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49 アザレアの聖女シルヴィア2

いつもお読みいただきありがとうございます!

「新しいメイドを雇ったぁ? あの『幽閉塔』に? 全く信じらんないぜ。この財政難に。国民は今日の飯すらままならなくて喘いでるってぇのによぉ……」


 勢い勇んで王宮の門をたたいたミラに、やる気のなさそうな顔で突っ立っていた、いかにも門番! と言わんばかりの門番は開口一番にそう言った。


「そう申されましても。本日から業務に就けとのご要望ですから」


 そう言ってリオからあらかじめ手渡されていた通行証と辞令の紙を見せる。

 もちろん偽造である。

 依頼主は本物を用意できないようなので、あまり高位職ではないのかもしれないなとミラは邪推する。


 その間にも門番は紙を上から下まで()めつ(すが)めつしながら見、ようやく渋々ではあるがミラを城に通した。

 通り際に夕食に誘われたが、もちろん丁寧にお断りした。






 城に入り、リオの指示通りに東の大きな塔(『東翼』というらしい)の陰で待っていると、どこからか甲高い声が聞こえてきた。

 ヒステリックで耳をつんざくみたいなひどく気に障る音だ。


「ダルミン!! なぜ私がこんなところへ来なければならないのよ!! しみったれた薔薇園を歩いてお茶するだけだなんて、退屈にもほどがあるわ! ファンシー×ファンシーで宝石を買って、ヴィヴィントンで最新のバックを買ってって私おねがいしたじゃない!!!!」


 彼女が口にしたのはどちらも最高級の宝石店と服飾ブランドだ。

 ターシャのテラコッタも負けてはいないが、どちらも王室御用達である。


「すまないプラチナ。でも、今は国庫がひっ迫していて国民は飢え苦しんでいるんだ。経済を回すのはお金を持つ者の責任ではあるが、タイミングが悪いしやりすぎはダメだ。それに僕らは王族と言っても王位継承権が低い。あまり飾り立てているのは上品とは言えないだろう?」


 どうやら男の人がなだめているようだが、女性の方は全く聞く耳をもたない。

 男性側も辟易(へきえき)しているようだった。

 

 そしておそらくこれが初めてではないのだろう。

 男性側の声はひどく疲れたように聞こえた。


 名前からしてこの二人は王族だ。

 この国(アザレア)の王室構成は国王が居て、その伴侶に女王と三人の側妃。国王と腹違いで側妃の子である王弟、その妻の王弟妃(王弟はひとりしか妃を娶れないのでこちらは一人)。女王の子である第一王子(王太子)と第二王子、第三王子。側妃の子である王女、王子四人。

 であったはずだ。


 この国の王太子は第一王子で、そこから順に第二第三と続く。

 幸い女王が子宝に恵まれたので、血のあれこれによる権力争いというのはほとんど起こっていなかったようである。

 王弟殿下が王太子でない理由はどうやら何かやらかしたらしいということだが、そこに関する情報はほとんどと言っていいほど入ってこなかった。

 どうせ王族が必死に隠蔽しているのだろうが。

 ダルミンというのは王弟、プラチナというのはその妃の名前だ。


「ドレスも最近新調していないし、大好きなキャビアも最近食べてないし。あーあ、王弟の妃っていうからもっと贅沢できると思ったのに」


 間違いなくコイツが国庫を食いつぶしているとミラは思った。

 しかも全く反省しないタイプだ。もっとも質が悪い。

 あれだけゴテゴテと飾り立てているというのにまだ足りないのだろうか。

 目の前の薔薇はなにもせずともあんなに美しいのに、彼女にはそのひとかけらも品性というものがないように見える。

 オシャレも贅沢も、それが当たり前になってしまえば特別なものではなくなってしまう。

 きっと金銭感覚が早くもバグったのだろう。

 しかし、王弟妃であるなら金の使い方くらい教わるものではないか? なんでこんなバカがこの地位に立っている?


 ミラの怒りが臨界点を超えるかというちょうどその時、いつの間にいたのか少年に声をかけられた。


「サラ=サリバン様でございますね。神秘の塔にご案内いたします。ついてきてください」


 今回は偽名を使用した。

 呼ばれ慣れない音にミラは微妙に違和感を覚える。

 

 その少年は黒髪に銀縁メガネという王道なインテリイケメンである。

 ノルの方がカッコいいな、とミラは思った。


 そんなことを思われているとは露ほども知らず、少年は黙々と歩く。

 今後のことを鑑みるに、この子はおそらく上司だろう。


 どうやってあの塔に出入りするのだろう。

 なにせあれには窓しかない。


「こちらから入ってください」


 そう言って提示されたのは、普通のドアである。

 扉の奥には塔の最上部の部屋につながるであろう螺旋(らせん)階段が見える。


 ???


 これでは自由に出入りできてしまうのではないか?


