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第十三話 創造神と精霊

俺は窓から差し込む光で目が覚めた。

俺とスグハの部屋は夕方は日があまり当たらない分、朝日がよく当たるのだ。

部屋でエルサさんに借りた魔導書を読んでいて、いつの間にか寝落ちしていたらしい。

俺は机に魔導書と一緒に突っ伏していた。

魔導書には「駆け出しの魔法使いのための基礎魔法」と書かれていた。

スグハは俺がいない分広いベッドの上で体を丸めながら眠っていた。

俺ははっとして急いで魔導書のページによだれが垂れていないか確認した。

どこにもよだれが垂れていないことを確認して俺はほっとして背もたれに寄り掛かった。

ふと無意識に、顎に手を当てた。

まあまあ髭が伸びてきたようだ。

「後で剃ってみるかな。」

俺が呟いた言葉が聞こえてしまったのか、スグハがモゾモゾして起き上がった。

「んー、おはよ、ナオ。」

「ああ、おはよう、スグハ。」

時計がないので今の時間がわからないため、俺たちはリビングへ行くことにした。

「スグハ、眠かったらまだ寝ててもいいんだぞ?」

昨日は少し無理をさせてしまったしな。

「んー、頭の上で寝かせてー。」

「いいぞ。」

俺はそっとスグハを持ち上げて俺の頭の上に乗せた。


リビングの時計は6時ちょっと過ぎを指していた。

「そろそろテリーんちに行ったほうがいいかな?」

テリーには朝来てくれとしか言われていない。

「朝食べてから行けばいいんじゃない?」

スグハが気だるそうに言った。

「そうだな。テリーたちも朝食食ってる頃だろうしな。7時くらいになったら行くか。」

俺たちは、玄関から外に出た。

ハルヒに餌と水をやるためだ。

ハルヒは俺たちよりももっと前から起きていたらしく、暇そうに小屋の外を眺めていた。

馬の睡眠時間は短いらしい。

俺たちに気がつくと、嬉しそうに鳴いた。

「おはよう、ハルヒ。」

「はよー!」

俺とスグハがそれぞれ声をかけた。

俺はハルヒに干し草と汲み上げた水を餌置き場に置いた。

「朝飯まで時間はまだあるだろうし、乗馬の練習でもするか。」

俺が言うと、ハルヒはまた嬉しそうに鳴いた。

この家の敷地の中だけに限られるが、結構広いため余裕である。

「よいしょ。」

俺はハルヒを小屋から出して、馬具をつけ始める。

一晩寝た後だったので忘れている可能性もあったが、意外と覚えていられた。

まあ、覚えられていないと困ってしまうのだが。

馬具を全て装着し終わった後、ハルヒが窮屈でないことを確かめてから、ハルヒの上に乗った。

「どうだ?」

俺が調子を聞くと、ハルヒは、少し言いたいことはあるけどまあいいだろう、みたいな顔をして頷いた。

「よーし、行くぞー!」

俺は優しくハルヒの腹を蹴った。


しばらくハルヒと庭をぐるぐると回った後、ライトから朝食を作るのを手伝え、と呼ばれた。

ハルヒを小屋に戻した後、俺たちは砂埃を払って家に入った。


今日の朝食はパンケーキだった。

材料はこれまたベルナの町で買ったらしい。

質は悪いが、安いからと大量に買ってきたらしい。

しばらくはパンケーキ祭りになりそうである。

パンケーキはあまり作ったことがなかったので、ライトに教えてもらいながら、作って行った。

火を使うという段階になって、俺は少し考えて、自分の部屋からエルサさんに借りた魔導書を持ってきた。

「なんだ?パンケーキの作り方でも載ってるのか?」

昨日の会話を知らないライトが興味津々に、魔導書を覗き込みながら言った。

「これはエルサさんから借りた魔導書だよ。炎魔法の練習をしてみようと思ってな。」

俺は魔導書に目を落としながら、魔導書通りに右手を差し出して、書いてある呪文を唱え始めた。

「大気にありし全ての魔法の子、我が手に集え。」

すると俺の差し出した右手に何か薄い紫色の分子が集まり始めた。

俺はさらに呪文を続ける。

「我に力を、人類最古にして最強の武器、炎の力を我が手に!」

ここで俺の体に流れる魔力を右手に集中させる。

そして呪文を結び、発動させる。

火よ(フレイム)

