78 結果発表
学力筆記試験も無事終わり、次の日には結果発表が成された。
先生たち採点のスピード早すぎだろうと思ったが、帰ってきた答案に不備はなかった。
ちなみに合格である。
「ミラ、結果はどうだった?」
「筆記は満点で、魔法実技は300点中295……にひゃくきゅうじゅうご!? 嘘でしょ!? そんな高いわけ……」
「……おれはあの筆記が満点取れるものだってことに驚いてるんだけど」
ノルの結果は魔法実技が298点で筆記が497点。つまり、合計点数はミラと同じだ。
順位表には同率1位と書かれており、3位にはマルクスの名前、4位にはゲオルクの名前が載っていた。
二人とも魔法実技の点数が高く、筆記も好成績だ。
5位以下はグッと点数が下がり、点差が詰まって100位まで名前が並んでいる。
そこに名前があるものが、今試験の合格者である。
ノルが筆記で落とした問題は魔法学の最後にあった魔素密度の問題だ。
ミラがエマに教わったやつである。
この問題はたしかに、小学二年生くらいの年の子どもには難しい。
ちょっと深い部分の魔法知識が必要なので、ミラもエマがいなければ解けていたかはあやしいところだ。
「あー! お嬢お嬢ー! テストどーだった!?」
声をかけてくれたのはライラだ。ぴょこんと跳ねるすみれ色のポニーテールは今日も高め。
隣にはナオもいる。
「やっぱ満点っすか? 魔法実技は取ってそうっすけど」
「ウチの魔法実技の点数間違ってない? 295点も取れるようなことしたつもりないよ?」
「いやー、あれは満点でもよかったと思うっす……」
ミラの頭を撫でながら、ナオはなぜか遠い目をする。
「懐かしいなー。私も試験のこと思い出しちゃったよー! 私の時の二回生がちょうどナオの代でさー」
「あー、そうだったっすね。残り一分でギリおれが勝ったやつっすね」
「そーそー! 惜しかったんだよなー!」
思い出話に花を咲かせる二人は本当に楽しそうだ。
二人の学生時代の話なんてとても貴重である。
きっと二人ともすごい経歴を持っているに違いない。
(でもウチだって、最後まで残ったんだからすごいっしょ)
ミラは己の結果に少し得意になりながら、二人の話を聞いていた。
「そういえば、ナオさんは別としてライラは15歳だよね? 学院の卒業は普通、18歳でしょ? どうして?」
そうなのだ。ライラは今15歳で、入隊が去年としても本来ならばまだ学生のはずである。
「あー、それはさ、私、特例入学だったんだよね」
「特例入学?」
「そー。試験自体を受けるのが8歳じゃなくて4歳の時で、5歳になる年に入学してるから……」
ひーふーみーと思い出すように指折り数えるライラにミラは唖然とする。
「14歳で卒業したんだけど、13歳の時には風に入れてもらってたんだよ」
「……わーお……」
ミラは驚きのあまりそれしか言うことができなかった。
4歳で試験を受けたということは、13歳相手に残り1分まで逃げ切ったということである。
なんだそりゃ。
「ナオもなんかすごいって言われてなかったっけ?」
「なに言ってんすかライラ。おれは普通に入って普通に卒業したっすよ」
「でも、ナオは三回生からの試験の出場禁止令出てたじゃん。実力が十回生レベルだからって。結局五回生の時に教員全会一致で卒業認定貰ってたけど、『学生でいたいんで』とか言って学院に残ってただけだし。それだって、結局七年生くらいの時にはもう私と一緒に風に入ってたし」
「……わーお……」
なんだろう。世界って広い。
風のメンバーと一緒にいると、驕り昂りなどというものとは全く縁がなくなる。
なんでこの人たちは学歴すらも規格外なんだ。普通の人はいないのか。
「でも、ミラたちもおかしいっすからね? 普通この試験は魔法実技と筆記合わせて大体六割くらいしか取れないようになってるっす。おれたちは筆記がアレだったから、魔法実技でいい点とっても試験成績は七割くらいっすよ」
