第一章 巫リリカ編
――彼氏より気持ちいい//
――彼氏大嫌いは?
――彼氏大嫌いっ
――ふゆ君大好きは?
――ふゆ君大好きっっああんっ//
厳寒期を越えやっとの想いで咲いた満開の桜が呆気なくゆらゆらと舞い堕ちる四月上旬。
俺こと青山ふゆは高校二年生になった。
俺が通う成南学院高等学校は県内屈指のエリート校であり、その中でも成績が優秀な者が集まる特進クラスの2-Bに俺は選ばれた。
勿論、ここまで来るのは楽な道のりではなかった。
時は少し遡り中学時代。
俺は『卓球部・デブ・アニメ好き』と所謂オタクと呼ばれる人種であった。
自分が他人からどう見られどう思われているかなど全く気にしない無自覚人間。若さゆえの愚かさが招いた黒歴史。
と言いたいところだが、俺の中学の歴史はただ真っ黒なわけではない。
――ユナちゃん
俺が生まれて初めて一目惚れした相手であり、初めての彼女である。
出会いは入学式。
『もしかして迷子ですか?』
教室の場所がわからず焦っていた俺に共感を求めるように尋ねてきた。
『実は私もなんです。1-C組なんですけど……』
偶然にも彼女と俺は同じクラスでそこからは意気投合して2人で協力し合いながら駆け足で教室を探した。
その時すでに俺は彼女に恋していたと思う。
自分の容姿など一切気にせず自分の好意をただ相手に伝えまくれば付き合えると思っていたし、現にそれで俺とユナは中学一年の夏に付き合うことになったのだ。
しかし事件は起こった。
二年生になる直前の春休み。
部活を終えいつも通りユナとLINEをしようとトーク画面を開いたら一件の不在着信が入っていた。
――おーい、なんかあった?
心配になった俺はすかさずメッセージを送るが一向に既読がつかない。
流石に心配になりこちらから電話を掛けた瞬間。
『おっ、彼氏からかかってきたよ』
『いやっ、やめてっ……あんっ//』
電話の向こう側から聞こえる男の声に一瞬血の気が引いたが本能的にそれは兄か弟ではないかとその時は瞬時に都合良く解釈したのであった。
『ユナ? どうしたの? 家にいるの?』
『あっ、うんっ……家に……』
『彼氏君ごめ〜ん。君の彼女可愛いからインスタでナンパしちゃった』
『やめてやめて!!マー君……あんっらめぇっ//』
『おらっ出すぞっっ!!!!』
そこから先の事はもう思い出せない。
思い出そうとすると今でも目眩と吐き気に襲われしまう。
黒い渦が自分を視界を全て奪い常闇の中に吸い込んでいく。
「おーい。青山ー」
ふと前方から自分を呼ぶ声が聞こえ我に帰った。
「あぁ悪い。ボーッとしてた」
俺の一つ前の席に座る中村ヒロシが身体半分こちらに向けてプリントを渡してきた。
「学年1イケメンな男は余裕ですな〜〜ガハハッ』
学年1イケメン。それは俺のことだった。
これは自意識過剰でもなんでもなく、努力からくる自信であった。
人生で初めて出来た彼女のユナを他の男に取られて以来、俺は血と涙を流しながら自分磨きに走ったのだ。
髪型・体型・ファッション・学歴ありとあらゆるモテるために必要な要素を全て研究しそれを手に入れる為がむしゃらに行動した。
結果的にエリート校に入学し今では先輩後輩同級生のセフレを12人キープできるほどのイケメンなモテ男になった。
勿論全員彼氏持ち。
あの時の屈辱を現在進行形で果たしている。
「それはそうと今日転入生が来るって知ってる? いや〜可愛い子来てほしいなーウヘヘッ」
目の前に座る中村ヒロシは過去の俺と同じ人種のオタクだ。
掴みたい物があるのにも関わらずそれを手に入れるための努力せずただ理想を語り続けるだけの口だけ人間。
本来こんな人種とエリートな俺が絡む必要は一切ないが何故か毎回しつこく絡んでくるので気が付けば世間話するぐらいの仲にはなっていた。
「まあ転入生なんて期待しないほうがいいだろ」
過去の転入生の記憶を元に俺は答える。
勝手に期待され野次馬が他クラスから来るが微妙じゃね?と自分勝手な言葉を吐いて帰っていく生徒をたくさん見てきたからだ。
「あっ、来たよ来たよ」
ヒロシが興奮気味で身体を正面に向ける。
担任の江藤が教室に入ってきたと同時に女子生徒が1人入ってきた。
「東京から来ました。巫リリカです。よろしくお願いします。」
担任の江藤に促され黒髪ロングで姫カットの女子生徒が教室にいる生徒全員に向かってお辞儀をした。
――モデルさん
――めっちゃ可愛くない?
――ちょー可愛い
ひそひそ声だがクラス中から彼女を褒め称える声がたくさん流れている。
「やべぇ めっちゃ可愛い。 もう惚れたわ」
勿論俺の目の前に座るヒロシもすでに彼女に惚れていた。
確かにそうなるのは無理はない。
目鼻立ちは整っていて、背中まで掛かっている綺麗な黒髪。
加えて透明感抜群な真っ白な肌にモデルのような細長い脚。
みんなが惚れるのは無理ないであろう。
「はいはい。静かに。巫さんは窓際の空いてるあそこの席に座って」
担任の江藤に指示され巫リリカは窓際の奥の席まで歩いていく。
その時もクラスみんな息を呑むように彼女が席に辿り着くまでずっと凝視していた。
彼女が指示された席に座る。と同時にそれは俺の横に座ったのと同じ意味だった。
俺は窓際一番奥の後ろの席で彼女はその横なのだ。
一瞬、彼女と目が合い見つめあったがすぐに彼女は顔を逸らした。
――――この女も喰うか。
俺はその時思った。
巫リリカが転入してきて初めての休憩時間。
2-B横の廊下は野次馬で溢れていた。
今まで俺が見てきた野次馬より何倍も人がいて彼女を褒め称える言葉がこちらまで届いていた。
そんな野次馬達の言葉には目を向けず巫リリカは黙々と授業の用意をしている 。
「やばくない??」
ヒロシが巫リリカに聞こえない程度の声で俺に話しかけてきた
「はぁ〜俺も青山みたいにイケメンだったらな……」
ヒロシは落胆しながらこちらをを見つめている。
確かに今の俺ならきっと巫リリカを堕とす事は余裕だ。
だがそもそも彼女に今彼氏がいるのかどうかわからない。
もしいなかった場合それで堕としたとしても何も興奮しないし俺のポリシーに反するのだ。
しかしこの可愛さ絶対に一発やりたい。
そんな時、俺はふと悪魔的な発想を閃いた。
――ヒロシと巫リリカをどうにかして付き合わせてその後俺が巫リリカを寝取るのはどうだろう。
そんな妄想を思いついた瞬間、俺は必ずそれを成功させると決心した。
ヒロシの肩を握り俺は強く問う。
「ヒロシ、お前をプロデュースしてやろうか」