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第六話 長老の依頼(1)

俺たちはまた長老の家の客室のソファーに腰掛けていた。

長老から大事な話がある、とのことできたのだ。

スグハは俺の髪の毛をいじりながら、長老が部屋に入ってくるのを待っていた。

少しして、長老が剣を杖のようにして、部屋に入ってきた。

俺たちは立ち上がって、長老に向かってお辞儀をした。

そして長老が座るのを待って、長老が座ったのを確認して、座り直した。

長老はおもおもしく口を開いた。

「家の清掃、お疲れじゃった。早速なのだが、最近この神聖な森でエルフ狩りなるものをしている連中が増えておる。おそらく猿耳族の人間だろう。ナオヤ、ライト、ツバサ、ススムは、ラミアと共に連中を駆除して欲しいのじゃ。」

「駆除…とは…。」

ツバサが恐る恐る聞いた。

「無論、その場で殺すのだ。奴等は人を人とも思わぬ残虐な奴等だ。この国の衛兵でも手を焼いているほどだ。殺すことができぬのなら、衛兵の詰所にとどけても良いぞ。」

長老は怒りを含んだ低い声で言った。

「拠点として家を与えたのだ。定期的にこうしてお主らを集めて儂からの依頼を聞いてもらう。良いな。」

「ええ。構いませんよ。」

ライトは穏やかに言った。

もしかしたら人間を殺すことになるかもしれないのに、いたって普段通りの雰囲気だ。

人間を殺せと言われたのに動揺している様子が微塵もない。

他の2人も同様で、落ち着いている。

まあ、俺も人を殺せと言われたのに、なんの感慨も浮かばないな。

「住む場所をいただいたのです。その恩を返せるのなら、どんなことでも引き受けましょう。」

俺は左胸に右手を当てて言った。

これはどうやらエルフ特有の癖のようで、日本人がお礼の時などに礼をするのと同じようなものらしい。

おそらくだが、人間を殺すことに動揺しないのは、エルフになったことも影響している気がする。

俺たちは明後日、エルフ狩りの組織を潰すためにそれぞれ武器を渡された。

俺は魔法が使えるからと断ったのだが、全員武器があった方が便利だからと、他の3人と同様に鋼の剣を渡された。

そして、エルフの村の訓練場で明日、練習させてもらうことになった。

俺たちは長老に礼を言って、自分たちの家へ向かった。

スグハは少し心配そうにライトを見ていた。

やはりライトは前世と同じ人間(この世界では猿耳族と言うらしい)のままなので、同族を殺すかもしれないと言うのは、やはりとても精神に来るのだろう。

「ライト、大丈夫か?」

ススムが心配して声をかけた。

ライトは少し間を開けて、

「…あ、ああ。大丈夫だ。」

俺はスグハと同様に心配して、ライトに目を向けた。

「無理そうなら、長老に言って他の依頼を受ければ?」

ツバサが言うと、ライトは額に汗を少しかきながら、

「いや、大丈夫だ。いやー、明日の訓練楽しみだなあ。」

とやっぱり無理をして笑った。


次の日、俺たちはラミアさんの案内でこの集落の自衛団が訓練している場所に来ていた。

ちなみにラミアさんは自衛団の中でも単独行動が許可されたちょっとすごい人らしい。

俺たちが訓練場に入ると、そこには2人の男女のエルフと、ラミアさんが剣の素振りをしていた。

他の2人はラミアさんと同じように、緑色の服にベージュのズボンを履いている。

おそらく自警団の団服みたいな物なのだろう。

男のエルフがこちらを向いた。

「お前たちが長老の言っていた余所者か。」

銀髪に緑の瞳の男のエルフは挑発するように言った。

「ライト、ナオヤ、ツバサ、ススム、スグハ、よくきたな。」

ラミアさんが素振りをやめて俺たちに近づいて言った。

「こっちの銀髪の方がテリー、こっちの茶髪の方がエルサ、どっちもこの集落の自警団の団員なんだ。」