しかし、俺の手に集まった薄紫の分子らしきものが魔力を通す前に離散してしまった。

「あれ、失敗した?」

「なんて呪文を唱えたのか全然わからなかったが、とりあえず急いでくれないか?早く朝飯を食いてえんだ。」

「おお、すまん、もう一回だけやってみる。」

俺はもう一度魔導書に目を落として、何か読み落としがないか確認した。

すると、「炎魔法のアドバイス」と書かれたコラムがあった。


<炎魔法のアドバイス>

魔法とは呪文を唱えることだけで発動するものではない。

炎魔法は、人類が最も使用した魔法である。

そして、炎自体は魔法を使わなくともマッチ一本擦れば出てくるのだ。

しかし逆に考えれば、炎を作る、と言う行為はイメージしやすいと言える。

そう、魔法とはイメージなのである。

例えばこのフレイムの魔法は小さな炎を出す魔法である。

これは体の中に含まれる魔力、魔法力チャクラをマッチの箱の薬品に見立てて、大気にある魔力、マナをマッチの棒に見立てて、その二つを擦り合わせて火を出す、とイメージしてみるとわかりやすいだろう。

魔法使いになりたいのならば、炎魔法くらいは普通に発動できるようにするべきである。


コラムを読んで俺はもう一度呪文を唱えてみた。

「大気にありし全ての魔法の子、我が手に集え。我に力を、人類最古にして最強の武器、炎の力を我が手に!」

ここで体内に流れる魔力と手に集まってきたマナを擦り合わせて、マッチ棒に火が付く様子をイメージしながら、呪文を結んだ。

火よ(フレイム)

すると小さな炎が俺の手の平の上に現れた。

その炎が消えないようにそっとかまどの上に下ろす。

「おお!」

ライトが思わず叫んだ。

「ナオ、基礎魔法を使えるようになったのね!」

スグハはようやく目が覚めてきたようで、俺が魔法を使ったのをみて俺の頭の上ではしゃいでいた。

俺たちは火が消えないうちにフライパンをかまどの上に乗せてそこにパンケーキのもとを流し込む。

パンケーキを6枚焼いたところで火が消えた。

ちょうど6人なので俺たちは皿の上に乗せてリビングまで持って行った。


もうすでに3人はリビングに集まっていた。

エルサさんが来ないと思ったら、ライトが粘糸で縛り上げていたらしい。

むぐむぐ言って他の2人に助けを求めていたが、2人ともライトに何か言われたのか、しきりにチラチラ様子をみているが助けようとはしていなかった。

両手にパンケーキの乗った皿を持って現れたライトを見て縄を解いてくれる、と言う希望が顔に浮かんだ。

「一体どうしたんだ?これは。」

俺が聞くと、ライトはだってうざいんだもん、と悪びれもせず言った。

「ライトは縛りプレイが好きなんだな。」

俺が言うと、

「ツバサにもそれ言われたわw」

と笑いながら言った。

だろうなあ。

こいつ、エルサさんのこと虐めすぎじゃないか?

