第一話 クラス全員異世界転移
『ナオヤ!ミニドラゴンがそっちに行った!』
黒色のゴツい鎧を着込んだ男が、機関銃を放ちながら言った。
「了解。追撃する。」
俺はそう言って鉈を構えてこちらに向かってくる小さな二足歩行のドラゴンに目を向けた。
『スキル・大円斬』
俺は鉈をぶん回しながらドラゴンの首を刎ねた。
ミニドラゴンは紫色の煙のエフェクトに包まれ、ミニドラゴンの牙とミニドラゴンの尻尾をドロップし、消失した。
『ナイス!』
「これで全部かな?」
『もうミニドラゴンは余裕で狩れるね。』
俺たちが口々に言いながら、あたりを見渡すと、赤色のスイッチらしきものが宙にぽっかりと浮いていた。
『バグ…、かな…?』
僧侶のような白い法衣を纏った細身の男が言った。
『押してみようぜ。』
機関銃の男が言って、ポチッと押した。
すると目の前にYES、NOの二つの文字が出現した。
俺は何もしていないのだが、YESと書かれている枠が青く点滅し、消滅した。
「なんだ?今の。」
『多分、ゲームの仕様じゃない?僕はYES選んじゃったけど。』
『俺もYES選んだぜ。まあ、明日は卒業遠足だし、そろそろ寝ようぜ。』
「そうだな、じゃ、おやすみー」
俺はそう言って、セーブされたのを見て、ゲームを閉じた。
この時は知らなかったが、同時刻、俺のクラスメイト全員に同じものが現れたらしい。
俺の名前は入江 治也、15歳の男子中学生だ。
今やっていたのは今人気のオンラインRPGの、『ドラゴンスローライフズ 〜明日への扉を開く鍵〜』だ。
今一緒にプレイしていたのは、機関銃男が前崎 頼渡、僧侶の男が白井 翼だ。
どちらもクラスメイトで小学生の頃からの友達だ。
明日は待ちに待った卒業遠足で、とあるテーマパークへ行くのだ。
もちろんこの2人と園内を回る予定だ。
次の日、目が覚めると俺はクラスメイトたちと一緒に青空の上に立っていた。
足場は鏡のようになっているのか、頭上に広がる青空を写していた。
俺は自分の服装を確認した。
寝巻きじゃダサいからな。
服装は黒のハイネックに紺色のジーンズ、上に灰色のパーカーを羽織っていた。
この服は確か、遠足で来てこうと枕元に置いていたはずだ。
他のクラスメイトたちも自分の姿を見て、それから周りをキョロキョロと見ていた。
「ナオヤ!」
ツバサとライトがこちらに向かってやってきた。
ツバサは迷彩柄のジャージを着ていて、ライトはダボっとした紺のズボンに白いTシャツ姿だ。
「2人とも!ここはどこなんだろうな?」
俺が言うと、ピチョン、と、雫が水面に落ちた時のような澄んだ音が背後から聞こえた。
振り向くと、そこには真っ白な女性が立っていた。
真っ白な、と言うのは着ているワンピースも、長い髪の色も、肌の色、全てが純白であった。
「誰?」
学級委員長の肋戸あずはさんが言った。
『私は女神セントウォムと申します。あなた達は遠足のバスに乗っている時に、こちらの世界の精霊によって召喚されました。赤いボタンを押した方だけを呼ぶつもりでしたが、どうやらボタンを押した方が複数いたようで、周囲の人たちまで呼ばれてしまったようですね。』
女神サマははっとするほど美しい澄んだ青い瞳を、俺たちに向けながら言った。
『私はあなた達にスキルや称号を与え、あちらの世界に適した身体になってもらいます。』
女神サマが左手を前に突き出した。
すると、目の前に青色のステータス画面みたいなものが表示された。
白い文字で名前などが書かれている。
他のみんなにも同じものが目の前に出現していて、正面から見ると、白い文字が反転して見える。
そして、スキル一覧、とタイトルがついた一覧や、種族、称号の一覧が新たに表示された。
『今出した一覧からスキルを選べるだけ選んでください。種族も変えて貰っても構いません。称号は選んだスキルに応じて自動的にセットされます。スキルは転移前の世界の行い、スペックなどに応じて、選べる数が人によって違うので、ご注意ください。』
俺は早速スキル一覧をスクロールした。
「ナオヤ、気をつけろよ。」
ツバサが俺の肩にぽんと手を置いて言った。
「え?」
「こう言うのはな、一見便利そうに見えて、実はめちゃくちゃ不利になったりするスキルがあったりするんだ。」
「ナオヤは変なスキル選びそうだからな。俺たちが見てやるよ。」
なぜかライトが偉そうに言った。
「じゃあ選びたいスキルを挙げてくぞ。」
俺はスキル画面をスクロールしながら言った。
「その前に種族を決めておけ。種族によって特徴が異なるから、選んだ方がいいスキルも変わってくるぞ。」
「了解。じゃあ、エルフにしようかな。」
「なるほど、ナオヤはエルフ(イケメン)になってモテたいわけだ。」
「ちげーよ!」
…いや、ちょっと思ったけど!
