第五話 大掃除
次の日、俺たちが朝の鐘の音で朝起きると、またハナビさんがお盆を持ってどこからともなく現れた。
お盆には黒いパン4つと赤色のスープが入った4つの皿が載っていた。
「朝食です。肉や魚はありませんが、パンとスープならおかわりもありますので。」
「ありがとうございます。」
俺たちが口々にお礼を言った後、ハナビさんはお辞儀をして、消えた。
早速俺たちは運ばれてきた食べ物に手をつけた。
黒いパンは見た目通りカリカリとしていて、ほんのり甘かった。
スープの方は、ビーツのような赤い株が入っていて、こちらもほんのり甘かった。
エルフだけなのか、この世界の人たち全員がそうなのかはわからないが、少なくともこの食べ物を作った人たちは甘い味付けが好みっぽい。
昨晩も夕食を出されたのだが、やはり甘い味付けだった。
「甘いな。」
ライトがパンでスープを掬いながら言った。
「そうだね。でも美味しいな。」
ツバサがモソモソとパンを食べながら言った。
「スグハは食べないのか?」
俺は俺の頭の上で寝転んでいるスグハに言った。
「あたしは朝はお腹空かないのよ。」
「スグハ、朝食は1日のエネルギーを補給するのには一番大切な食事だぞ。…確か。」
俺はそう言って、パンを一切れちぎってスグハに持たせた。
「これナオヤの口付け?」
スグハが渡されたパンをじっと見つめながら言った。
「いや流石に違うぞ。」
「そ。」
スグハは仕方なく、といった感じで口の中にパンを放り込んだ。
朝食を食べ終わった後、俺たちはまた、マイハウスへ向かった。
俺たちはまず、自分たちの部屋を掃除することにした。
ハナビさんが庭の雑草を刈ってくれるとのことなので、俺たちは家の中の埃や泥をとる作業に専念することになった。
スグハは俺についてくることになった。
曰く、高位精霊の力を見せてやる!だそうで、どうやらスグハは俺の部屋で寝泊まりするらしい。
まあいいけど。
なぜだかわからないが、スグハが俺の見えるところにいないととても不安になるのだ。
恐らく、俺とスグハが契約したことが影響しているのだろう。
俺は午後になると日当たりが良くなる、階段を上がって一つ奥の部屋に、ハナビさんたちから借りた掃除用具を持って入った。
ベランダが見える大きな窓と、やや小さいクローゼット以外、何もない部屋だ。
早速スグハはやる気満々に何か呪文の詠唱を始めた。
『風魔法』
スグハが右手を前に突き出して言うと、そよ風が吹いて、部屋に積まれていた埃が一箇所に集められた。
「どうよ!」
「おお〜!これは便利だな!」
俺が素直に褒めると、スグハは照れて顔を少し赤らめながら頭を掻いた。
「魔力の調整によってはもっと強い風も起こせるよ!」
「ここではやるなよ?」
スグハが調子こいて余計なことをしそうな流れになったので、俺はすかさず止めに入った。
「わかってるって〜!」
俺はハナビさんから貸してもらった塵取りで埃を回収し、窓ガラスや床、一応壁に雑巾をかけた。
スグハは羽があるのでエルフになってから少しのびた身長でも届かない窓の一番高いところや、カーテンをつけるのであろうレールを拭いてもらった。
2人で効率よく作業したおかげで、数分くらいで作業が終わった。
他の3人はまだ部屋を掃除していた。
俺は「奥の二つの部屋掃除しておくから、みんなは一階の方を頼む。」と、みんなに一声かけて、俺とスグハは奥の部屋へ向かった。
まずは階段から見て右側の部屋に入った。
そういえば、俺は昨日この部屋の中を見る前に自分の部屋を決めていたっけ。
「…。」
その部屋には大きな時計が置かれていた。
おじいさんの古時計みたいな、振り子式の時計だった。
黒い木でできているようで、今は振り子も時計の針も動いていなかった。
「…ねえ、ナオヤ。」
スグハが剥き出しの肩を縮こませながら言った。
「ん?」
「なんか、この時計、嫌な感じがしない?」
「そうか?」
俺は古時計に少し触れてみた。
すると、古時計が動き始めた。
「え?」
「ナオヤ!大丈夫そう!?」
