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第十八話 オークの王

オークはとても野蛮な種族だ。

手先が不器用なため、自分たちで武器やその他の生活必需品を作ることができないので、そこかしこの村などから職人を攫ってはそういったものを作らせていた。

いつものように、オークのグローグは村から攫ってきた職人たちが逃げ出さないか、見張りをしていた。

職人は皆同じ洞窟に一緒くたに入れられていて、狭い机で革の鎧を縫い、薬を作り、狭い床で武器を作るために鉄を鍛えていた。

全員顔色が悪く、不健康に痩せているが、見張りのグローグは、人間とはこういう見た目なのだと勝手に思い込んでいる。

グローグはこの洞窟から出たことがない。

体が大きく、オークたちがよく狩りをする森の中では動きづらく、足手纏いとなってしまうのである。

そんな理由からグローグはここで他の狩りに出ているオークたちが攫ってきた人間たちの見張りをしているのである。


ある日、数人の猿耳族が、この巣を攻めてきた。

猿耳族たちは足元が悪く、普通泥が跳ねて汚れが目立ってしまうはずなのにも関わらず、真っ白な法衣を着ていた。

そして首には炎のエンブレムを下げていた。

鎧を着ている者もいたが、ほとんどの者は白い法衣のみだった。

鎧を着けずにオークの巣に足を運ぶなど自殺にも等しい行為だった。

グローグはそんな異常な行動をする猿耳族たちに警戒心を露わにした。

グローグは巣の奥にいる女子供と職人を渡さぬために洞窟の入り口に立ち塞がった。

「(人間、何しにきた)」

グローグはそう言ったのだが、猿耳族の彼らにはオークがブヒブヒ鳴いているようにしか聞こえなかった。

「聞け、愚かな豚よ。我らは創造神に使える者。」

今度はグローグが頭を傾げる番だった。

人間とオークはお互いに相手の言葉を理解できないのだ。

グローグは猿耳族の集団がオークを殲滅しに来たのだろうと決めつけ、一番先頭にいたタワーシールドを構えた鎧の男に殴りかかった。

グローグは体格も大きく、他のオークよりも強い。

ここが森の中でなく広々とした草原だったなら、グローグはもっと活躍する場面もあっただろう。

そしてハイオークに昇格することもできただろう。

グローグの拳はタワーシールドを破壊し、構えていた男を遥か遠くに吹き飛ばした。

「まさかタワーシールドを粉々にするとは。気に入ったぞ。」

グローグは不敵に笑みを浮かべる法衣の男を不気味に思い、一歩引いた。

「オークは力も頭も足りない連中だと思っていたが…お前には特別に“施し“をやろう。」

そう言って男は後ろに控えていた荷物持ちらしき男に指示を出した。

荷物持ちの男は背負っていたリュックから、どう考えても入り切るはずがないオークの頭を1つ2つだけでなく何十個も出して、ぬかるんだ地面に放り出した。

数は狩りに出ていたオークたち5体で一つのグループ、それが7グループだったため、全部合わせて35匹分のオークの頭が地面に転がった。

グローグは同胞の頭が次々と地面に放り投げることに関しては、特になんの反応も示さなかった。

オークの道徳として、強気者が絶対であり、敗者はゴミクズ同然である。

よってグローグは一緒に肉を食ったこともある仲間の死体になんの感情も示さないのである。

「エルフよ。」

法衣の男が、今度は奴隷印のついた金属製の足枷、首輪をつけた、白髪のエルフの少年を呼んだ。

「…。」

エルフの少年は魂の抜けたような表情をしていて、青い色の瞳は霧がかかった空のように濁っていた。

少年はフラフラと操り人形のようにグローグに近づいてきた。

「(なんだ?)」

グローグはエルフの少年の曇った瞳を見てさらにもう一歩後退りした。

「何をしている?はよう“施し“をしないか。」

法衣の男が催促した。

するとエルフの少年の枷と首輪に刻まれた奴隷印が紫色に光った。

「アアァ!」

少年は紫色の光に飲み込まれ、苦しそうに叫んだ。

そして一気にグローグまで跳躍し、グローグの胸元に手を添え、何か呪文を唱えた。

その呪文は誰も理解することができない。

唱えているエルフの少年自身も自分がなんの呪文を唱えたのか分かっていないようだった。

少年は呪文を結んだ。

『グロンアザギアティア・セントルメトナム』

放り投げられたオークの頭から赤茶色の魔力が溢れ出し、その頭を包み、分解し、それぞれの持つ知性、脳に刻まれたスキルを乗せ、身動きの取れないグローグにまとわりついた。