「まあいい。とりあえず、糸を解いてやったらどうだ?」

俺が言うと、ライトはしゃあねえな、と言って糸を撤去した。

糸はライトが触れると、さらさらと音を立てて崩れ落ちた。

そして風に吹かれてどこかへ消えてしまった。

そういえば、この糸はどこから出てきて、どこに消えているんだろうか。

心なしか、糸から解放されたエルサさんが少し名残惜しそうにしている気がする。

ライトの粘糸に縛られることを楽しんでいるような気さえする。

大丈夫かこいつら。

「さて、とっとと食っちまおうぜ。」

ライトが俺がテーブルに皿を並べ終わったと同時に言った。


「俺とスグハは先にテリーたちの家に用があるから、訓練場には先に行っててくれ。」

半分ほどパンケーキを食べ終わったところで俺は言った。

「ん?なんでだ?」

ライトが不思議そうに言った。

「昨日の夜言われたんだ。なんか俺に伝えたいことがあるらしい。」

「ふーん。ああ、昨日のリルルと…ルカ?だっけ?その2人と会ってくればいいんじゃない?」

ツバサがハムハムとパンケーキを齧りながら言った。

ふとエルサさんの様子を見ると、俺のことを心配そうに見つめていた。

「?どうかしましたか?」

俺が尋ねると、エルサさんは少し迷うような素振りをして、結局首を横に振った。

「なんでもありません。」

「そうですか?」

何かエルサさんの様子が引っ掛かるが、そろそろテリーたちの家に行ったほうがいいのでは、とツバサに言われたので、それ以上は言及できなかった。

「その前に、一回髭を剃ろうかな。」

すっかり忘れていたが、俺は朝ふと思いついたことを思い出し、早速実行してみることにした。

俺は長老からもらった鋼の剣を持って、家の庭にある井戸のところまで行った。

俺は剣で顔を切らないように慎重に髭に刃を当てた。

しばらく剃ってみたが、手応えを感じなかったので、ちゃんと剃れているか、スグハに確認してもらった。

「どう?ちゃんと剃れてるか?」

「んー、元々エルフは髭が薄いからなあ。」

そう言って俺の顎と鼻の下をしなやかな白い手で撫でた。

「うん、ちゃんと剃れてるよ。多分。」

「よし、ありがとう。」

俺は井戸から水を汲んで顔にかけた。

そして持ってきたタオルで顔を拭いた。

「ふう、スッキリした。そういえば、俺こっちきてから着替えとかしてないけど、大丈夫かな?臭くないか?」

今更ながら気づいたことを言った。

「ああ、それなら大丈夫よ。夜寝る前にみんなにこっそり浄化魔法サザンかけてるからね。」

「なるほど、ありがとうな。」

それで数日間洗濯とかしてないのに服が綺麗なのか。

丈夫だなあとか思ってたけど、スグハのおかげだったのか。

俺が素直に礼を言うと、スグハは少し照れた様子で頷いた。

「さて、じゃあテリーんちに行くか。」

「おー!」


俺たちは家にいる4人とハルヒに行ってきますと声をかけて、テリーたちの家に向かった。

テリーたちの家に着くと、そこには2頭の馬がいた。

一頭は白銀の丁寧に毛並みが整えられた大きな馬た。

もう一頭は黒茶色の静かな落ち着いた馬ースグリだ。

2頭と他にも5人、人が馬と戯れていた。

テリーとチャドさん、それにリルルとルカそれともう1人、真っ白な髪をオールバックにした中年の男性が静かに4人を見守っていた。

テリーが最初に俺たちに気がついた。

「おはよう!」

「おはよう。」

「っはよー!」

俺は5人に挨拶をした。

「…おはよう。」

「「おはようございます!」」

チャドさんと猫耳の2人が俺たちに挨拶を返した。

中年の男性は俺を見て少し目を見開いたが、すぐに元の顔に戻って「…おはよう。」と挨拶を返した。

そして続けた。

「…初めまして。…チャドとテリーの父、マサだ。…よろしく。」

「ナオです。よろしくお願いします。」

不思議な感じがする。

俺はこの人を知っている。

ここでようやく俺はこの村にきてからずっと感じていた奇妙な懐かしさ、安堵感の正体がわかった気がする。

ラミアさんと初めて会ったときに感じた、自分がもう1人いるような感覚、と言うのは、エルフという種族の特性の一つだということだと知ったが、そういった感覚とは違う感覚だった。

「じゃあスグハ、ナオ、ちょっとついてきてくれ。」

テリーが俺を手招きして言った。

そこはテリーの家の裏庭だった。

そこには1つの墓標がポツンと立っていた。

墓標の前には青い花が2輪風に揺られていた。

「これは?」

俺が聞くと、テリーは重々しく口を開けた。


「俺たちの双子の弟と妹の墓だ。50年前、猿耳族の宗教の集団に村が襲われた時に、妹、ソフィーは魔法攻撃で死んで、弟は、ユーリルはそいつらに連れ去られたんだ…。」

「え…。」


偶然とは思えなかった。

テリーが言ったその話は、昨日の夜、俺が見た夢と内容が酷似していたのだ。


「そして、ナオ。君の特徴は連れ去られた弟のユーリルとそっくりなんだ。」

白い髪、青色の瞳、確かに夢で見たユーリルという少年と似ている部分があった。


「テリー?なんでその話を…?」

スグハが真剣な表情で言うテリーに聞いた。

「最初会った時には全く気が付かなかった。ただ余所者のエルフが来たんだと思ったんだ。でも、あの灰色の馬、ハルヒがすぐに君に懐いたのを見て確信したんだ。君のその体はユーリルの身体だって。」

テリーが俺を指さしながら言った。

「あの馬、ハルヒはエルフィングホースのミストラル種という品種なんだ。ミストラル種は俺たちの家系の者にしか懐かない種なんだ。あの子が君に懐いたと言うことは…、言いたいことは分かるな?」

俺は頷いた。

ここでテリーは一度大きく息を吸い込んだ。

これから恐ろしい呪文を唱えるとでも言うように。

「ナオ、君は一体誰なんだ?俺だけでもいいから教えてくれ。君の身体がユーリルでも、魂の方はユーリルじゃないことはわかる。その身体はどこで、どうやって手に入れたんだ?」


