第二十一話 オーク牽制作戦
俺たちは南の森の方角を向いて立っていた。
村を囲う壁の上に立っているのだ。
今こちらの季節は春に入ったばかりらしい。
ぬるい風が吹きつけ、自警団から支給されたレザーアーマーに付いているフードがバサバサと靡いている。
「ここからだとわかりやすいな。」
前方をじっと見つめていたテリーが言った。
俺もテリーと同じ方向を見つめた。
良く見ると薄茶色の小さな塊がこちらに向かってゆっくり向かってきていることがわかる。
「んー?」
この中で唯一(…いやスグハもいるから唯一ではないか。)エルフではないライトが目を良く凝らして見ようとしているが、何も見えていないようだ。
エルフは最も5感が優れている種族らしく、転生前は視力が0.06だったのが、今では遠くの様子もくっきり見える。
視力2くらいになってるんじゃないだろうか。
「進みは…オークにしてはかなり速いな。」
ラミアさんが油断なく弓を構えて見つめてた。
「速いんですか?」
オークの行進はまだかなり奥の方でもごもごしていて、こちらに向かっているようには見えなかった。
俺とラミアさんだとラミアさんの方が目がいいらしい。
「どうなっている?」
偵察に出ていたランガスさんとチャドさん、ミレイさんが戻ってきた。
「オークたちは大きい個体を先頭にして真っ直ぐこっちに向かってるみたーい!」
ミレイさんが言った。
「…おそらくオークキャプテンだろう。…どのオークも革の装備と鉄の鈍器で武装をしていたが、特に先頭のオークは重厚な鎧を着ていた。」
チャドさんが言った。
「革の鎧くらいならそこまで脅威でもないんだが、いかんせん数が多いもんで、撤退するとは考えらんねえ。」
ランガスさんも頭をがりがり掻きながら言った。
「ふむ…。」
ラミアさんが唸った。
「…やるだけやって見るぞ。」
チャドさんが言った。
「りょーかーい!」
俺たちは魔力を固め始めた。
どでかい爆発を起こさないと、あの距離だと見えないからだ。
両手を向かい合わせにして魔力を固める。
青い眩い光となり、形を成した。
「…ナオ、ライト、スグハは俺たちが打ってしばらくして打て。…合図をする。」
チャドさんが俺たちを見ながら言った。
「わかりました。」
チャドさんは頷いて、オークの群れに目を戻した。
「…第一撃…今だ。」
チャドさんが静かに手を挙げ、言った。
すると、ラミアさん、エルサさん、ミレイさん、テリー、ランガスさんがそれぞれの魔法弾を真上に投げた。
そして十分な高さまで上がったところで、爆発した。
「どうだ!?」
ランガスさんが手をヒサシの様にしてオークの群れを見つめた。
「反応は薄いな…。よし、3人とも、今度はオーク達に向かって魔法弾を放て!届かなくても構わない!」
「…第二撃…今。」
チャドさんが言うのと同時に俺たちは魔法弾をオーク達に向けて放った。
青と緑の光の塊がオークの群れの一歩手前で炸裂した。
「どうだ?」
「警告の思念は込めておいたけど…。」
警告の思念は込めておいたけど?
「何それ。」
俺はスグハの発言に驚いて言った。
「魔法はイメージだからね。自分のイメージ次第でいくらでも調整できるのよ。…まあ、その人の技量にもよるけどね。あたしは高魔術師の称号を持ってるから。」
スグハが説明した。
「ふーん。で、オーク達は?」
「逆効果だったようだ。」
でしょうね!
