。大体の奴隷呪文はかき消すことができる。だがその分、エルフを配下にできれば1人で複数の仕事をこなせる使用人を手に入れることができる。主にゲスい猿耳族の貴族なんかが欲しがるんだ。」

「そして、狙われるのはミレイくらいの子供のエルフだ。」

俺たちの視線がミレイさんに向く。

「あたしはもう子供じゃない!」

「ミレイは特別なんだ。スキルを持っているし、ずば抜けて魔力が多いしな。」


その後はしばらく雑談が続いた後、ラミアさんが言った。

「さて、そろそろ日も暮れてきた頃だし、お開きとしようか。」

「そうだな。明日も早いしな。」

「それじゃあ、4人とも、朝の鐘が鳴るまでに訓練場に集合だ。」

ラミアさんに言われ、俺たちは声を揃えて「はい!」と返事をした。


帰宅。

「…それで、なんでいるんですか?」

俺たちは明日に備えて居間で剣の手入れをしていた。

そしてなぜかそこに私服姿のエルサさんがいた。

「え?」

「いや、え?じゃねえよ!」

ライトが剣を床に置いて言った。

「何しにきたんですか?」

ツバサも剣をライトの剣の隣に置いて言った。

「明日の警備の注意事項をまとめたマニュアルを持ってきたのと、今日から私もここに住むことになりましたので。」

…。

「は?」(ライト)

「え?」(俺)

「うん?」(ツバサ)

「…。」(ススム)

「エルサ…あんたなかなか行動力あるわね…。(ドン引き)」(スグハ)

俺たち(特にライト)がぽかーんとしていると、エルサさんが口を開いた。

「あ、マニュアルはこちらです。」

そう言って背中に背負っていた鞄から4枚の羊皮紙を出して俺たちに渡した。

「いや、そっちよりもここに住むことに驚いてんだよ。」

ライトがたまらず突っ込む。

「家具の方は皆さん全員分と一緒に用意しておきましたよ。もちろん新品です。」

「エルサ、あんた今まで住んでた家はどうしたわけ?」

スグハが言った。

「まだありますよ。」

「よーしわかった。」

ライトが言った。

「ライト!?」

新品の家具に釣られたか?

「エルサ、今から庭で決闘だ!」

ライトがびしい!っとエルサさんを指差しながら言った。

エルサさんは余裕の笑みを浮かべながら言った。

「ライト、もしかして決闘で私に勝てると思ってるんですか?」

「?訓練では俺が勝っただろ?」

「そう思っていられるのも、今のうちですよ?」


庭に出て、2人の決闘が始まった。

ライトはエルサさんの即撤退を要求し、代償はエルサさんを家に住まわせることとした。

エルサさんはライトの隣の部屋に住むことを要求し、代償は新品の家具、ということになった。

結果から話すと、エルサさんの圧勝だった。

エルサさんは自分の鋼の槍を振り回し、ライトを翻弄し、さらには魔法でライトを弱らせ、その上でライトをボコボコに叩いた。

柄の部分とはいえ、かなり痛そうだった。

実際、ライトの体のあちこちには青あざが浮かんでいた。


そんなわけでライトの隣の部屋だった俺は強制的に撤退させられ、ススムの隣の部屋の古時計があった部屋を俺の部屋とすることになった。

部屋にはいつの間に運び込んだのか、真っ白なシーツが敷かれた大きめのベッドに、頑丈そうな机と椅子、さらには本棚まで設置してくれていた。

ボロボロに負けてさらにはエルサさんと一緒に住むことになってかなり落ち込んでいるライトだったが、部屋に置かれている綺麗な家具たちを見て、すぐにテンションが元に戻った。

色々あって疲れた俺は他の4人におやすみの挨拶もそこそこに、スグハと共に新品のフカフカのベッドで眠りについた。

長老の依頼(4)に続く。

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