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潮風とサンドイッチ  作者: 京野 薫
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僕らのお店

 夏木さんのお店の手伝いをするようになってから2週間が過ぎた。

結論から言うと、クリニックからはまだ引き留めを受けていて、辞めることが出来ずに居た。彼氏の悟からも「そう一気に物事を決めつけずにしっかり話し合ってもいいんじゃないか?今は頭の中がグチャグチャになってるから無理ないけど・・・」と。

違う。

私の中ではスッキリしている。

ただ、再出発をしたいだけ。

身勝手なのは百も承知だけど、今の全てを一旦リセットしたい。

そう話すと「大人なんだから、責任も考えないと」と言われてしまい、途中からたまらなく心臓がドキドキして頭痛が酷く、電話を半ば強引に切ってしまった。

そのため、まだ携帯を見るのに不安感がある。

それだけでなく、夜もあまり寝付けなくてどんよりと陰鬱な気持ちに覆われてしまうのだ。

 だが、神谷さんと一緒にお店の準備をしている時間はとても気分がスッキリする。

お客は・・・日に2~3件ほど。

こんなに美味しいサンドイッチなのに・・・

それに、神谷さんは否定するが特A級と言っても差し支えないルックス。

この二つがあれば、行列が出来ても良いのだが神谷さんは本当に無頓着だ。

「僕、このゆったりした時間もいいかな、って思うんです。評価は他人が決めるものですから、自分からどうこうしなくても僕らの店に価値がある!と思われればお客も入ってきますよ。あ、ジャスミンティー飲みます?」

と、いつもののんびりした笑顔でジャスミンティーを煎れ始めた。

「確かにそうだけど、宣伝くらいは・・・」

「それなら僕は、夏木さんを前面に出したいです」

「え!いやいやいや!私なんて・・・普通の看護師だし。やっぱり神谷さんが・・・」

「夏木さん、自分を低く見過ぎ。海辺で見たときから、何というか・・・パッと人目を引きましたよ」

「あ、ありがとうございます・・・」

「あ、あと僕のことはため口でいいですよ。夏木さんの方がずっと年上なんだから」

「あ・・・はい」

「ま、とにかく僕らは僕らのペースで行きましょう。僕らの店は絶対評価されますって」

そう。

神谷さんはこの店を「僕の店」ではなく「僕らの店」と言ってくれていて、それを聞く度嬉しさで心の奥がくすぐったい。

そこまで深く考えてないのかもだけど、自分が受け入れられていると思える。

クリニックでこんな事、感じたことあったっけ。

悟と話しているときも。

どちらも、自分を犠牲にして我慢することが、受け入れられる方法だと信じていた。

大人なんだから我慢は当然。

社会はそんなに甘くない。

自分を中心に世の中回っていない。

そう言い聞かせて、周囲に尽くすことが当然と思っていた。

でも・・・本当にそうなんだろうか?

神谷さんとこのお店に居ると、その考えがグラついてくる。

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