ラミアさんが説明してくれた。

エルサと呼ばれた茶髪の女性のエルフは俺の肩に乗っているスグハを見て、俺に近づいてきた。

「あなたは、なおほびの称号を持っているんですか?」

エルサさんは俺にそう聞いてきた。

「あ、はい、まあ。」

「そうよ!エルサ!あたしはついに理想のエルフ(なおほび)と契約できたのよ!」

スグハが俺の頭の上でくるくると回転して言った。

「あ?」

と、エルサさんの背後からものすごい殺気がしている。

そしてその殺気の発生源は、テリーと呼ばれた男性だった。

「おい、てめえ。」

明らかに俺に向かって殺気を飛ばしている。

「なんでしょう?」

エルサさんはいつの間にか、スグハを連れて訓練場の端に逃げていた。

「余所者の分際で…、多種族と戯れているエルフの分際で…!よくも、俺のスグハを!」

えー…。

「俺が何十年スグハにアプローチしてきたと思ってんだ!俺の…俺の…。」

テリーさんはワナワナと震えながら言った。

「その人、50年くらい前からあたしをつき纏ってるのよねえ。あたしはなおほび以外とは契約したくないって言ったら、じゃあ俺がなおほびになるなんて言って。」

スグハが心底めんどくさそうに言った。

…多分だけどこの人、スグハに惚れてるな?

てか、少なくとも50歳は超えてるのかこの人。

どう見ても20はたち前後に見える。

「決闘を申し込む。」

「は?」

テリーさんが低い声で言った。

「決闘だ、なおほび。魔法と剣、両方を使い、どちらかが降参するまで戦い続ける1対1の決闘だ。」

「ちょ、ちょっとテリー!副団長も、とめてくださいよ!」

エルサさんが慌てて止めに入った。

「いや、やらせてみよう。ナオヤがテリーよりも強いことがわかれば、テリーも彼らを認めるだろう。」

ラミアさんが俺たち4人を見て言った。

…副団長って…ラミアさん、すごい人とは聞いていたが、まさか副団長だったとは。

「決まりだな。」

テリーさんは俺を睨みながら言った。


「じゃあ、まずはそれぞれ誓いを立てろ。」

審判役となったラミアさんが言った。

その後ろで、エルサさん、ライト、ツバサ、ススム、スグハが俺たちの決闘を見守ることになった。

「誓いってどんなのですか?」

ライトがエルサさんに聞いた。

エルフは視力、聴力、触覚が非常に優れているらしく、少し離れたところにいる2人の会話もはっきり聞こえた。

「誓いはそれぞれ勝利した時に手に入れたいものと、負けた時に献上するものを宣言し、それを約束させるものです。勝った場合は、勝利した時に手に入れたいと提示したものと、敗者が負けた時に献上すると言った物、二つを手にすることができます。」

エルサさんは非常にざっくりと説明した。

猿耳族のライトを警戒している、といった感じだ。

「なるほど。ありがとうございます。」

「まずは俺から。俺が勝ったら、スグハを俺と契約させろ。俺が負けたら、お前たちに馬を一頭ずつやろう。」

テリーさんが宣言した。

俺も口を開いた。

「俺が勝てば、俺たちの家に馬小屋を建ててもらう。負けたら、スグハと契約させてやる。」

「な、ナオヤなんてことを!負けたら承知しないわよ!」

決闘の景品にされたスグハが憤慨して言った。

「それでは、決闘始め!」

ラミアさんが両手を叩くと共に、テリーさんが俺に向かって距離を詰めてきた。

俺は『脚力強化』のスキルを使い、突進してくるテリーさんを飛び越えた。


テリーさんが突進してくる直前、テリーさんの頭上に体力バーのような緑色のバーが現れ、俺の視界の左端にはさっきまではなかった緑色と紫色のバーとそのバーの右側にそれぞれ数字が現れた。

おそらく体力と魔力だろう。

反応を見るに、ライトたち3人にはこのバーは見えていないようなので、これはスキル魔法の能力の一つなのだろう。

戦闘を可視化できる、みたいな能力か?

