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48 アザレアの聖女シルヴィア1

いつもお読みいただきありがとうございます

 私ができることなんて、なにも無い。


「聖女様、水が枯れてしまったんです!」


 ごめんなさい


「聖女様、もう何日も、子供になにも食わせてやれてないんです」


 ごめんなさい


「聖女様! 北東部に魔物が出現して!!」


 ごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 私にはなにも、できないの……――。






「聖女様、本日はゴールデン卿に面会していただきます。そのあとはブロンズ伯爵から面会の約束が。そのあとはプラチナ王弟妃殿下とお茶会のご予定となります」


 すっと通った鼻梁に嫌味なく銀縁の眼鏡を乗せ、つやのある黒髪をオールバックにした執事アデルバード―もといアルは、今日も淡々と彼女のスケジュールを告げる。

 手帳を見て読み上げながらも、彼女の様子をときどき眺める。

 今日も彼女は表情筋をピクリとも動かさない。真っ白な肌に色はなく、ウェーブのかかった豊かなライトブルーの髪を肩に流して、ただじっとアルの声を聴いている。

 面会なんて名ばかりのものだ。

 実際は私腹を肥やしたい貴族たちに彼女が受けた託宣の内容を伝える、ただそれだけのことである。


(プラチナ王弟妃殿下とお茶とは……。殿下も酷なことをなさる)


 もともとは彼女がその地位にいるはずだった。

 聖女である彼女は幼いころからすべてを国益のために投げうってきたのだから。

 まだ右も左もわからぬ頃から婚約者を決められ、その相手を支えるためだけに全てを捧げてきた。


 高度な教育、厳しいマナー講習、週に一度の祈りの時間も、一挙手一投足さえも監視され、真に心やすまることなどなかったのではないかと思うくらい毎日多忙だった。

 婚約者が政務を手伝うようになってからは、それこそ彼女に何一つ自由はなかった。

 仕事のほとんどを彼女が受け持っていたからだ。


 アデルバードは彼女がいつ体を壊してしまうかと気が気ではなかった。

 それなのに、それを一番傍で見た来たのはほかならぬアデルバードなのである。

 元()()()()()()()殿()()()()()()



 彼はあろうことか不貞を働いていたのである。

 もとはと言えば、王家の連中が聖女との結びつきを強めるための婚約だった。


 だというのに彼女が懸命に上下水道整備案を検討している間に王弟殿下(あのやろう)は仕事をほったらかして浮気相手と街で遊び、そいつに髪飾りなんぞ買い与えたりしていたのだ。

 聖女様にはそんなもの一つだって贈ったことはなかったのに。

 彼女が市井を視察して、住民のための政策を練っている間に王弟殿下(あいつ)は浮気相手とズッコンバッコンしていたのである。

 慎み? そんなものはずいぶん昔に置いてきました。


 アデルバードは主人が婚約破棄を公衆の面前で言い渡された時の、あの悲しげな顔が頭からこびりついて離れない。

 彼女は疲れ切っていた。限界だった。

 彼女がなるはずだった王弟妃という立場には浮気相手だったプラチナが就くことになった。

 プラチナが王弟殿下との子を身籠ったからである。


 家格としてもなんら問題ないことから妃教育を施すのみだったという。

 王家は身内に起こった醜聞をもみ消すのに必死で聖女を蔑ろにした。

 聖女様の生家には何も伝えられていない。 


 一番に信頼を置いていたものからの裏切りと、今までの重責と、王宮内の冷笑に彼女の心身が―まだ15歳の少女の体が耐えられるわけなかったのである。

 その婚約破棄の一件から彼女はピクリとも笑わなくなった。


 今まではアデルバードのことを「アル」と呼んで天真爛漫な笑顔を見せ、周りをほっこりとさせていたものだが、今は物言わぬ人形のようだ。

 そして何よりも悔しいことは、その顔を晴らしてやるために自分は何もできないという事実そのもので、慰めの言葉もかけてやれない立場の自分なのであった。






「本当にここに潜入するのリオ!? 何かの間違いとかじゃないよね!?」


 ミラは目の前にそびえる高い塔を見やってそう言葉を発した。

 ミラがいるのはアザレア王国王城の『神秘の塔』の前である。

 その名前こそ優美なものだが違和感はいくつもある。

 まず最初に、出入り口が窓。


「だから言ったろ。今聖女が住んでるのは幽閉塔みたいなところだって。出入口はあの高いところの窓だけ。もちろん抜け道はあるらしいが彼女には伝えられていない。一人の執事以外に側付きはなし。今回お前は聖女の話し相手兼世話係として王室雇用。オーケイ?」


 いや、ラプン○ェルかよ! と叫ばなかったミラを誰か褒めてほしい。

 引っかかりありまくりだが、ミラは渋々頷く。


「にしても、ほんとによかったのか? お前ら、旅の途中なんだろ?」


 そう。ミラたちの旅はまだ始まってから一週間と少ししか経っていない。それはそうだ。

 まだ禍討伐しかやっていないのだから。


「ノルから許可は取ってるよ。フィルさんも、ゆっくりのんびり行くから大丈夫だって言ってたし。ユカワの町で温泉に浸かってるわーとか言って、ドヤ顔すんだよ? マジ信じらんない。それに、潜入期間って、ゆうて長くても一ヵ月くらいって、リオ言ったじゃない。

まさか嘘じゃないよね? そのつもりでいるんだけど」


 ミラがじっとりとした目線を向けると、リオは大慌てで頷いた。


「も、もちろんだよ。だあいじょぶだって……! な!」


 聖女をこの塔から連れ出すねえ、とミラは考える。

 リオほどの腕ならそれくらい自分でやっても容易いものでしょうに。

 

 しかも、連れ出してそのあとどうするのだ?

 平民出身とはいえ、幽閉同然で隔離される前には聖女らしい暮らしをしてきたお嬢さまだ。

 平民として生活するなんてできるだろうか。

 依頼主は誰なんだ? 何のために? 殺すためではないとはいえ目的がわからない依頼だ。

そもそもひとりで塔を出て行って、彼女は途方に暮れてしまいやしないか?


 まあいい。

 疑問は尽きないが、ひとまずミラの大好きなお世話はできるのだ。

 そう自分を納得させて、ミラは夜色のスカートの裾を直した。





こんばんは。あづまです。

母が隣でストレッチを行う今日この頃でございますが、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

新たに登場、アデルバード君ですが、作者の友人のオールバック眼鏡イケメンが好きっ!という心からの叫びから生まれた登場人物でございます。

根が真面目でいい奴ですので、あたたかく見守っていただけると幸いです。


今話も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

それではまた次話でお会いしましょう!


あづま

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