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第十五話 深夜の庭

深夜。

俺はリビングのテーブルに突っ伏していた。

夕食を食べた後、俺は魔導書を読み込みながら水魔法の練習をしていた。

その証拠にテーブルの上には透明な水から魔素によってやや白色っぽく濁った水まで、いろんな水が入ったコップが並んでいた。

そして俺のテーブルの隣の椅子にはスグハが妖精の姿で俺のかけた毛布に埋もれていた。

俺は毛布をスグハの顔が出るようにかけ直した。

そして、視界の左下に現れている紫色のバーを眺めた。

魔法を使うと、戦闘状態でなくても現れるらしい。

少し仮眠をとっていたからか、最後に見た時は少し縮んでいたのに、今見た時にはもう全快であった。

俺は仕上げにと、目の前に空のコップを置き、スグハを起こさないように小声で呪文の詠唱を始めた。

「「大気にありし全ての魔法の子、我が手に集え。我の命を受けよ、大気を潤し時に災害をも招く命の管理者、水蒸気をかの器に集め、凝縮し、大地を潤し、生命を潤す真水を生成せよ!」

ここで俺は大気にある水蒸気が合体して、大きな水の粒になるイメージをしながら集まったマナに魔力を込める。

水よ(ピリム)

するとコップに透明な真水が静かに出現した。

元々ステータスシートに載っていたこともあってか、火の魔法の呪文を覚えることよりも簡単に覚えることができた。

呪文は魔導書にはパズルのピースのようなものだと書いてあり、呪文の細かなところを変えることでより細かい指示をマナに出すことができるらしい。

最初の段階だと、単純に呪文を暗記して使った方が早いらしいが。

若干、学校で勉強するような英語の、単語や文法を学んで、それらを活用してオリジナルの文を作る、という作業に似ている気がする。


さて、そろそろ寝るかな。

そう思ったのだが、作りすぎたこの水をどう処理するかが問題となった。

魔導書には「水は魔素を含んでいる可能性があるため、植物に与えると稀に植物系の魔物を発生させてしまうこともあるため、できる限り自分で飲むか、魔素抜きを行うと良い。魔素は時間が経てば抜けていくため、とりあえず放置していて、魔素が抜けたら庭に撒くなどすると良いだろう。」と書いてあった。

水を気体に戻す魔法もあるのだが、そちらは風の魔法と炎の魔法、さらに水の魔法の3種類の魔法を複合した魔法なので、初心者には難しいと書いてあった。

エルフだからいけるだろうと思う人もいるだろうが、エルフは森の種族であるためか、炎魔法があまり得意ではないようなのだ。

そこで俺はとても良いことを思いついた。

確か、エルサさんがくれた家具の中に、貯水用の鉄製の大きな樽があったはずだ。

そこに作った水を入れて、風呂にしてみるといいかもしれない。

試してみて良かったらみんなも入れてやろう。

水を入れたコップはエルサさんが持ってきてくれたコップ(ビールジョッキよりやや小さいくらい)総勢20個全てに並々と注がれているが、多分樽いっぱいとまではいかないだろう。

