9 魔法を習いましょう(お勉強編2)
ちょっと短めです。
勉強を始めて三ヵ月が経った。
なんとなくだが魔法書が読める程度にはなり、基礎の魔法書の内容はおおむね理解できたと思う。
魔法書の内容はざっくり次のような感じだ。
まず、この世界の魔法は大きく五つに分けられる。
土魔法、水魔法、風魔法、火魔法、日魔法だ。
『適性』というものはもちろんあって、大抵は血筋による。
ただし、適性はあくまで、どの現象から力を受け取りやすいかということ。
練習すればどの魔法も使えるようになる。ただし、すべての魔法の習得は難しいといわれる。
また、魔力保持量いわゆる『魔力量』は髪の色によって定まる。
単純だ。淡い色ほど少なく、濃いほど多い。
ウィステリアのほとんどの人間は茶髪にヘーゼルの瞳である。それが基準だ。
ミラの髪は普通の人に比べて色が淡いほう。
この世界では、ちょっと残念だったね、と言われてしまう色だ。
しかしミラはこの髪を気に入っている。
もともと前世でも明るい髪色には憧れがあり、大学生になったら染めるつもりだった。がっつり練習する水泳部だったというのもある。
そして魔法にはもちろん詠唱がある。
いくつか決まったパターンがあって、現代日本でいうところの『祝詞』みたいなものだ。
そもそもこの世界の人間は、魔力自体は生まれた時から常に放出している。
しかしそれを現象としてこの世界に顕現させるためには『自然』の手助けがいるのだという。
だから、『自然』に向かって詠唱で感謝を伝えるのだ。
つまり
『あ、大地さん? ちわっす! いつも大変お世話になってますー! ありがとうございますハイ。ところで大岩出したいんですけどー、ちょーっとお力をお貸し願えないですかね!?』
というのをめちゃくちゃ丁寧にして、カッコよく言うということである。
ミラはばーちゃんと行った神社巡りを思い出した。
『神社では願い事じゃのうて感謝を伝えんさい』というのは神社に行くたびに出るばーちゃんの口癖である。
それこそ赤ちゃんの時からずっとそう言われて育ったので、他の子が願い事を口にするのを見て驚いたものだ。
「そーいえば、エマは詠唱ナシなんだよな」
最近ではすっかり日課になった魔法のドライヤー。
エマは詠唱ナシで魔法を操る。
詠唱ナシは超高等テクニックである。
エマは涼しい顔をして詠唱ナシで魔法を使ったが、これはすっごいことである。激ヤバである。
詠唱を短くすることはそれほど難しくない。要は思いがこもっていればいいのだ。
しかし『詠唱しない』というのは、詠唱短縮とはわけが違う。なにせ『自然』に自分の存在を認識してもらう必要があるのだ。もちろん、この世界にも地球に負けないくらいたくさんの数の人間がいる。
その膨大な数の中から自分を見つけてもらうのがどれくらい難しいことか、私はよくわかっているつもりだ。
「いやー、やっぱエマすごいわ。自慢の侍女だわ」
ひとりごとは許してもらいたい。ギャル時代の名残である。
しかし自分の魔力量以上の規模の魔法は普通扱えないし、悪いことには使えない。
悪意を持って魔法を使おうとしても『自然』は力を貸してくれない……らしい。
まあとりあえず試してみようとミラは外に出る。
明日からエマに実践を教えてもらう予定だが、予習して損はないはずだそう思うそうであってくれ。
屋敷の中庭に立ち、エマっぽく胸の前で手の器を作る。それから、詠唱。
「この地を渡る一陣の風よ、畏れながら申し上げる。どうかこの手に柔らかき清風を御起こし給え」
出ない。
「おっかしいなあ~。魔法書通りなら涼しい風が吹くはずなんだけど……ていうか、魔力ってなんかこう、イメージが浮かばないんだよねぇ」
なにせ前世の現代日本では魔法なんて言う代物には出会ったことがないのだ。
先ほどは、念力みたいなものだろうという仮説をもって試してみたのだが違うみたいだ。
「う~ん、魔力、魔力、ん~、放出……と言えば汗? というと、水? 液体……あ!」
血液はどうだろうかとミラは思った。
血液なら体内をとめどなく循環しているし、流れるというイメージならば一番近いだろう。
今度は血の流れを意識して詠唱を唱えてみる。
「……清風を御起こし給え」
ふわっとミラの髪が舞う。
成功だ。
「うおっ! うれし~! めっちゃさわやかな風! 弱っちいけど!」
喜んで飛び回っていたら侍女長さんに見つかってはしゃぎすぎだとお説教を頂戴した。
許してほしい。些細なことがめちゃくちゃ嬉しいのは、ギャル時代の名残である。
反省。
説明が多くてすみません。
設定がけっこうその場その場で決まっているので、
改編の可能性大です。面目ないです。
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