エルフの少年はグローグから距離をとり、法衣の集団のもとに戻った。

グローグの身体は急激な魔力の吸収、さらにはオークが持つには多すぎる知識の量に耐えきれず、悲鳴をあげた。

グローグの真っ黒な瞳は赤く変色し、身体も前よりも2倍も3倍も大きく膨れ上がり、筋肉は硬く、鎧のようになった。

牙や爪は長く、鋭く、硬くなった。

グローグは発狂した。

あたりにグローグの断末魔が響き渡り、法衣の集団たちは皆、耳を塞いだ。

次第に、身体に魔力が馴染んできたのか、徐々にグローグの声は小さくなり、気がつくと、グローグの頭の中はスッキリ冴え渡っていて、身体中に流れる赤茶色の強大な魔力が心地よく感じた。

「気分はどうだ?」

先ほどエルフの少年に“施し”を命じた法衣の男がグローグに語りかけた。

グローグは法衣の男がなんと言ったのか、はっきりと聞き取ることができた。

グローグは口を開いた。

「イい…キブんダ…。」

発音は拙いものの、オークには不可能だとされた人間の言葉を発することができた。

法衣の男たちは驚いた顔を見せた。

35匹分の知性を吸収したとはいえ、オークは元々知性がかなり低い種族なため、人間の言語を理解できるとは思っていなかったのである。

しかしグローグは長い間巣穴で人間たちを見張ってきたので、人間の言葉は何度も聞いてきたのである。

おかげでグローグの耳は人間の言葉に慣れていたのもあり、そこに大量の知性が投入され、言葉を理解することができるようになったのである。

「ナにお…しタ…?」

グローグがなぜ自分に知性と力を与えたのか、尋ねた。

「お前は、お前が…お前たちオークをお造りになった唯一の創造神、アザトース様の使徒として選ばれたのだ。」

「アザ…トー…ス?」


オークは地中の神、ハーデスを信仰する種族であり、またハーデスに仕える種族でもある。

野蛮な種族、と最初に言ったが、文化的でないと言う意味ではない。

むしろ非常に文化的であり、その文化が人間など他種族から野蛮と思われているだけに過ぎないのである。

ハーデスは日の光を嫌い、地中奥深くに住み、地に還った屍を喰らうとされる神である。

人間からはマイナスのイメージが強いが、実はこの世の土台を築いたとも言われている。

ハーデスは創造神、セントウォムの娘である。

現在でも大地を広げていて、セントウォムが作り上げた無限に広がっているこの世界の端まで大地を広げることがハーデスの目的だと語られている。

オークの信仰しているハーデスの存在はそのように語られている。

アザトースという神は出てこないのである。


そのことを不思議に思い、グローグは尋ねたのである。

「お前が知らぬだけだ。オークは随分と排他的な種族らしいな。他の種族が仕える神のことを知らぬのも無理はない。アザトースとは万物をお造りになった真の創造神である。」

「セ…ント…ウォム…は?」

グローグは自分の知る創造神の名前を出した。

「其奴は紛い物だ。数々の種族を欺き、このアザトース様がお造りになった世界を、自分の望む欲に塗れた穢らわしい世界に染め上げたのだ。事実、忌まわしい戦の神や7つの大罪を作り上げたのはセントウォムだ。」

グローグはそうかそうか、と納得したように頷いた。

「納得したようだな?」

法衣の男が聞いた。

「あ、あ…。」

グローグが頷く。

「では、お前に最初の任務を与える。ここから先にあるエルフの集落を襲うための兵を調えろ。」

「エル…フのしゅう…ら…く…?ムり…できナい…オーク…つよ…クナ…い…。」

「何年かかっても良い。できるだけ戦えるものを増やして攻め込め。エルフの寿命は長い、自然消滅はあり得ないものと考えろ。」

グローグは少し考えて頷いた。

「ヤッテ…み、ル…。」

それを聞いた法衣の男が満足そうに頷くと、その背後に控えていた別の法衣の男二人が黒光りする両手剣を抱えて、グローグに差し出した。

「これは祝いの品だ。時にお前の名前を聞いていなかったな。お前、名はなんと言う?」

「グローグ…。」

「ではグローグよ。お前は今この森一帯のオークの王、創造神アザトース様に使える、オークロードとなった!以後、創造神アザトース様に忠誠をここに宣誓し、魔剣闇夜の大剣(ナイトメアグレイト)を受け取るがいい!」

法衣の男が叫んだ。

それこそ、森中に響き渡るのではないかと思うくらい、大きな声で。

「こコニ…アザトースさマに、ちゅうせ…いオちかウ…。」

グローグは先ほどよりも2回りも大きくなった手で、黒光りする両手剣、闇夜の大剣(ナイトメアグレイト)を受け取った。

オークロード誕生の瞬間であった。

あたりに潜んでいたオークよりも弱い魔物や、様子を見に来た巣の中にいた他のオークたちから歓声が響き渡った。

その声は森中を駆け巡り、森中の魔物たちにオークロード誕生を伝えた。

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