もう、ごまかしは通じないだろう。

俺は観念して全て洗いざらい吐くことにした。

スグハは俺の動揺か、不安感を感じたのか、俺の腕をぎゅっと握った。

「大丈夫。ありがとな。」

俺はスグハの頭を撫でてやりながら、テリーに、誰にも言わないことを約束させてこれまでの経緯を話した。


……………


「なんだって?じゃあ、君たちの魂はこことは別の世界から召喚された者なのか?」

「ああ。信じてもらえないかもしれないが…。」

「ああ、信じられないな。女神様って、セントウォム様のことだよな?」

確か女神の間(?)で白い女の人が確かそう名乗っていた気がする。

「ああ。多分そうだ。」

俺が言うと、テリーは顎に手を当てて唸った。

「うーん。でもそれだったら俺たちエルフに神託が降りるはずなんだが。俺たちエルフは創造神セントウォム様に仕える種族だからな。でもそういった話は聞いていない。長老も知らないようだしな。」

そう言われてもなあ…。

「一体どうなっているんだ?アザトースという創造神を語る者の正体も気になるが、何より君たちの魂をこちら側の肉体に定着させたのは誰なのかも気になるな。」

「アザトース?」

聞いたことのない名前に俺が聞き返すと、テリーははっとして言った。

「ユーリルを連れ去った宗教の団体が信仰している神だ。奴らはアザトースこそ真の創造神だと言ったんだ。」

そういえば、と思い、俺はスグハに話しかけた。

「そういえば、スグハは女神様に仕えているって言ったな。」

急に話しかけられたスグハはやや驚きながら言った。

「え?ええ。そうよ。その女神様が創造神セントウォム様よ。」

「じゃあ、今その女神様に連絡とれたりしないのか?」

「うーん。無理ね。あたしは女神様に仕える精霊の中では2番手ってとこだからねえ。1番手なら女神様と連絡を取れると思うんだけど。1番手となら連絡取れるはずよ。」

「やってくれるか?女神様と話がしたい、ということを伝えてくれればいい。」

「わかったわ。」

そう言ってスグハは目を瞑った。

スグハの身体が青く光り始めた。


しばらくそのまま硬直していたが、ふっと光が消えた。

「大丈夫か?」

俺がスグハを俺の両手に座らせると、スグハは少し疲れている様子だったが、いつものように明るく笑って言った。

「ええ。大丈夫よ。どうやら1番手たちのみんなは封印されているみたいね。」

「「ええ?」」

俺とテリーの声が重なった。

それ大丈夫じゃなくないか?

「誰とも連絡が繋がらないの。生まれて50年、こんなことありえなかったのに。」

「50年?」

「そうよ。あたし、今年で50歳よ?」

スグハは俺が想像していたよりも若いようだった。

いや、元々人間だった俺からしたら、まあまあ歳をとっている方なんだろうが。

ロリババアに違いはないんだろうが。

精霊というと、何千年も生きているようなイメージだったので少し意外だったのだ。

というか、確かテリーがスグハと出会ったのは50年前だったらしいが、テリーは生まれたばかりの赤ちゃんスグハに惚れていたのか?

少し意味合いが違う気もするが、テリーって結構ロリコンだったりするのだろうか?

「でもね。1番手の1人を見たっていう3番手の情報があったわ。」

「3番手。」

「一体何番手まであるんだ?」

「9番手までよ。それでね、その子が言うには、ベルナの町の商人ギルドの近くで見られたらしいわ。」

「ベルナの町か。」

テリーが顎に手を当てて言った。

「商人ギルド?」

俺が首を傾げながら言うと、テリーが説明してくれた。

「昨日4人が登録したのは冒険者ギルドだ。町にはいろんなギルドがあって、そこに登録してある人たちに仕事を与えたり、身元を保証したりするんだ。商人ギルドは名前の通り、商人を統括するギルドなんだ。」

「なるほどね。」

ファンタジー小説にはよくあるよな。

暗殺ギルドとか魔法使いギルドとか。

「それじゃあ、今日の村の入り口の警備が終わったら、一度ベルナの町に行ってみるか。」

テリーが言った。

俺とスグハも頷いて賛成した。

「それじゃあそろそろ訓練場に行きましょ。」

スグハに促されて、俺たちはテリーの家の裏庭から出て、訓練場に足早に向かった。

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