そんな気はしてたよ。
「今のでオーク達が興奮してこちらに向かって走り出した。」
確かに良くみるとさっきよりも土煙が激しくなったような気がする。
「力尽くで行きますか?」
「奴らは何を狙ってこっちに向かってるんですかね?」
ライトが鋼の剣の柄に手を当てながら言った。
「商人ギルドで聞いたけど、春になると実がなるリチューの実を狙ってるんじゃないかって…。」
スグハが人化して言った。
「どうだろうな…。」
俺は今朝見た夢を思い出しながら言った。
夢ではエルフの里を襲う、と言った。
「壁を造って迂回させるのはどうだ?」
ランガスさんが言った。
「みんなの中で土魔法に長けた者はいるか?」
ラミアさんが言った。
「できなくはないけど、あれを止められるような壁は作れそうもないわ。」
スグハが前方を見定めながら言った。
「そうか…どうするか…。」
全員唸った。
俺はミズキさんとリラさんにもらった地図を開いてみた。
何か地形を利用できないかと思ったからだ。
しかしいくら見てもいい案は思い浮かばなかった。
「ん?なんだあれ?」
テリーが言った。
俺たちは一斉にテリーの指差す方向を向いた。
見るとそこには巨大な黒い塊ができていた。
オークが金属製の何かを設置した様だった。
「大砲?」
俺は金属製の設置物を見て思わず呟いた。
「「大砲??」」
スグハとミレイさんがおうむ返しした。
「…聞いたことあるな。…王都や城壁都市、軍国国家でよく見られてるって言われてるな。」
チャドさんが顎に手を当てながら呟いた。
「な、なんでそんな物をオークが?」
ミレイさんがアワアワとしながら言った。
「オークが持ってる物特有のツギハギ感がないな。」
テリーが言った。
「…とにかくあれを村に放たれたらまずい。…止めに行くぞ。」
チャドさんが大砲に向かって刀を抜いた。
「…近接が得意なランガス、ミレイ、ナオ、ライト、そして俺は大砲に向かう。…その他の者はここに残って見張りを頼む。」
俺たちはチャドさんの指示に頷いた。
「ライト、気をつけてね。」
「わかってる。心配すんなって。」
エルサさんとライトが囁き合う。
「あたしはナオと一緒に行くわ。何かあったら魔法弾を打ち上げて知らせるわ。」
スグハはそう言って俺のそばに戻ってきた。
オークの群れは三つのグループに分かれているようだった。
“物資を運ぶグループ”と“大砲を調節するグループ”、“盾と鉄製の棍棒を持ち前進を進めるグループ”だ。
「オークの癖に統率力がすごいな。」
ライトが木の上からオークの群れを眺めて言った。
俺たちは今、オークの群れの上を進んでいる。
オークの群れの後方に進むほど、森の木の高さは高くなっていた。
まあそれでも巨体のオークの背丈よりも高いのだが。
エルフの森だからか、木の幹や枝は太く、頑丈だ。
少し暖かくなってきているからか、すでに薄い細い葉が生えている。
俺たちはエルフだから、ライトは猿耳族だから木の上をスムーズに進んでいく。
「もうすぐ大砲の設置場所に辿り着くわ!」
俺たちの頭上を飛んでいるスグハが言った。
「敵の数は?」
ライトが木から木へと飛び移りながら聞いた。
「大砲の近くには5、10、15、20、25、30、35、37!37体だ!」
ランガスさんが前方を凝視して叫んだ。
俺もライトたちと同様木から木へと飛び移って行く。
転生前だったら考えられない行為だ。
エルフだからなのか、木の枝に着地する時に足が木の枝に吸い付くようにピタッと止まるのだ。
しかも木から飛び移った時に落ちたらどうしようとかいう恐怖もない。
人間が道路を歩くときに落とし穴に落ちることを心配しないのと同じような感覚だ。
大砲の近くまで辿り着くと、そこには37体のオークと12機の大砲が置いてあった。
やや小柄なオークがせっせと大砲に火薬か何かを詰め込んでいる。
そして別のオークは黒い丸い物体を抱えて火薬が詰め終わるのを待っていた。
「あの斧を持ってるオークたちは見張りか?」
ランガスさんが呟いた。
「…おそらくそうだな。…奇襲を仕掛けるぞ。…合図をしたらナオとライト、ミレイは奴らの武装解除をしろ。…俺とランガスそれからスグハで拘束する。」
俺たちは頷いて理解したことを示す。
「…今だ。」
チャドさんの合図とともに俺たちは木の上から飛び降りた。
