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45 ジゼル=ウォード1

いつもお読みいただきありがとうございます!

「はー、お嬢さん、やっぱりあんたおバカでしょ」


 頭上から声が聞こえて、ミラの意識は覚醒する。

 目を開けると、少し年上の男の子の背中が見えた。


「……まったく。俺が偵察のためにこっそり尾行していなかったら、誰もお嬢さんを助けられなかったっていうのに。感謝してほしいもんだぜホント。偶然装えてたかなー。バレてっかも知んねーなー。特にあの王子様と隊長には……」


 こちらに背を向けてどうやら手ぬぐいを絞っているらしきリオが何やらぶつぶつ言っている。

 小さすぎて一文字も聞き取れないが。

 不意にこちらを振り返るリオにミラは咄嗟に目を閉じる。

 額の上のぬるくなった手ぬぐいの感触が消えて、代わりにひんやりとした手ぬぐいが載せられた。


「リオ、代わる」


 扉が開く音がして、一瞬ミラの傍から人の気配が消える。

 心細さを感じたのも束の間、入ってきて近くの椅子に座ったのは間違いなくノルだ。


「手ぬぐいはさっき変えたぞ」

「わかった」


 リオが去っていく足音がして、それが聞こえなくなったのを合図にミラはゆっくり目を開けた。


「……ノル……?」


 ノルはミラが寝ているベッドに顔をうずめながら心配する目でこちらを見ていた。

 その視線に妙に気恥ずかしくなってミラは眉尻を下げた。


「おはよう……」

「ミラ、俺、怒ってる」


 返ってきた言葉に、ミラは落ち込む。


「……ごめん」

「ちがう。ミラじゃなくて、俺は、俺に怒ってる」

「……へ?」

「……俺、やっぱり拗ねてたんだ。ミラがあいつ連れてきたから。朝も一緒に料理なんてしちゃってるし。そのせいで、ミラが具合悪いことにも気づかなかった」


 あいつというのはリオのことだろう。

 ミラは自分の行動を思い起こしてみる。

 ちょっと待て。たしかにミラは精神年齢的には18とかだ。前世の記憶があるから。

 しかし傍から見たらどうだろう。少女である。

 ちっちゃい女の子が、年上のおにーさんを拾ってくる。

 世間一般に見ればその行動は、女の子はお兄さんに、憧れもしくはかすかな恋情を持っていると考えるのはいたって自然なことではないか。


「違う違う違う違う! ウチは! ウチが好きなのはずっとノル! 傍に居ると安心するのも声とか香りにドキドキするのも、き、す……とか! したいのもノルだけだし……」


 なんだろう、勢いに任せてとんでもないことを口走っている気がする。思ったことをそのまましゃべっているのでこうなる。しょうがなくはない。はい。


「……へえ」


 思っていたより反応が薄い。誤解を解こうとやっきになっていた気持ちがしょんぼりとしぼむ。めんどくさいと思われただろうか。ノルは向こうを向いてしまって表情が見えない。


 ノルがおもむろに立ち上がる。

 顔こそ見えないが耳が真っ赤だ。


「ミラおまえほんと……回復したら、覚えとけよ……」

「えっ、待って……行っちゃうの……? やだ……」


 さすがに心細すぎてミラはノルを引き留めた。

 ギシッと音が聞こえそうなほどぎこちなく動きを止めるノル。


「……お、おねがい。行かないで」


 熱のせいか目が潤む。多分顔も赤いしぐしゃぐしゃだろう。

 振り返ったノルが、心臓が掴まれたみたいな顔をした。


「あー! もう! わかった! わかりました! すぐに戻ってくるから! 俺、病人を襲う趣味はないの! 頭冷やしてくるから待って! 仕事も放ってきちゃったから! その間、ジゼルにここを頼むから。……な?」


