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77 クレオ=ウォルシュ


「リアム=クランストンの『追放』措置について、何か異論のあるものは?」


 ウィザード幹部、夜叉会(やしゃかい)

 六人で構成されるその幹部会は、冷血かつ合理的。裏切者は容赦なく殺し、目的のためなら手段を択ばない彼らはウィザードの構成員たちに恐れられる存在だった。


 その夜叉会で今行われているのは、その夜叉会の幹部の一人、リアム=クランストンの離脱に伴う処置の議論である。

 フードを目深にかぶった男、クレオ=ウォルシュはその会議に出席を許される幹部候補生だった。

 ちなみに偽名である。


 『追放』。夜叉会の話し合いの場で持ち出されるその単語は一種の隠語である。

 これの意味するところは、追放後死刑。つまり、人知れず殺せという指示だ。


 その追っ手役は十中八九クレオに任せられるのだろう。


 ウィザードでは普通、殺す際に組織を脱退させない。身内のごたごたを外に持ち出すと面倒だからだ。

 しかし今回はリアムたっての『ウィザードを脱退させてほしい』という意思を汲み取り、それを利用して殺すことにしたのである。


 というのも、リアム=クランストンという男は大変に強かった。

 ウィザードに入って五年で若干十六歳にして幹部にまで上り詰めたのだから言うまでもないが、黒鳶の髪に深いオレンジがかった目をもつリアムは、計略に長け魔法の扱いもうまい。フットワークが軽く、どんな仕事もすばやくこなす、実に便利で実に()()()()()人間だった。


 ほかに何か目的があってこの組織に入ったようで、当時五人だった夜叉会のメンバーたちは彼をつなぎとめるために幹部の席をもう一つ作ったのだ。

 この男がもしもほかの組織の手に渡ってしまおうものなら、自分たちの脅威になるのは間違いない。

 この状況になってもリアムと敵対するのは得策ではなく、彼を快く送り出すように見せかけて、後ろから一斉攻撃を仕掛けるというのが彼らの狙いである。


 もちろんこの会議にリアムは呼ばれていない。たしかウィザードが必死になって探しているオリバー=ウィステリアという王子の探索追跡任務についていたはずである。


 クレオはオリバーに二度会ったことがある。

 一度目はウィザードに入る前。伯爵令息の一人として、両親とともに国王に挨拶に行った時。

 二度目は木の上で目視確認したときで、クレオと、その時ともに仕事をしていたもう一人とで増幅させた『禍』の偵察に、彼が来た時だ。


 その時はオリバーのほかに何人か人がいた。ウィステリア王国最強の小隊であり、世界屈指のパーティのひとつ、(アネモス)の人たちである。

 口元に変な魔法をかけていたが、その姿は噂と変わりなく強そうだった。中には自分と同じ十五歳くらいの年のメンバーもいるらしく、クレオの憧れの存在でもあった。

 クレオが伯爵令息であったころにも、その実力は幾度も耳にしている。


 いつか彼らのようになりたいと何事もがんばったものだ。


 そんなわけでクレオの学業成績は良かったため、魔法について知識・実力ともにウィザードで一二を争うが、彼らが口元に何の魔法を付与していたのかは結局わからずじまいであった。いずれにせよ、『禍』の瘴気の中にいるとは思えないほど元気そうでクレオは不思議でならなかった。


 ともに行動していたもう一人の男はその一行に潜り込むと言っていたが、クレオが下山する途中で伸びているのを見つけた。

 オリバー=ウィステリアについての報告をクレオはしなかった。諸事情で。

 だが、もう一人がぺらぺらと喋ったせいでオリバーが生きているということが露呈し、すぐに上層部に知らされた。


 その時別任務にあたっていたリアムから『近くにいるのでオリバーの情報の精査と監査を任せてほしい』という旨の連絡が上層部に入ったらしく、特に異論なくリアムにその仕事は預けられた。


 その後『オリバーの情報は間違い。それらしき人物は一行の中にはいない』との経過報告がリアムから寄こされ、今はリアムが捜索を続けていたはずだ。

 オリバーの情報については見間違いということで処理されている。

 正直助かった。


 オリバー=ウィステリアはかつてウィザードの研究対象であったアリア=ウィステリアの子息で、現在八歳。

 莫大な魔力量とそれを示す藍色の髪。アリアと同じ烏羽(からすば)色の瞳を持つ。

 しかし、アリアが死んでからのオリバーの所在は(よう)として知れず、監視されている王宮でも彼の姿を見ることはない。ウィステリア王が匿っている、あるいは逃がした、という話が有力であるが、依然その尻尾は捕まえられていない。

