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50 シルヴィア=バーナードという聖女

いつもお読みいただきありがとうございます!

「あの、サラ……? なにをなさっているの?」


 翌日、朝7時にぬるま湯の入った桶をもってベッドの前に現れたサラを見て、シルヴィアは困惑したように声をかけた。


「なにって、お世話ですけど」


 それはこっちのセリフだと言わんばかりにサラは頬をかいている。

 それを聞いて改めて周りを見渡すと、部屋は丁寧に清められ、シルヴィア好みの肌触りのいい絨毯が敷かれて、クローゼットの中には新しく可愛らしいドレスがぎっしり。

 代わり映えのなかったシルヴィアの白いワンピースは清潔に洗われ、きちんと畳まれて、いつの間にか部屋の真ん中に置かれていたアンティーク調の丸机の上に乗っていた。

 小さなキッチンのコンロに置かれた黒いフライパンの上では、ふかふかのパンケーキが焼かれていた。バターとはちみつのあたたかい香りがほんのりと部屋に満ちている。

 そっと机に置かれた一輪挿しが柔らかく朝日を反射した。


「こ、これは一体、どういうこと……? ここはどこなのです……?」


まるで我が家にいたころのような。家族に愛され幸せに暮らしていたころのようなそんな光景に、シルヴィアは目を白黒させた。


「えっと、昨日、シルヴィア様が(とこ)に入られた後、僭越(せんえつ)ながら防音魔法を付与しまして、眠ってらっしゃる間に部屋の掃除と模様替え。テラコッタの従業員の方に服を、ソフィの家の方にハミルトンの庭の花を届けていただきまして、待っている間に絨毯を編んで、残った時間で朝食を準備しましたね」


つまり……


「サラ、一睡(いっすい)もしていないの……!? わっ! まぶたがとろんとしちゃってるじゃない……。眠そうな顔もかわいらしいけど、寝ないとだめよ……。私のせいで、ごめんなさい……」


 シルヴィアがそう言ってサラの両頬に手を添えると、サラはなぜか少しムッとしたような顔をして湯桶を置いた。そのあとシルヴィアの手をぎゅっと握る。

 琥珀色の瞳にじっと見つめられて、シルヴィアはどこか照れくさい気持ちになった。


「つべこべ言わずに、身支度なさってください。それに私、謝罪なんかよりも、もっと欲しい言葉がございます」


 しゅんとした顔でシルヴィアの手を放し、サラはクローゼットの方へと向かう。

 その背中が心なしかさみしそうで、シルヴィアは落ち込んだ。


(怒らせてしまった……。私ってどうしてこう、無神経なのかしら。あら……?)


 うなだれていたシルヴィアの目の端に枕元に置かれたあるものが映った。

 それはどうやら香り袋のようで、さっぱりと優しい香りがシルヴィアの好みだった。


(素敵……! 布の色も私の好きな淡い紫だし、白のフクロウの刺繍もなんてかわいいの!)


 よくよく見れば、陶器のペン立ては手作りのような(おもむき)があってシルヴィアの好きな感じであったし、風に揺れるカーテンはシルヴィアの好きなさっぱりとした白だし、絨毯の柄はシルヴィアの好きな東洋の模様だ。


 サラの姿を探すと焼いていたパンケーキを皿に移しているところだった。

 甘い香りが鼻を抜けていく。


 まっさらな器に用意されているのはとろりとしたヨーグルトと甘酸っぱい香りのアプリコットのジャム。パンケーキといい、どれもシルヴィアの好きなものだ。


(全部、私の好きなものばかり……)


 シルヴィアはサラの持ってきてくれたぬるま湯で顔を洗う。

 隣に置かれたタオルはふかふかで、顔をうずめるようにして水滴を拭うとやさしいお日様のにおいがした。


 シルヴィアが顔を洗い終わったことに気付いたのか、部屋着をもってそばに来たサラは湯桶とタオルを下げる。

 サラの持ってきた服は外出用のそれとは違ってゆったりとしたシンプルな服だった。

 空色をさらに淡くしたような色(ホリゾンブルーというのだろうか)の柔らかい生地で、ふんわりと膨らむようなワンピースだ。

 風通しの良いつくりなのか、さらりとした着心地がありがたい。

 大きなリボンで腰をマークし、シルヴィアのスタイルの魅力を最大限に引き出してくれていた。


「あの、サラ……?」

「はい」


 シルヴィアが呼びかけるとサラはくるりと振り返ってこちらを見る。

 夜色のスカートが音もなく(ひるがえ)る。

 サラの声はどこか落ち着く響きだ、と思いながらシルヴィアは口を開く。


「ぜんぶぜんぶ、とても嬉しいわ。その……ありがとう……」


 サラはふっと目を瞠り、その長いまつ毛をそっと伏せる。

 その口元は笑っているように見えて、シルヴィアはしばらくの間サラに見惚れていた。


「……とんでもないことでございます。……後ろを向いてください。御髪(おぐし)を整えますから」


 とても貴重なものを見たような気がしたが、すぐに目を離さざるを得なくなりシルヴィアは名残惜しい気持ちで鏡の方を向いた。

 優しく髪を()かれているのを感じながらシルヴィアは今日で何度目かもわからない笑みを浮かべる。

 こんなに表情を動かしたのは久しぶりかもしれない。

 ぼーっと鏡を見ると、後ろにいるサラの口元だけが映りこんでいる。


 その柔らかそうな唇は、本当にうれしそうにほころんでいるのだった。



サラ(ミラ)は、なぜシルヴィアの好みをこんなに把握しているかというと、アデルバードに聞いたからです(さすがアル)。

ちなみに、アルは男性なので、城の決まりで午後9時から午前8時まで、王宮の女性の部屋に入ることはできません。

ここら辺の話は次話に書きますが・・・。


遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

更新が遅く、本当に申し訳ないです。


いつも楽しみにしてくださっている方、ありがとうございます。


それではまた次話でお会いしましょう!

あでぃおす!


あづま

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