「ほんとだよもー。筆記で満点近い点数とるやつとか聞いたことないんだけどー。そもそも三人も残るとかありえないから」
「ふぉふぉふぉふぉ。そうじゃのう。今年は頭の出来がいいやつが多いのう」
「ほんとほんと……」
うんうんと頷こうとして、その場の全員がばっと振り返った。
「!?」
そこにいたのは一人のおじいちゃん。
豊かな髭と優しそうな顔を持つ、温厚そうな人だ。
そしてそれは何を隠そう、このラインハルト学院の理事長、エド=グレイの顔であった。
筆記試験の会場である一号校舎に肖像画が一枚、控えめに飾ってあったのを覚えている。
「じっちゃん!」
「久しぶりじゃなあナオ。ライラも。元気にしておったかの?」
「じっちゃんこそ!」
何とも親しげに会話する二人であるが、学生と理事長の距離感ではない気がする。
そういえば、ナオさんの名字もたしか『グレイ』だったはずだとミラは思い出す。
「もしかして、ナオさんのおじいさんって……」
「わしじゃ」
にこっと片手をあげたおじいさんにミラはポカーンと口を開けた。
「理事長の?」
「そうじゃ」
「エド=グレイさん?」
「そうじゃ」
「エドじいはグラマリーの現トップだよ」
「は!?」
ライラは何でもないことのようにさらっと付け足してきたが、ちょっと情報量が多すぎる。
処理する前に新しい情報を入れてくるのやめませんか
ていうかそれなら今の状況はものすごく失礼なんじゃ?
「ええっと、ナオさんのおじいさんが理事長のライラ……」
「ちがうちがう」
エドは愉快そうにふぉっふぉと笑う。
しばらく呆気にとられたように黙っていたノルは慌てて礼をとった。
「はじめまして。オリバー=ウィステリアと申します」
「おお、アリア殿のご子息ではないか。大きくなったのお……」
「お……私を知っているんですか?」
「よく知っておるよ。アリア殿がよく話しておったからの。おまえさんがこーんなちいちゃい頃にわしも抱っこさせてもらってのう……」
指で豆粒くらいの大きさを示してエドは懐かしそうに目を細める。
ノルは少し恥ずかしそうに俯いた。
「そちらはカイ殿の娘さんじゃないかね? そうかそうか。二人は同い年じゃったのう」
「は、はじめまして。ミラ=スチュワートです」
「ずいぶん立派になったのう! 昔はよくカイ殿を困らせておったが……」
「お、お恥ずかしい……」
ユキナの記憶がよみがえる前の己の所業を思い返し、ミラは真っ赤になって両手で顔を覆った。
このおじいさんと会ったことは思い出せないので、きっともっと幼い頃の事なのだろう。
「いやいや、いいんじゃよそれで。親が子のわがままを受け取れるのもそう長くないからのう。ナオなんてぜーんぶ自分でこなしてしまうからに」
まったくつまらぬよ、と言ってナオからブーイングを食らいながらも、エドの目は優しく温かくナオを見ていた。その言葉の裏にある、孫と祖父のたしかな信頼が伝わってくる。
カルロの片手鍋の話を聞いたとき、ナオはじっちゃんに育てられたと言っていた。
もしかしたら実の親よりも長い時間を二人は過ごしてきたのかもしれない。
「ところで、じっちゃんは何か用事があって俺らに話しかけてきたんじゃないの?」
「おお、そうじゃそうじゃ。そうなんじゃよ。おぬしらは皆パーティ風のメンバーだったじゃろう? それ関連で話したいことがあってのう」
ふいにエドの目が、ナオのおじいさんとしてのものからグラマリートップの人間のものへと変わった。
しゃんとまっすぐに伸びた背筋と目の奥の鋭い光が、彼がただものではないことを物語っていた。
「ウィザード幹部のリアム……は偽名じゃったな。その人のことなんじゃ」
それが一体、ミラたちと何の関係があるのか。
ミラはエドの言葉の真意を測りかねていたが、それに続くエドの言葉に、本日何度目かわからない驚愕をすることになる。
「リアム=クランストン。本名リオン=エヴァレット。そのウィザード構成員の、グラマリー移籍についてじゃ」