 彼も王子であるので政務などで姿を現すことくらいありそうなものだが、王宮にいる子供の目撃情報と言えば、オーウェン第一王子と使用人らしいシャツ姿の眼鏡少年くらいだ。

 影の薄い子だったが、眼鏡少年はけっこう強く、オーウェン第一王子の剣の稽古の相手などを務めていたりした。


 それはいいとして。

なんにせよ、幹部だった男を逃がすほどウィザードはやさしい組織ではない。

 クレオと同期のジゼラ=フォルスという女子幹部候補生は、脱退の際に髪を切り落とされ、加えて胸元に焼き印を刻まれたと聞いた。この世界では、女性にとってこの上ない辱めである。

 それだって、彼女がまだ候補生であったことと、中枢の情報には触れていなかったことでなんとか死を免れたにすぎず、もう一足脱退が遅かったら普通に殺されていただろう。


「異論なし、ということでよろしいな?」


 魔法組織『ウィザード』の長、ラースが各々の幹部の顔を確認するように見まわす。


 みな頷く。クレオももちろん頷くしかないが。


 あーやだやだとクレオは思った。

 ウィザードの実権を握っているあの男。あいつが来てからウィザードは堕ちたと先輩が言っていた。


 逆らうものには容赦なく。自分たちが一番であるためには手段を択ばない。

 それが今のウィザードの評価だ。


 以前のウィザードはもっと温和な組織だったらしい。

 エドウィン=グレイという男が長だった頃の話だ。

 『ウィザード』『ディアブラーリ』『グラマリー』の三組織のなかでも抜きんでて人道的な側面を持ち合わせていた。

 法を重んじるエドウィンの思想のもと、純粋に、倫理的に、魔法の向上・研究を目的にして設立したからだ。

 だからこそ、それについていく人間は多かったし、その頃はもっとたくさんの構成員がいて、魔法の研鑽を進めていた。


オリバーの母親であるアリア=ウィステリアも元はその一人であり、ウィザードとは至って友好的な関係だったと聞いている。


 歯車が狂い始めたのは、五年前のディアブラーリとの抗争の時だった。

 もともとエドウィンは抗争を始めるつもりはなかったようだが、その指示を無視した構成員幹部の一人――今の長であるラースがディアブラーリに宣戦布告をしてしまった。


 さらに嫌なことに、その頃血気盛んであったディアブラーリはエドウィンがそれを取り下げる前にウィザードに攻撃を開始。

 エドウィンは組織を守るためにやむなく応戦。水面下では抗争を終わらせるための対談や、いざというときのための『転移門』の開発を進め、結果的にはウィザードの勝利という形で抗争は幕引きを迎えた。


 しかし、監督責任を問われてエドウィンは組織を追われ、彼の行方は分からなくなった。

 その追及をしたのがラースだというのだからおかしな話だが。


 クレオだって、エドウィンが居たころの組織のことを耳にしてウィザードに入ったのに、上に上がるにつれ、だんだんきな臭さが目に入ってくるようになった。

 ジゼラが抜けたあたりでクレオも危機感を覚え、二年前にラースがアリア=ウィステリアを暗殺したころに『絶対抜ける』と決めた。


 その時すでに幹部候補生だったので、それ以上は昇級しないように重々注意している。

 何をしたら幹部に取り立てられてしまうかは先輩が教えてくれたので、それをしないようにするだけでよかった。


 クレオと一つしか違わないのに、まるでずっと年上みたいな雰囲気を持つリアムはクレオの大事な先輩である。

 リアムの脱退のことをクレオはすでに知っている。

 もちろんリアムは自分に追手が差し向けられることを予測しているし、その追手にクレオが選ばれていることも知っている。


 なぜかと言うと、追手というポジションに乗じてクレオも逃げるという作戦を先輩と立てたからである。


 騙されてるという可能性についてはすでに考えた。

 しかしそれを考慮に入れてなお、クレオはあのやさしい先輩を信頼したかったし、早くここを抜け出したかった。


「リアム追放の執行人についてはクレオ、おまえに任せる」


 やあすばらしいですな、さすがだ、などなど、大した実力もなくラースにおもねるだけの豚さん幹部たちがクレオを褒めたたえる。その地位がどれほど危険かも知らないで。

 それと、『追放の執行人』ってなんだよ。濁し方雑かよ。


「ありがとうございます。このクレオ、しっかりとお務めを果たします」


 クレオは慇懃に礼を返しながら『リアム先輩は、ジゼラと上手くいったのかな』と全く別の用件について、ごく真剣に考えていたのだった。


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