第二十話 商人ギルドにて
俺たちはツバサとススムと別れた後、ハルヒとヒュリチェルをコウセイたちの馬宿に預けて、その足で商人ギルドへ向かった。
商人ギルドの扉を開くと昨日と同じ場所にあのオレンジ色の商人とタイチとユウトが待っていた。
「すみません。」
俺は3人に遅れてしまったことを謝って、エルフの里であったことを説明した。
「と言うわけで、今日オークたちにこれ以上北上しないように牽制する予定です。」
「なるほど…。」
商人、ホーンさんが顎に手を当てて言った。
「ですが、その牽制でオークたちが素直に撤退するとは思えません。おそらくオークたちは春になると実がなるリチューの実を狙って北上していますからね。ですので、ナオさん、タイチさん、ユウトさんそれと、スグハさんに護衛の依頼は継続させていただきます。」
ホーンさんはぺこりと低頭した。
「わかりました。」
俺は頷いた。
スグハも俺がいいならそれでいいみたいな感じで頷いた。
「俺たちも旦那様から許可が出たので、護衛の依頼引き受けさせていただきます。」
タイチとユウトも頷いて言った。
「ありがとうございます。」
ホーンさんはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「出発はいつですか?」
ユウトが聞いた。
「できれば今日中に出発してしまいたいところですが、ナオさんはエルフの牽制作戦に参加するんですよね?」
「はい。ですが、明日には出発する予定を立てていたので、明日なら行けます。」
「ふむ…では、余裕を持って明後日の正午に出発しましょう。」
「わかりました。」
俺たちは揃って頷いた。
「護衛にあたって皆さんには武器をお渡ししたいのですが、ここまでやってくるのに、売り払ってしまったものですから…。」
ホーンさんは申し訳なさそうに言った。
「俺は長老からもらった剣があるから大丈夫ですけど、二人は…。」
俺はタイチとユウトの方を向いた。
二人とも馬宿の下男らしい清潔ではあるものの、防具とはとても言えない麻の服を身に纏っていた。
「それじゃあ、今から武器を買いに行きましょ。」
スグハが言った。
「すみません、経費として報酬に上乗せしますので、何卒。」
ホーンさんはよほどお金がカツカツらしく、有り金合わせても盾一枚買えるかどうか、と言うレベルなんだそう。
幸い、商人ギルドでは、ギルド会員なら無料で泊まれるらしく、宿には困っていないそうだ。
「わかりました。それでお願いします。」
タイチは頷いてホーンさんの提案というかお願いを了承した。
「武器の目利きは任せてください。これでも鉱石商人の端くれ、武器に使われている鉱石の質くらいはわかりますから。」
俺は3人と後で武器屋で合流することにして、昨日の約束通り、リラさんたちから地図を受け取りに、カウンターへ向かった。
「お待ちしていました。」
リラさんは机に突っ伏して眠っているのか、代わりにミズキさんが俺たちを出迎えた。
「おはようございます。」
「おはよう!」
俺たちはそれぞれ挨拶をした。
「おはようございます。地図は引き出しの中にあります。」
ミズキさんはそう言って、リラさんを押し除けて引き出しを引いた。
リラさんが椅子から転げ落ちそうになる。
「はうあ!」
リラさんは椅子から転げ落ちまいと椅子をしっかり握りしめた。
その結果、椅子ごと後ろに倒れ込み、頭から床に激突し、その衝撃で完全に目が覚めたようだ。
「リラ、おはようございます。」
ミズキさんがにっこりと笑ってリラさんに笑いかけた。
「お、おはよぅ。」
リラさんは目をぱちくりさせながら言った。
「はい、こちらです。ナオ様、スグハ様。」
そう言ってミズキさんが取り出したのは一冊の冊子だった。
「これが地図?」
「はい。とはいえ、このギルドの商人たちが回る場所しか記載されていないので、この大陸以外の地図は載っていません。」
俺はパラパラと地図をめくった。
そこには簡素なおおまかな地形と名称が書かれた地図や、町や村の地図も時々書かれている。
つまり、これは地図帳だ。
「ありがとうございます。」