スグハが心配して俺の古時計に触れた方の手を触った。
「ああ、特に問題はないと思うが。」
特に倦怠感や、痛みがあるわけでもない。
ステータスを開いてみたが、次のレベルまでのポイントが100P(フィールド効果により-30P)だったのが、97P(フィールド効果により-30P)になっているくらいか。
どっかで3Pの経験値を拾っていたらしい。
「この時計、一体何なんだろう。まあ、インテリアとして、居間にでも持って行ってみるか。全員が了承したら。」
「まあ、ナオヤが無事ならそれでいいんだけど。」
スグハがハラハラとしているのがわかる。
でも大丈夫だ。
「一応気になるから、浄化の魔法をかけておくわね。」
そう言って、スグハはさっきとはまた違った呪文を唱え始めた。
『浄化魔法』
すると、時計に向かってスグハの両手から銀色の半透明な刃が飛び出した。
刃は何度か時計を貫通したが、時計は特に変わらず、動き続けている。
「うん。特に問題はなさそうだけど…。」
スグハはまだ不安そうに言った。
「まあまあ、まだ問題はないんだから、とりあえずこの部屋を掃除しようぜ。」
俺はそう言って箒と塵取りで床の埃を掃き始めた。
スグハは時折心配そうに俺と時計を交互にチラチラ見ながら、窓ふきを始めた。
おそらくこの時計は前のこの家の持ち主のものなんだろうが、一体なぜこの時計だけ置いて行ったんだろうか。
そんなことを考えながら、俺たちは次の向かいの部屋の掃除へ移った。
こちらの部屋は手前の4つの部屋と同じで、ベランダが見える大きな窓と、やや小さいクローゼットがついていた。
ここは手際よく掃除をして、廊下の埃や泥を拭きながら、1階へ降りた。
すると、俺が降りてきたタイミングで庭の掃除を手早く終わらせ、台所の掃除をしていたハナビさんが俺たちを呼んだ。
「そろそろお昼にしましょう。」
俺たちはその場に掃除用具を置いて、台所まで向かった。
台所にはハナビさんが作ったのだろう、サンドウィッチが置かれていた。
どうやら俺たちが最後だったようで、ライトたちはリビングにしようと言っていた部屋に持って行ったそうだ。
俺はスグハの分の皿も一緒にリビングまで持っていき、すっかり綺麗になったリビングの床に皿を置いて待っていてくれた4人にお礼を言って、みんなで食べ始めた。
「そういや、」
俺は古時計のことを思い出して言った。
「2階の奥の部屋に結構古めの大きい時計があったんだが、ここのリビングにおいてもいいか?」
「え、時計なんてあったか?」
ライトが言った。
「うーん、なんか嫌な予感がするし、やめといた方が…。」
「その時計、振り子時計なんだが、俺が触れた瞬間動き始めたんだよ。」
「おい、それ絶対危ないやつ!」
ツバサがすかさず言った。
「そのままにしておいた方がいいと思う。」
ススムが最後のサンドウィッチを平らげながら言った。
「しゃーない、じゃあ奥の部屋にそのまま置いておくよ…。」
俺が言うと、ハナビさんが、
「おそらくその時計は、触れた人の寿命がわかる時計ではないでしょうか。」
と言った。
「魔道具の一種なのですが、主に危険な仕事をしている人が家族に生きているのか、死んでいるのかを知らせる道具です。触れた人が死んでしまうと、時計の針も止まってしまいます。特に大きな呪いがかかるというわけではないので、ご安心を。」
「でもまあ、どっちにしろ普通の時計と変わりないだろ。」
俺が言うと、ライトも別にいいかと言うような雰囲気で、
「まあインテリアとしてはちょうどいいか。」
と言った。
俺たちは昼食を食べ終わった後、手早く一階の物置を掃除して、古時計をリビングまで持ってくることになった。
時計は見た目に反して思ったよりも軽かった。
まあ、筋肉ムキムキのドワーフのススムがいるし、俺たちは少しの力だけで持ち上げれたんだと思うが。
時計はリビングに入って左の奥の隅に置くことになった。
たった1日で家中の掃除が終わった。
その後、俺たちはラミアさんに呼ばれて、また長老の家に行くことになった。