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第二十五話 アザトース神会の聖書

「ナオ、大変よ…!」

スグハが震える声で全身に冷や汗をかきながら言った。

「この本に載ってることが本当なら、こいつらは世界を消滅させるつもりだわ。」

「世界を消滅?」

何そのゲームのラスボスの魔王みたいな野望。

俺はスグハから本を受け取り、パラパラと捲った。

そこにはこの世界の文字で長々と神話のようなものが綴られていた。

「一番最後のページよ。」

俺はスグハに言われて本の一番最後のページを開いた。

そこには真っ白な光を放つローブを羽織った、1人の人間が跪く人々の前で神々しく佇んでいる絵が描かれていた。

「これが世界の消滅?」

俺が聞くと、スグハは跪く人々の足元を指さした。

そこには地面がなく、黒い奈落のようなものが広がっているのが見えた。

人々はまるで地面があるかのように膝を突いていた。

よく見ると不気味な絵だ。

「つまり、人々は還る大地が無くなったことを表しているの。大地は命の源。世界の土台でもあるわ。それが失われたってことは、世界が崩壊したことを表しているの。」

俺は挿絵の下に書かれている象形文字のようなもので書かれた文章を眺めた。

この世界に来てから言葉だけでなく文字までわかるようになったのはかなり便利だ。


天より白い光を放つ衣を纏った天人来たる。

かの天人こそ真の世界の創造主であり、封印されし創造神アザトースである。

主が来たとき、同じく12柱の天使も舞い降りる。

天使は穢れた大地を消滅させ、さらに穢れた大地に巣食う生命を絶滅させた。

主に従う、天使の羽を持つ者だけは魂の浄化が行われ、再生の大地に蘇ることができる。


ざっと斜め読みした感じ、とりあえずアザトースとやらはこの世界を作り変えることが目的らしい。

「うーん。よくある宗教の教えみたいだな。」

俺が言うと、ライトも頷いた。

というかただの痛い厨二病の書いた小説みたいだな。

「天使の羽って、要は免罪符みたいなもんなんだろうな。」

俺は気を失っているアザトース神会の枢機卿に目を移した。

枢機卿は確かキリスト教の教会の階級だったか?

端正な顔立ちの女はどう見ても二十歳前後だ。

教会の幹部にしては若すぎる。

「ところで、チャドさんは助けなくていいのか?」

ライトがエルサさんに聞いた。

唐突に割り込んできたラスのせいですっかり忘れていたが、チャドさんはオークロードと交戦中だったな。

俺はラスから視線をチャドさんの方に向けた。

チャドさんは長い戦闘で疲弊しているのか、動きにキレがなくなってきていた。

「任せて。」

エルサさんが腰の筒から矢を取り出し、背中に担いでいた弓を構えながら言った。

「団長!行きますよ!」

エルサさんは声を張り上げて言った。

チャドさんは弓を構えるエルサさんを見て、大きく後ろに飛びのけた。

それとほとんど同時にエルサさんは矢を放った。

矢は赤い光を放ちながらオークロードの左脚の太腿に刺さった。

「GUUOOOO!!!」

オークロードは深々と刺さった矢の痛みに悲鳴を上げた。

斬撃と違い、矢は身体の中に残るから痛みがずっと続くのだろう。

「動きが鈍くなった!全員で叩くよ!」

スグハに言われ、すぐさま俺たちは剣を構え直した。

『スキル・体力増強・脚力強化』

『スキル・体力強化・脚力強化』

俺たちは痛みに悶えているオークロードの頸に剣を叩きつけた。

「2人とも!そのまま抑えてて!」

俺たちは剣をオークロードの腕と脚に突き刺した。

さらにライトはスキルの粘糸を使ってオークロードを巻き付けた。

チャドさんは刀を鞘に収めて、固定されているオークロードとの間合いを一気に詰めた。

そして素早く刀を抜き、オークロードの胸を真一文字に切り裂いた。

「GUOOOOOO!!!!」

またもオークロードは悲鳴を上げ、さらにチャドさんが切り込むと、完全に沈黙した。

「殺したんですか?」

ライトが聞くと、チャドさんは言った。

「…いや、このオークにかけられた呪いを切った。」

「呪いを…?」

「…ああ。…オーク35体分の知力と腕力を無理やり付け足されていた。」

「こいつはどうするんですか?」

ライトが聞いた。

「…村まで連行する。…長の判断に委ねる。…ミレイを呼ぼう。」

チャドさんが連絡魔法のようなものを唱えようとすると、エルサさんがそれを止めた。

「私と一緒に来てて入り口の前で待っててるわ。」

エルサさんは開けっぴろげていた扉に向かってミレイさんの名前を呼んだ。

「呼んだー?」

ミレイさんは扉の影からひょこっと顔を覗かせた。

いつの間にやら、俺たちが拘束していたオーク達も収納したらしく、入り口のオークの塊は消えていた。

「ミレイ、このオークを収納してくれる?」

「おっけー!」

ミレイさんがオークを全て収納してから、俺たちはオークの巣から出た。


巣から出る途中、どこかから女性の呻き声が聞こえてきた。

「人間の声ですね…。」

俺が聞くと、チャドさんは頷いて、確認しに行ってみようと言った。

声が聞こえるのは、どうやら枝分かれした洞窟の部屋のひとつだった。


そこはどこの部屋にも増して異臭がして、部屋の前に立っているだけで吐き気を催すほどだった。

俺は布の上から鼻をさらに押さえた。

スグハは元来た道をまっすぐに戻って部屋から距離を取っていた。

「…あまり見ない方がいい。」

チャドさんはそう言って、俺たちを遠ざけようとした。

ミレイさんも頷いて口を押さえながらヨロヨロとスグハのいる方へ向かった。

俺はミレイさんを支えながら、スグハの方へ向かった。

ライトはエルサさんとチャドさんと一緒に部屋の中へ入って行った。

エルサさんは無理についてこなくても大丈夫だとライトに言ったが、ライトは大丈夫だと言って2人に付いて行った。


スグハが辺りの空気を浄化魔法で浄化してくれているのを眺めていると、部屋に入った3人が戻ってきた。

「大丈夫ですか?」

俺が聞くと、3人は気分の悪そうな顔をして頷いた。

スグハは気分の悪そうな3人にも浄化魔法をかけた。

「それは…?」

チャドさんが抱えたボロ切れに包まれた何かを指さして聞いた。

「…子供だ。…おそらくあそこで犯されたときに産まれた子供だろう。」

さらっと生々しいことを言いながら、チャドさんは俺に抱えていた子供の顔を見せた。

泥かなにかで汚れているが、顔立ちは人間の赤子とそう変わらない。

だが確かに、人間の耳とオークの豚のような三角の耳の二種類が生えていたり、小さな口から大きな牙が生えていたり、人間とは異なる部分もあった。

顔色も悪く、碌に栄養も摂れなかったのだろう。


俺たちは急いでエルフの集落に戻った。

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