「その写本はお二人に譲渡いたします。その代わり…と言ってはなんですが、お二人はホーン商会様の護衛の依頼を引き受けたそうですね。今後も商人ギルドの商人の護衛の依頼を引き受けていただきたいのです。」
ミズキさんが頭を下げる。
するとスグハが不思議そうに頭を傾げた。
「なんで私たちに?傭兵ギルドの連中は?」
「それは私の方から説明しましょう。」
リラさんが椅子を元に戻して、キリリッとした表情を作って言った。
「実は一昨日にオークの氾濫についての報告を冒険者ギルドから受け取って、傭兵ギルドに護衛を依頼したんです。ところが、オークと聞いて油断していたのか、あっさりと潰されてしまったんです。生き残った一人の証言によると、そのオークたちは鋼の装備で武装していて、かなり強かったらしい…。」
俺とスグハは顔を見合わせた。
「その報告を聞いた傭兵ギルドのギルドマスターはギルド内でも一度も依頼を失敗したことのない傭兵のパーティー、本来なら貴族の護衛なんかに就くレベルのエリートを集めて偵察に行かせたらしいんです。」
「愚かね…。」
ミズキさんが呟いた。
「傭兵ギルドはあくまでも護衛に特化したギルドで魔物と戦闘することが目的ではないはずなのに…。」
スグハも驚いたような顔をして言った。
「その通りです。その偵察によってその傭兵たちは全員重傷を負い、仕事ができなくなってしまったらしいです。元々貴族の護衛で強い傭兵が出払ってしまっていて、商人の護衛まで手が回らなくなってしまったんです。」
「そこでお二人にお願いしたいのです。」
俺たちは再び顔を見合わせる。
「俺は別に構わないが…その依頼ってどうやって受けられるようにするんだ?」
ちょうど俺の適正依頼は護衛だしな。
「こちらを使います。」
リラさんはそう言って金箔が貼られた硬貨と馬のような模様が入ったスタンプを取り出した。
「冒険者ギルドのカードはありますか?」
俺はポケットを漁った。
「はい。あります。」
俺はカードをリラさんに渡した。
リラさんはカードを裏返しにして、横にスライドさせた。
するとパーティー欄が消えて、「特別依頼受注可能ギルド」という欄が現れた。
「このスタンプは商人ギルドの専属護衛であることの証明のためのスタンプです。商人ギルドから依頼が入った時に魔法文字として受信されます。そこから依頼を受けるようにお願いします。そして、このスタンプがあることで、各地の商人ギルドの商人宿に泊まることもできますので、ぜひご利用ください。」
「こちらに今言ったようなことを詳しく書いた契約書があります。しっかりと内容を確認した上で、同意のサインをお願いします。」
俺は一度返却されたギルドカードをポケットに入れて、ミズキさんから貰った契約書を読み始めた。
スグハも俺の肩に止まって契約書を読み始めた。
契約書には以下のようなことが書かれていた。
・この契約書はあなたを商人ギルドの専属護衛として扱うことを契約する書類です。
・まず初めにあなたは商人ギルドの護衛依頼を他の冒険者よりも多く受けるようになり、他の依頼が受けられなくなる可能性があることをご了承ください。
・護衛の依頼が入った際には、他の依頼よりも優先して依頼にあたるようにしてください。
・あなたは商人ギルドのギルド会員と同等の権限が与えられます。
(ギルド内の宿泊施設の利用が無料である、など)
・ギルドカードを通じて依頼を伝達いたします。
・報酬は経費を除いて一律大銀貨20枚とさせていただきます。
・商人ギルド経由の商品購入の際の身内割引を利用することができます。
・護衛依頼に失敗した場合は、賠償金、小金貨500枚を商人ギルドに支払ってもらいます。
(戦死した場合は遺族から同等以上の金額を支払ってもらいます。)
そのほかにも色々誓約みたいなことが書かれていた。
一通り読んだが、俺たちにマイナスになることはほぼ書かれておらず、むしろ商人ギルドが受ける利益の方が少ない気がする。
「これ、ギルドの利益ってどうなってるんです?」
俺が尋ねると、リラさんは、
「専属護衛というのはギルド創設以来28名しか任命されていない、特別な称号なんです。現在生存しているのは2名しかおらず、ギルドに対する利益は護衛を大銀貨20枚ほどで済ませられるので、そこだけで十分なんです。」