 そう思いながら扉を通り抜ける瞬間、

 パチッと静電気が流れるように魔法の気配がした。


「そのドアには結界魔法が張ってあります。まあ、護るための、ではなく、閉じ込めるための、ですがね」


 階段の手すりに手をかけながら少年はそう言った。

 言われて、よくよく見ると、たしかに薄い膜のように魔法が張られている。

 私たちが通れるということは、この結界は聖女様のみ通れないようになっているのだろう。


「なぜ、聖女様はこの塔に……?」


 長い長い螺旋(らせん)階段を上りながらミラは少年に尋ねた。

 しばらく返答はなく、答えられないということだろうと思って別の話題を探していたら少年が唐突に喋りだした。


「王族が彼女の口を封じるためにそうしたのです。お嬢さまは、浮気されたあげく、聖女としてこき使われております。このことはお嬢さまの生家には伝えられておりません。王弟殿下との婚約が白紙になったことしか旦那様は存じ上げません。僕自身も、王宮の外に出ることは許されておりません。あなたも今日から出ることはできません。出るには王宮のことを口外しないという魔法誓約書を書かねばなりません。破った際の誓約書の罰は到底耐えられないほどの苦痛を伴うと言われています。旦那様はおそらく、何通も手紙を書いていらっしゃるでしょうが、すべて、お嬢さまのもとに届く前に処分されております」


 お、おお。突然長文喋るなこの人。

 きっと黙っている間、文章を頭の中で組み立てるタイプだ、うん。そうだ。

 

 しかしその丁寧な説明にミラはなるほどと納得した。

 王族の隠ぺい工作に巻き込まれてしまったわけである。

 聖女様にとってはこの上ないとばっちりだろう。


 王弟の継承権が低くて、あのバカがあの位置に立っている理由がよく分かった。

 不貞で得た地位というわけだ。


 それを許したこの国の王族も、あきれ果てるほどにカバである。

 どう考えてもあの二人を残すという選択はアホの所業である。

 それともそれすらもスキャンダルとして威信が傷つくほどに、この国の王族は切羽詰まっているのだろうか。


 どちらにせよ、もし彼女が神経衰弱なりなんなりで死んでしまえば王族の失態を知る者は誰もいなくなる。

 病死ということであればだれも反論なんてできないだろうし、

 使用人など脅威でもないから聖女が死んだ後に処分すればいい。


 幽閉されている身で王宮に味方は一人もない中、聖女が王族を摘発してしまおうものなら、真っ先に謀反を疑われて頭と胴体は泣き別れ、というわけである。

 実にセコい。


 ミラはなんともやるせない気持ちで階段を上り切った。

 階段を抜けるとすぐそばに木製の些末なドアがあった。

 しかし、少年が磨いているのだろう。ドアノブだけがキラリと金の光沢を放っている。

 少年はそのドアを三度ノックした。


「どうぞ」


 ドアの向こうから、か細い声がした。

 少年がドアを開けて恭しく頭を下げる。


「新しい使用人を連れてまいりました」

「まあ。そうなの。どうぞ、顔をおあげになって」


 ゆるりとした声音に促されて顔をあげる。

 そこにいたのは、真っ白の簡素なワンピースに身を包んだ……


「てん、し……?」


 思わずそう口にしたミラは慌てて口を押えた。

 そう言ってしまうのも仕方ないだろうと思う。

 まんまるの大きな瞳はくっきりと二重で、まつ毛は愛らしくカールしている。

 水色がかったつやつやの髪の毛は柔らかくウェーブし、鼻筋はまるで神が気合を入れて描いたみたいにすっと通っている。

 やつれてなお儚い美しさを醸し出すその佇まいは、正しく聖女と呼んで差し支えないだろう。


「ふふ、こんなガリガリの骨ばった女をそんな風に言ってくれるなんて。優しい子ね。お名前は?」


 ミラはドギマギしながら自分の名前を口にした。


「ミ……いえ、サラ=サリバンです。本日からお世話になります」

「サラ……。とても綺麗な響き。ナツツバキの別名ね。あなたにピッタリ。わたくしの名前は、シルヴィア。シルヴィア=バーナードよ。二つ目の名は、しきたりで教えられないの。ごめんなさいね」


 シルヴィアはそっと微笑んだ。

 少しの間とはいえ、王族のもとで過ごした経験は彼女の品格をたしかに育てたようである。

 聖女としての責務も、その細い双肩に背負ってきたのだろうか。

 爪の先に至るまでの品というものを改めて実感する。

 彼女が王弟妃として王弟を支え、この国のために尽力したならば、間違いなく繁栄をもたらすであろうことは容易に想像できた。


 民衆の心をつかむ容姿と穏やかな物腰、王族とはかくあるべきと言わんばかりの品のある佇まい、少し言葉を交わしただけでわかる、その聡明さ。

 そのうえで、彼女は聖女だ。

 きっと多くの国民から慕われてきたのだろう。


 なぜ王族が彼女を幽閉するのにとどめた理由がようやくわかった。

 彼女を王族の命で始末したことがもし万が一国民にばれてしまえば、彼らが何をしでかすかわからないからだ。


 ミラは理解した。

 依頼人の真の目的は、聖女を手に入れることではない。



 この国の滅亡だ。



こんばんは。

あづまです。

早くも町があのカラーに染まる季節がやってまいりました。

作者はそんな街並みを通って一人寂しく帰宅しました(聞いてない)

そして大分冷え込んできましたね。

どうか風邪などひかれませぬよう、あたたかいところでのんびりお読みください。


今話も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!

また次話でお会いしましょう!


ではでは!!


あづま

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