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漆黒の勇者、白の魔王

意識は暗転する

あの世は暗いものだと思いました

それでも死んだ少女に会いたいと思いました

そんな絵空事を思い描いていました

体がない感覚がしました

けれど…なにか引っ張られる感覚がしました

抵抗しようにも勝手に引っ張られます


突然意識が覚醒する

足元には物語でしか見た事ないような魔法陣が出ました

色は黒く、それに吸い込まれて

気がつくと見知らぬ場所にいました

周囲はとても豪華なところに見えました

地面はカーペットが敷かれており、フカフカしています

壁はレンガのような壁をしており頑丈そうです

天井には豪華なシャンデリアが飾られており

周りにはたくさんの人たちがいました

正面にはまるで王様のような人がいて


「おお!よくぞ来たぞ勇者よ!」


そう言っていました

知らない言葉でしたが何故か言葉の意味が理解できました

物語であるような「お城の謁見室」という雰囲気を感じました

だだ、そんな異世界召喚の物語の中では見たことない特徴があり

黒色が多く、目が悪くなるかと思いました

そして周りで喜んでいる人達や王様は全身的に真っ黒な色をしていて、黒い服、黒い目、黒い髪型をしていました

そして自分の姿も生前と全く違っていました

この世界に来る前は嫌いな学校の制服を着ていましたが

今来ているのは全身が黒い服を着ていました

驚いていましたが、王はその様子をなだめることもせず話し続けます


この黒い国では黒の種族が暮らしていた

しかし、白の国の白の種族によって襲撃を受けている

常に戦争をしている状態で、何も変わらない状態

このままではジリ貧になっていつか黒い国が滅ぶと思い、藁にもすがる思いでどこかの世界の死んだ魂を召喚した

それが、少年であった

体自体は人間の姿をしていましたが人では無いとの事でした

勇者として召喚された少年にはいくつか種族の特性が生前と違ってありました

裏切られても大丈夫なように同じ黒の種族に危害を加えることは出来ない

白の種族には危害を加えることが出来て、殺せばその人たちの力と能力を得られる

その能力を使って白の種族を滅ぼして欲しい

言葉は通じるようにしたからあとは頑張って欲しいと無責任で重大なことを頼まれました


少年は断りたかったです

この世界では何もかもがとても怖く感じました

人を殺したことは沢山ありましたが

それは自分にとって悪意がある存在だったからこそ殺すことに抵抗はなかった

でも、白の国のことも黒の国のことも分からなくて悪意があるかも分からない住人の殺すことには抵抗がありました

でも少年は喋れなくて断ることができなかった

少年は俯きましたが、王はそれを「肯定(うなずき)」と勘違いしました

勘違いされて訂正を言おうとしましたが、それも話せませんでした

そして少年は強制的に世界を救う勇者にさせられてしまいました


勇者には拒否権も自由の権利もなかった

試しにと牢獄に囚われている白の種族が縛り付けられて少年の前にだされた

そして「殺せ」と命令されました

白の種族は黒の種族と違って何もかもが真っ白でしたが姿は黒の種族と同じ「人間」の姿をしていました

人を殺したことがあってもこんな無抵抗な状態で殺したくなかった

けれど周囲の目は期待に満ちていました

少年はここで逃げたらどんな失望されるのか

どんな罵倒を受けるのか

それが怖くて怖くて逃げることができませんでした

手元に持たされたナイフを持って白の種族に近づく

白の種族は自分の同じぐらいの歳で猿ぐつわもされていて手足は縛られていましたが

涙を流しながら顔を左右に振っていて抵抗していました

でも周囲からは「殺せ」「殺せ」と言われています

勇者にさせられた少年以外罪悪感を持っている人はいませんでした


覚悟を決めて、ナイフを白の種族の少年の眉間に刺しました

瞬間、白の種族の子はまるで置物のようになって動かなくなりました

目の瞳孔も開きっぱなしになりました

少年はこの世界に来る前は沢山の人を殺したことがありました

けれど、こんなにも心に重くのしかかる殺人は初めてでした

手が震える、足が震える

それをよそに周囲の人たちは大喜びしていました

子供や女性もいましたが誰もが大喜びしていました

こんな非現実な光景…少年は逃げ出したくなりました

少しだけ、自分自身に力のようなものが湧きました

これが黒の種族の力と思いましたが、それよりも「人を殺した現実」にそれどころではありませんでした


その日の盛り上がりは終わって、少年は特別な部屋に案内された

そこは寝泊まりができる部屋でした

少年は精神的に疲れていました

少年はこの状況から逃げ出したくなり、渡されたナイフで自分を傷つけようとしました

前世で約束した少女を探すことも少しの間どうでもよくなるほど疲れてました

手首に切れ込みを入れようとしました

しかし、自分の手首は鋼鉄のように切れませんでした

何回もナイフを入れても切れませんでした

「同族は傷つけることは出来ない」

そんな言葉を思い出しました

それは自分自身も含まれていました

少年は……失望されるのが怖くて

罵倒されるのが怖くて

言われた通りこれから殺すことに決めました


次の日を朝を迎えました

でも全てが黒く朝も夜も分かりません

呼び出されて今度は牢獄に行きました

そこには残りの白の種族がいました

今度はそいつらを殺せと命じられました

断りたかったですが最終的には全員を殺しました

誰もが命乞いや助けを乞うていましたが何も聞かないフリして殺しました

また、力が増す感覚もしましたし

物語でしか聞いた事のない魔法のようなものも扱えるようになりました

頭の中に思うだけで水や火を出せました

けれど…それは新しい力を得られた喜びなどはありません

自分が自分で無くなっていく、そんな恐怖感も感じました



……



…あれからいくつの時が経っただろうか

数日?数週間?数年?