「なるほど。スグハ、どうする?」
「あたしは別にいいわよ。それに旅をするんだったら、やっぱりこういうのはあったほうが有利よ?」
「それじゃあ、受けます。」
俺は承諾して契約書にサインをした。
「ありがとうございます。」
リラさんは俺から契約書とギルドカードを受け取った。
そして俺のギルドカードにスタンプを押した。
魔法のインクが輝き、ギルドカードに商人ギルドのエンブレムが押された。
スグハもスグハのギルドカードにスタンプを押してもらった。
改めて少し護衛の仕事内容の説明を受けた後、俺たちは商人ギルドを後にした。
先に行ったタイチとユウト、ホーンさんに会うために武器屋に向かった。
武器屋は商人ギルドから出て左に進んだ先にあった。
「武器屋ランドラ」という文字が刻まれた看板が見える。
武器屋の外装はファンタジーアニメに出てきそうな武器屋の見た目をしていた。
赤茶色のレンガでできた屋根に、白く塗られたレンガでできている。
俺は扉を押して、中へ入った。
中には立派な黒い髭を生やした褐色の肌の中年の猿耳族の男性がタイチとユウト、ホーンさんと何か話していた。
その奥ではカーンカーンと金属を叩く音が聞こえてくる。
「いらっしゃい!」
中年の男性が俺たちに気がついて声をかけてきた。
「やっときた。」
タイチが言った。
「すまんすまん。それで、武器は何にするか決めたのか?」
俺は3人に謝りながら言った。
二人はそれぞれ頷いて言った。
「俺はこのダガーにするよ。」
タイチは今買ったのであろうシンプルなデザインの短刀を持って言った。
タイチがどんなスキルを持っているのか知らないが、兎耳族なら俊敏性を活かせるし、ぴったりの武器だな。
「僕はこれ。」
そう言ってユウトが取り出したのはちょうどユウトの身長と同じくらいの大きさのメイスだった。
「意外だな。」
「そう?ホビットになってから少し筋肉量が増えて多少重いものでも持てるようになったし、こういうのかっこいいなって思ってたからね。」
ユウトはうっとりとメイスを持ち上げて言った。
「ホビットは本来戦闘をあまりしない種族だから、暗器で敵を背後から奇襲するのがいいって言ったんだがなあ。」
男性、ランドラさんが困ったように頭を掻きながら言った。
確かにホビットが戦闘をしているイメージはないなあ。
「まあ、武器の選択は人それぞれだがよ。エルフの兄ちゃんは?何を探しに来たんだ?」
ランドラさんが俺の方を見て言った。
「俺たちはこの3人のお供です。」
「そうかい。にしても珍しいな、こんなに色んな種族が一緒にいるなんて。」
ランドラさんは俺たちをしげしげと見つめて言った。
「僕たちはホーンさんを護衛する依頼を受けてるんです。」
ユウトが言った。
「ああ。最近物騒だしな。風の噂じゃ数日前に四元素の勇者が全員現れたって話だが…四元素の勇者が現れたってことは、何か魔の力が強まってる証拠だしな…。」
ランドラさんは憂鬱そうに言った。
四元素の勇者…もしかしたらクラスメイトかもしれないな。
「その話、詳しく聞けますか?」
俺が聞くと、ランドラさんは言った。
「ああ。でもな、俺もそこまで知ってるわけじゃねえんだ。ここから南にある川を超えたところにあるルナラの村にいる知り合いが言ってたんだ。4人の勇者の称号を持ってる男女が冒険者ギルドに現れたってな。」
「現れた?」
タイチが話に食いついた。
「ああ。今までどこにいたのか、何をしていたのか、全く情報がないって話だぜ。急にギルドにやってきたらしいい。しかも身なりもそれなりに良いらしくてな。素性が全くわからないらしい。」
「妙な話ですね。」
ここで俺の予想は確信に変わった。
その勇者達はクラスメイトだ。
「じゃあ、ヴァルキリアにいく前にその勇者たちに会っておくか。」
俺はヒソヒソとスグハに言った。
スグハもそうね、と言って頷いた。
その後、少しランドラさんと世間話をして、昼ちょっと過ぎには町を出た。
オークの牽制作戦に参加するためだ。
ちなみに、ランドラさんのもとで働いているススムは、楽しそうに金槌で鉄を叩いて鍛えていた。