「単純に長生きだし、使える魔法が多いからだよ!」
「ふむ。俺は人間のままでいこうかな。」
ライトが言った。
「不便じゃないか?」
「いや、向こうの方でも、エルフとかドワーフとかよりも人間の方が多いらしいし、コミュニケーションがとりやすい方がいいだろ。ステータスの隣にヘルプってのがあったぞ。それに魔法もほとんどの人間が使えるらしい。」
ほんとだ、書かれてる。
ステータス画面にはレベルだの、魔力だの、経験値だの、マジでゲームっぽい要素が多いな。
「ツバサは?」
「僕は猫耳族になろうかな。猫の亜人、猫人っていうらしい。」
「あー、確かに嗅覚とかよくなったら便利そうだしなあ。」
「よし、種族の方は目立ったデバフはなさそうだな。」
俺はヘルプを開いて、エルフの特徴について調べた。
・エルフ
炎の魔法以外の威力が高く、魔力の繊細なコントロールを得意とする。
他種族では人類の中でも数が最も多い猿耳族(あなた達のいう人間)を嫌っている。
逆に精霊族とは仲がとてもよく、相性の良い精霊と共に行動することが多い。
(以上全てに個体差あり)
多くのエルフは森に住んでいて、エルフの森の近くには世界樹と呼ばれる巨木が立っている。
「じゃあ次はスキルだ。」
「まず俺は、8個選べるから…。」
俺より多いな。
まあ俺も7個選べるんだが。
ライトが言いながら、自分のステータス画面をスクロールした。
「火炎耐性、脚力強化、防御力増加、固有魔法・治癒魔法、遠距離視認、暗視、体力強化、あとは…粘糸だな。」
どれも名前からなんとなくどんな能力なのかがわかった。
「うん。ライトはいい感じだな。変なデバフのあるスキルは無いな。じゃあ僕は…。」
ツバサもステータス画面をスクロールした。
「先読み、高速移動、直感、変化、火炎耐性、固有魔法・音魔法、交渉術、体力増強、にしようかな。よし、次はナオヤだな。」
「じゃあ、千里眼と、変化、火炎耐性、脚力強化、幸運…」
「待て。幸運の内容ちゃんと読んだか?」
ツバサが慌てて言った。
「えー?」
・幸運
クリティカルが確定で当たる。
クリティカルを受けなくなる。
思いがけない出会いがあるかも。
敵を倒した時に手に入る経験値やお金が増えることがある。
(幸運のスキルは発動しない場合がある。発動していない時にあなたに以上のことは起こらない。)
スキル使用に必要な魔力50
「あー…。確かに、不便か…。じゃあ、略奪不可、体力増強、錬金術しようかな。」
「…まあ、言いたいことはあるが、いいだろう。」
ツバサが言った。
すると、不意にピコンと音がした。
ステータス画面に称号という欄に何か文字が現れた。
称号 錬金術師 呪術師 なおほび
あ?
なおほびってなんだ。
なんかこいつだけ他の称号と毛色違くね?
『はい。ではみなさん、スキル選び終わったようなので、転送いたします。4人1組でパーティーを組んで、固まってください。転送場所はランダムですので、くれぐれもお気をつけて。』
俺のパーティーのメンバーは、俺、ライト、ツバサ、それに加えて勝俣 進の4人になった。
ススムは俺とライトと同じ部活をしていた、部活友達だ。
ススムがどんな編成にしたのか気になるが、俺たちの足元が白く光出し始めたため、転移先で聞くことにした。
俺たちは光に包まれた。
最後に女神サマが俺に向かって微笑んでいるのが見えた。
自意識過剰じゃなくてな!
言っとくけど!
目を覚ますと、俺たち4人は森の中に立っていた。