それは誰も分かりません

少年自身正気を保っている気になってましたが

そんなのは気のせいでした


殺し続けてしばらくの時が経ちました

もう自分自身がなくなっていく恐怖も感じなくなりました

白の国に出向いては殺す

抵抗する人も殺す

戦うことがあっても殺す

怯えている人も殺す

白の種族であれば誰であっても殺す

そのようなことを繰り返していました


それでも、「失望や罵倒」が怖く断れなかった

生前の時、少女から悩みを聞いたことがありました

「断れない」ということを聞きました

それで入院していたということを聞きました

少年は白の種族を殺し続けているうちに

少女の苦しみを知りました

いつか誰か白の種族に殺されないかと思うこともありました

けれど、常に付き人は常に4人いて

死にそうになったら全力で助けられるので死ぬこともできませんでした

「ついてこないで」と言おうにも喋れないので少年はどうすることもできませんでした


少年は殺していくうちに沢山の力を手に入れました

どれだけの力を手に入れたかはもう覚えてないほどでした

少年の想像力はどれほどかは分かりませんが思えば大体のことはなんでも出来る程でした

でも、この力を使っても少年にとって望むことは起きませんでした

死にたくて自傷しても傷が一切つきませんでしたし、飛び降りようとしても助けられました

そのまましばらく殺し続けて行きました


ある知らせを聞きました

それは、自分自身がこの世界に無責任な召喚をされる前から白の種族の中でいちばん強い「白の魔王」が存在することを言われました

少年は、そいつを倒せば終わると希望に縋りついていました

そのためにいち早く魔王を倒そうと決めました

白の国へ向かって魔王の元へ向かおうとしましたが「危険」と言われて止められました

「まだ白の種族を殺して力をつけてからではないと死ぬ可能性がある」

そう言われて先に行けなかった


密かに行こうとしても、無理やり行こうにも止められて行けなかった

そのうち、付き人の4人は王に相談して

少年に待機命令を言われました

実際は待機という名の監禁のようなものが近く

部屋に閉じ込められました

閉じ込められている間、4人の付き人は魔王の偵察に出向きました

また、しばらくの時間が経ちました


戦い続けていたのは一時的に終わり、誰も殺さなくてもいい休暇、娯楽のような楽しめるものは無かったけど、少しの休みになった

休んでいる間、少年が思ったのは生前の少女のことだった

やつらによって殺された少女のこと

とても優しく自分自身を守って貰えた少女のこと

守られてばっかりだったから死んでしまったかもしれないと考えたこともありました

会いたくて会いたくて沢山過去を望みましたが、何もかも遅かったのです

後悔の休暇をすごし続けていました


ある日の昼、黒くて昼夜の違いがわからないその時、扉を激しく叩く音が聞こえた

少年は怯えましたが、叩いていた存在は全くそんなことも気にせず扉を蹴破りました

そこに居たのは王の配下の一員でした

その人は理不尽に怒って少年を引きずり出しました

生前の理不尽を思い出して少年はただ震えてうずくまっていました


連れていかれた所は召喚されたあの王の前でした

王から言われたのは、偵察に行った4人の訃報であった

王は「責めた」そして周囲の王族関係者も「責めた」

「身勝手に行こうとしたから精鋭部隊が亡くなって戦力が減った」「黒の勢力は大きな痛手となった、お前のせいで」「役たたず」「失望した、やっぱり代わりを召喚するしかない」「変わりはいくらでもいる」「殺せないなら捨てろ」「役たたず」「役たたず」「役たたず」「やくたたず」「やくたたず」


少年は怯えていた、いや、絶望をしていた

失望されること

罵倒されること

それを1番の恐怖に感じて、やりたくなかった殺人をしまくった

それなのに1度の失敗でここまで言われるのは元の世界と変わりませんでした

少年も殺しすぎて狂っているところはありましたが

それ以上に黒の人達にまともな人は1人もいませんでした

少年は殺される前に一矢報いようとしました

魔法を放って王を殺そうとしましたが同じ黒の種族同士で危害を加えることは出来ない

王は一切の傷を負わなかった


「勇者は反逆者になった、縛り付けて磔にしろ」


周囲の人は一斉に飛びかかってきました

危害は受けなくても、掴まれたりはされます

少年は「捕まったら終わる」そう確信して天井に破壊の魔法を放ちました

レンガのような天井とシャンデリアが崩れて落下し

襲いかかってきた人と少年は巻き込まれる

直接的な危害はなくても、間接的には傷つけることは出来る

そう知った少年は自爆に近い破壊の魔法を放ち自分の周りに落ちた瓦礫を周辺に飛ばして、王を巻き込む

命を奪えたかどうかは少年には分かりません

それでも隙が生まれて全力でその場から逃げ出しました


王城を飛び出して城下町に出る

周りの人達は精鋭部隊4人の訃報を聞いているから少年を責めて捕まえようとする

うるさい

城下町の建物を破壊して時間稼ぎをする

罵詈雑言が聞こえる

だまれ

破壊する、傷つく人も死んだ人もいるかもしれない

それでも逃げた

罪悪感なんてもう感じなかった


「この黒い奴らみんな死んでしまえばいい」


ただただ殺意のまま走っていた

城下町も出て、気がついたら国の外まで逃げていた

少年はこの世界に来た時のことを思い出した、「藁にもすがる思いで死んだ魂を召喚した」ということを

頼るために召喚した訳では無い、自分の手を汚さないようにして面倒事を押付け人任せにするために呼んだのだと

そして、使い捨てのコマにされるなんてことも思った

黒の種族の悪意の中そう思いながら逃げていた...

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