まあそこは新しく水を作ればいいわけだし。

俺は意気揚々と樽が置いてある裏庭へ向かった。

もちろんスグハは俺たちの部屋のベッドにそっと置いて来た。

俺は早速樽に水を次々注ぎ込んだ。

そして5分の1ほど水が溜まったところでコップの水がなくなった。

思ったよりも樽は深く、一杯に水を貯めて俺が座ったら顎まで浸かれそうなほどだった。

俺は樽の上で使ったコップを洗いながら、少しずつ水を貯めていった。

洗ったコップは外用にと昨日の夜ススムが作ってくれた丸太のテーブルの上に並べた。

魔力のゲージが半分に減ったところで洗い物が全て終わり、樽にも水が半分ほど溜まっていた。

俺はせめて肩までお湯に浸かりたいのでもっと水を入れる。

そして魔力のゲージが尽きる一歩手前で水が樽一杯に溜まった。

水魔法はあまり魔力を消費しないらしく、一回で大きな樽に水を入れることができた。

しかし最後の方になると魔素がだいぶ混ざった質の悪い水ができるようになってしまった。

魔力が減ると精度も落ちてしまうらしい。

だがまあ、魔素が混ざった水でも触れるだけなら問題ないようなので、よしとする。

仕上げに炎魔法で水を温める。

休憩しながら一番使えそうな炎の魔法を魔導書で調べる。

朝使った火の魔法(フレイム)はあくまでも火をつけるだけの魔法なため、今回は使えない。

五右衛門風呂のようにするのも考えたが、この樽にあう木の板がないため却下。

なので水を温める魔法を探していると、コラムで「複合魔法の使い方」というものがあった。


<複合魔法の使い方>

さて、ここまでこの魔導書を読んできた諸君は、そろそろ複合魔法を使いたい、と思ってくる頃だと思う。

複合魔法とは、全く異なる属性を持つ魔法同士をかけわせ、魔法をより便利にする画期的な応用魔法のことである。

たとえば、多くの魔法使いの子供たちが使うであろう爆裂魔法(バン)、実は炎魔法と風魔法の複合魔法なのだ。

大気中にある水素を風魔法で集めてそこに炎魔法の弱い炎を投下し、爆発させる、という魔法である。

これは錬金術の分野でも広く扱われている基礎中の基礎である。

そんな基礎魔法ですら複合魔法であることもあるのだ。

なので複合魔法は難しい魔法ではない。

もちろん、組み合わせる属性が増えれば難易度は上がるが、多くの場合、2つの属性を混ぜ合わせるだけなので、問題はない。

二つの魔法を行使する時の呪文はただ二つの呪文を組み合わせるだけでは発動できない。

必要な単語を繋ぎ合わせた呪文を唱える必要がある。

たとえば爆裂魔法(バン)ならば、先に炎魔法の詠唱をし、その後に風の魔法を唱えることで発動できる。

なお、ここまでの魔法を使える諸君ならば、呪文をイメージで組み合わせるだけで複合魔法を発動できるはずだ。

複合魔法の呪文詠唱が上手くいかなかったならば、もう一度呪文の意味を一つ一つ理解していくと良いだろう。


ふむ。

何言ってるかわからん。

要は呪文の意味がわからないとダメだということだな?

まあ、とりあえず水を温める魔法を、炎魔法と水魔法を組み合わせて作ってみよう!