急に背後から回り込まれても気づける、みたいな能力があるらしいと、昨晩スグハから聞いた気はするのだが、こういうことか?


俺は腰に刺してあった長老からもらった鋼の剣を抜いた。

テリーさんもさっき素振りをしていた木刀から、近くにあったレイピアに持ち替えた。

俺は『脚力強化』を維持したまま、テリーさんに突撃する。

テリーさんも細長いレイピアを構えて俺に向かって走ってきた。

レイピアと鋼の剣がぶつかり合い、火花を散らした。

なんで細いレイピアが鋼の剣の打撃を受けて折れないのか不思議である。

「ちょ、テリー!本気出し過ぎ!」

エルサさんが焦ったように言った。

「こんぐらい大丈夫だろ?なあ、なおほびさんよお!」

テリーさんは俺をレイピアをしならせて俺を突いた。

『スキル・変化』

俺は慌ててスキルを発動させた。

すると、レイピアが刺さる直前、俺の右肩は樹木の幹のように変化した。

よし、思った通りに変化できた!

しかし、左端の緑のバーと紫のバーが少し短くなってしまった。

レイピアは俺の右肩に刺さったまま抜けなくなった。

「ちっ!」

テリーさんはレイピアを抜くのを諦めて俺から距離をとった。

「スキルを持っていたのか。」

俺は変化を解いた。

すると、レイピアはポロリと抜け落ちた。

俺はレイピア後ろへ放り放り投げた。

「なら、俺もスキルを使おう。」

テリーさんが余裕の笑みを浮かべながら言った。

『スキル・剣召喚』

すると、テリーさんの突き出した左手に何やら銀色の粒子が集まって、剣の形になった。

銀色の刀身に、青色の柄の剣が現れた。

テリーさんは俺に向かってまた剣を突き出して突進してきた。

『スキル・変化』

また少し紫色のバーが短くなった。

俺は左腕を木樹の枝に変化させて、攻撃を防ごうとした。

しかし、伸びた枝をあっさり切り落とされたのを見て、俺は後ろに飛び跳ねて避けた。

「レイピアとはちげえんだ。さっきみたいに防げると思うなよ!」

テリーさんが剣を振り回しながら言った。

そして、テリーさんはさっきよりも早く俺に近づいて俺の鋼の剣を弾き飛ばした。

「っ!」

武器を失った俺は脚力強化を駆使して、逃げに徹することにした。

「ナオヤ!略奪不可のスキルを使って!」

スグハが俺に向かって叫んだ。

俺は考える暇もなく、スキルを使用した。

『スキル・略奪不可』

しかし、持ち物画面を開いただけだった。

唯一の救いは、ゲームと違って持ち物を確認しながら動くことができることだった。

俺は持ち物画面を見ながら攻撃を避けていると、持ち物画面に「放置」という、新たな欄が追加されていた。

その欄にある鋼の剣のアイコンをタップした。

すると、物すごい勢いで、俺の鋼の剣が俺の右手に飛んできた。

「スキルは1つじゃなかったのか!?」

テリーさんは驚いて言った。

俺は驚いて少し隙が生まれたテリーさんに向かって、剣を構えて突撃した。

俺の一撃はテリーさんにヒットした。

テリーさんの頭上の緑色のバーが3分の1くらいに縮んだ。

俺はそのままテリーさんの剣を弾いて、喉笛に剣を突きつけた。

「降参しますか?」

俺が言うと、テリーさんは諦めたように力を抜いて言った。

「は、さすが、なおほびだな。俺の負けだ。」

俺は剣を下ろした。

すると、スグハが俺の方に向かって羽をぱたぱたさせながら飛んできた。

「よかったぁ!お疲れ様。」

それを見てテリーさんは顔を逸らして言った。

「スグハ、どうしてなおほびじゃないといけないんだ?」

スグハは少し眉毛を下げて言った。

「それが、女神様の望みだから。」

長老の依頼(2)に続く

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