「ヂュィ!?」
突然の出来事にオークたちが声を上げる。
俺は落下の勢いに任せて斧の持ち手に鋼の剣を叩きつけ、へし折った。
俺の鋼の剣は今の衝撃でも折れたり曲がったりすることはなかった。
「…ナオ、後ろ!」
チャドさんが叫んだ。
俺は咄嗟に左へ避けた。
するとさっきまで俺がいた場所にやや泥や錆で汚れた斧が突き刺さっていた。
「…強化系のスキルは使って構わない。…二人はまだ身体能力で俺たちに劣っているからな。」
チャドさんは刀の峰でオークの膝を折りながら言った。
「わかりました!ありがとうございます!」
俺はチャドさんに礼を言って、スキルを使った。
『スキル・体力増強 脚力強化』
視界の端の青色のバーが少し短くなった。
『スキル・体力強化 脚力強化』
ライトもスキルを使ったらしく、短く宣言が聞こえたと同時にオーラがライトの体を包んだ。
オーラの色は魔力の色に影響を受けるのか、俺のオーラは霞のような青色なのに対し、ライトのオーラは鮮やかな緑色だった。
俺はまず近くにいたオークを踏み台にして真上に飛び上がった。
踏み台にしたオークは一瞬戸惑った後、真上に飛び上がった俺を見て斧を防御のために構えた。
斧の刃はこちらを向いている。
俺は呪文を短く呪文を唱える。
「大気にありし全ての魔法の子、我が手に集え。大気を潤し時に災害をも招く命の管理者、水蒸気を凝縮し、大地を潤し、生命を潤す真水を生成せよ!」
『水よ』
バシャッと音を立ててオークの顔面に水の塊が炸裂する。
オークは一瞬驚き目を瞑った。
その隙に俺はオークが握っている斧の柄に剣を叩きつける。
柄は少し硬い木が使われているのか、叩き落とすつもりが、剣が持ち手に刺さってしまい、抜けなくなってしまった。
オークは目に入った水を落とそうとして腕で目をゴシゴシ擦る。
そのおかげででオークの斧を持つ手が緩んだ。
俺は体力増強のスキルで強化した馬鹿力で剣を下に向かって押し込む。
斧は体重をかけていた俺もろとも地面に叩きつけられた。
オークは目の水が取れたのか、斧が付いた剣を構える俺と何も持っていない両手を見て、それから俺に突進してきた。
しかし俺はその攻撃を避けなかった。
いや、正確には避けれなかったと言うべきか。
このまま突進されていたら、俺はぐちゃぐちゃになっていただろう。
スグハが呪文を短く、正確に唱えた。
『状態変化魔法』
オークの動きがぴたりと止まり、足が止まったせいでオークは前方に倒れ込んだ。
スグハはすぐに魔法の縄を出現させ、オークの手足を縛り、拘束した。
「助かった!ありがとう!」
俺がスグハに礼を述べると、スグハは照れくさそうにえへへっと笑った。
ミレイさんはまたどこから取り出したのか、ミレイさんの身長と同じくらいの大きさのハンマーを振り回していた。
ハンマーは全ての部分がダークブラウンの木でできていて、槌という種類らしい。
ミレイさんが槌をオークたちの斧の刃の部分にぶつけると、斧は勢いよく吹っ飛んだ。
その間にランガスさんが縄を巻いてオークを拘束した。
「ヂュイィ!」
いきり立ったオークがミレイさんに向かって猛突進してきた。
ミレイさんは槌を大きく振りかぶり、地面に叩きつけた。
すると、地面が波打つように円を描いた。
突進してきたオークと後ろで突っ立っていた2体のオークの足もとを崩した。
その隙にランガスさんが縄を使って、手足を縛り上げた。
自警団同士連携がうまく取れている。
ライトも俺と同様に鋼の剣をオークの体、特に関節の部分に叩きつけて体勢を崩すことに努めていた。
「どらぁぁ!!」
叫び声を上げながら。
ライトはオークの足の関節の裏を切りつけた。
オークはその場に崩れた。
そこでライトは素早く小さな魔法弾を発生させ、オークの頭に打ち込んだ。
オークは魔法弾の反動のまま地面に倒れ伏した。
すかさずチャドさんが倒れたオークを縛りつける。
「…いい調子だ。」
「はいっ!」
チャドさんに褒められて嬉しいのか、ライトは元気よく返事をした。
気がつくとオークは全員縛り上げられていた。
「楽勝だったな。」
ライトが胸を逸らしながら言った。
「そうだね。」
俺たちはひとまとまりに縛られたオークの集団を見て言った。
「あとは大砲だな。」
俺たちはエルフの村の方角に口が向いた12機の黒光りする大砲を見た。