さっき休んだおかげか、魔力は結構回復している。

俺は魔導書の炎魔法と水魔法のページを開いて、それっぽい呪文同士を繋げ合わせてみた。

「大気にありし全ての魔法の子、我が手に集え。我の命を受けよ、人類最古にして最強の武器、炎の力を人類最多にして最大の水の器へ集めよ!」

ここで魔力に力を込める。

イメージは暖かいお湯が冷たい水に浸透し、広がっていく様子。

呪文の印は術者のイメージに合う名前を叫べばいいらしく、俺は頭の中にパッと思い浮かんだ言葉を叫んだ。

加熱(ヒーティング)!』

すると俺の水に浸けた両手からものすごい魔力が放出され、同時に手の周りがだんだん熱くなってきた。

これ以上やると沸騰してしまいそうなので、両手を急いで水から引き抜き、魔法を止める。

視界の端の紫色のバーは瀕死で、もう魔法は使えそうになかった。

体がだるい。

短距離走を全力で走ったくらいの疲労感がある。

俺はお湯の温度を確かめるために樽に手を浸けてみた。

少し熱いが、俺はぬるい風呂よりも熱い風呂の方が好きなので、ちょうどいいくらいだ。

俺は早速、タオルと着替えを持ってきて、風呂の樽のそばに置いた。

そして服を脱ぐ。

裏庭とはいえ、ここは野外なので、下着は身につけたまま入浴。

少し違和感はあるが、服の洗濯のことも考えると、案外ありなのではと思ってきた。

まあ、少しお湯は下着の繊維とかが浮いてきてしまったが。


冷たい風が俺の顔を撫でた。

今日は見張りをしていたとはいえ、特に戦闘とかはしていないからか、あまり疲れていなかった。

訓練はしたが、その後はずっとおしゃべりしてるだけだったし。

俺は少しうとうとしてきた。

お湯加減がちょうど良くなってきて、だんだん眠気がやってきた。


あかりとしておいておいた二つのランタンの火が、風に揺られて揺らめいた。

月あかりが俺の顔にあたり、俺は少し目を細めた。

綺麗な三日月で、煌々と光を放っていた。

まるで、月自身が光を放っているようだった。

いや、実際そうなのかもしれない。

もとの世界で見た月の光よりも倍明るい。

そよそよとまた、涼しい風が吹く。


月明かりがいつの間にか俺の顔から少し逸れていた。

そして、翼がはためくような音がしたかと思うと、長老の契約精霊、ハナビさんが長老の青い剣を抱えて、俺のそばに立っていた。

ハナビさんの綺麗な青色の瞳が俺の顔を覗き込んだ。

「はぅああぁ!」

俺は思わず変な声を出してのけぞった。

おかげで足を滑らせ、鼻に水が入ってしまった。

ハナビさんは俺の反応が面白いのか、くすくすと笑っている。

「い、一体こんな時間にどうした、んですか?」

眠気もすっかり吹き飛んだ俺がハナビさんに聞くと、ハナビさんはくすくす笑いながら言った。

「はい、こちらの方が、あなたと話がしたいとおっしゃっておりましたので。」

俺に向かって長老の剣を差し出すハナビさん。

俺はおずおずと剣を受け取った。

剣は淡く青い光を放っていた。

『君たち、転生者だよね?』

頭に声が響いた。

中性的な声で、女性とも男性とも取れる声をしていた。

俺は驚いて剣を放り投げそうになってしまった。

なんでそれを?

それを知っているのはこの村の住人だと、テリーとスグハだけのはずである。

『その反応、正解っぽいね。大丈夫、私は誰にも言っていないよ。』

「どうしてわかったんですか?」

俺は剣に尋ねた。

『君の魂と身体を繋ぐ精神を見たんだ。一見すると自然につながっているように見えるけど、よくよく見ると、繋がり方が不自然なんだよ。』

「精神?」

「精神は魂と身体を繋ぐ媒体のことで、魂、精神、身体の3つで生物のその個体を構成していると言われています。」

ハナビさんが説明してくれた。

『明らかに、君たち4人の魂はこの世界のものじゃない。どこか別のところから来たんだろう?』

「…そうです。俺たちは創造神様によって転生させられました。」

『そうか。でもおかしいな。転生を担うのは生命神アサーナトス様のはずなんだ。創造神はこの世界を創造した最高神だけど、転生させる権能は生命神を産み落とした時に、生命神に譲渡されたはずなんだ。だから、創造神様が転生を行えるはずがないんだ。』

「そのために明日は創造神様と連絡が取れる精霊に会うために、ベルナの町へいきます。」

『うん。ちゃんと考えていたみたいだね。そうそう、自己紹介が遅れてしまったね。私はブルー。蒼龍の宝玉(ブルードラゴンオーブ)のブルーだ。ずっと剣に向かって話しかけてるけど、私の本体は柄に埋まってるオーブだよ。』

そうだったんかい!

ずっと俺は相手の顔を見ずに話していたわけか。

「あ、俺の名前はナオです。」

俺は改めて剣の柄に埋まっている青色のオーブに向かって言った。

『とりあえず、今日はここまで見たいだ。ヒョウが私たちを探してる。』

剣がチカチカ光った。

「そろそろ行きましょう。ブルー様。」

ハナビさんが言った。

俺は「良い眠りを」と言って、ハナビさんに剣を返した。

「それではナオさん。くれぐれも風邪をひかないようにしてくださいね。良い眠りを。」

ハナビさんが今の俺の姿を見ながら言った。

俺は少し気恥ずかしくなって、若干俯きながら「良い眠りを」と返した。


ハナビさんたちが去ってから少しして。

さっきまで輝いていた月はすっかり雲に隠され、あたりはキンキンに冷え込んできた。

俺は風呂から上がることにした。

「ぶえっくし!」

くしゃみが出た。

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