 ノルはミラの頭をやさしくなでた。ミラは了承の意を込めて頷く。

 それを見届けて、ノルが部屋を後にした。






 コンコン


 控えめなノックの音でミラはまどろみから覚める。


「……お嬢、起きてる?」


 この細く柔らかい声はジゼルのものだ。


「ジゼル? 起きてるよ」


 ジゼルがひょっこりと顔を覗かせた。

 カチャリ と優しい音が部屋の中に響く。

 ジゼルの髪が深く静かな湖のように影をたたえ、陽を弾いている。


「顔色、戻ってる……。よかった」


 ベッドの傍に腰かけたジゼルはふわりと笑った。

 それに呼応するように周辺の空気がそっとほどける。


「うん、大分回復した!」


 ミラは両腕を曲げて力こぶを作った。ついでにえへへと笑う。

 筋肉少なめのへなちょこの腕でも元気なことは伝わっただろうか。

 ジゼルは少し驚いた顔をした。

 それからミラの顔と力こぶを交互に見て、俯く。


「……お嬢、ごめん……」

「なぜ!?」


 ジゼルの謝罪にミラはほとんど反射で言葉を発した。本気でわからない。


「……お嬢に、話してなかったことが、ある」


 ジゼルは俯いたままそう答えた。その声にどこかあきらめに似た彩が混じる。


「私……、元々、ウィザードの人間…なの」


 シンとした部屋の中でジゼルの声だけがぽつり、ぽつりと空気を揺らす。


「ウィザードに入ったのは10歳の時。もともと我が家は裕福なほう……で。そう、だな……私立の初等学校に、お金の心配をしないで入れる程度には」


 この世界でも、私立というのはとかくお金がかかる。

 地方の私立の大抵はその領地を治める貴族が運営している。

 要は、まあそういうことである。


「でも、没落した……大規模商会の会長の、秘書だった父が、命を狙われていた会長の暗殺を阻止して、庇って……、死んだから」

「……」

「当然学校でも肩身は狭かった。ライラとは、初等学校は別で……。幸い、成績は良かった方だから、特待生として、学校には置いてもらえた」

「じゃあ、どうして、ウィザードに……?」


 ジゼルはミラの頭を撫でた。

 しばらくの間ミラの頬をふにふにとつまんで微笑む。


「父が死んですぐ、無視が始まった。最初のうちは、それだけだったけど……、じきに、ものがなくなり始めた。と思えば、綺麗な洋服はずたずたになって、大好きな本はボロボロになって、私の机の中に、悪口の書かれた紙と、一緒になって、ぐちゃぐちゃに入れられてた。ノートが防火水槽の中に投げ入れられたこともあったな……。まあ、どれもそこまで気にしていなかったんだけど……」


 なんでもないことのように言うジゼルの顔を見ていられずに、今度はミラが俯いた。


「次に、妹が、狙われた……。フォレストグリーンの長い髪が、学校一美しいと評判だった。

でもある日、帰ってきた妹の髪が、耳のすぐ下でギザギザに切られてた」

「……」

「その日から妹の、声が、出なくなった」


 そこには静かな怒りがあった。妹を思う、姉の姿があった。


「だから、妹の声を取り戻すための方法を、見つけるためにウィザードに入った。魔法でもいいから縋りたかった。日に日に痩せてく妹を見るのは、辛かったから」


 窓の外を見ながらそう話すジゼルは15とは思えないほどに大人びていた。


「結局、そんな方法は見つからず仕舞いで、13の時に、ウィザードの先輩にむりやり襲われそうになっていたところを、隊長に拾われた。妹には、無声音と嗚咽のない涙ですごく怒られたよ。無茶してお姉ちゃんがいなくなる方がずっといやってさ……」


 呆れたようなのに、ひどくうれしそうな顔でジゼルは笑った。


「リオとのことは、あいつが、打ち明けてから話す……ね。今朝は、ごめん。ミラはウィザードをあまりよく思ってないって知ってたから、見られたくなかった。またあの時みたいに仲間外れになるかもしれないと、思った」


 ミラは少しだけ唇を尖らせてジゼルを横目に言葉を発した。


「許しません」

「……うん」

「これからも仲良くしてくれなきゃ絶対に許さない」


 ジゼルは目を瞠るとほんのりと笑った。

 柔らかな風が吹いた心地がして、ミラもつられて笑みをこぼす。


「ありがとう、お嬢」


 そう告げるジゼルの顔は、極上に可愛らしかった。

こんばんは。お久しぶりです。あづまです。


大遅刻、スミマセン…。


そろそろ、死地(テスト)へと赴く時期がやってまいりました…。しばらく更新をお休みします。

小説を続けるために、目下テストをコンプリイトしてまいりますので、暇すぎて仕方のないときにでも

「あーそういえば今ごろ、あづまはテスト期間かー。草。ふぁいと!」

というふうに、暇つぶしに思い出して応援していただけたら、作者の心は満たされ、テストはオール満点。素晴らしい成績を残せることでしょう。

さっさと勉強始めろ?そのとおりですね‼


12月からまた、更新を再開いたしますので、

楽しみにお待ちいただければと思います。


今話も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!読者のみなさまのアクセスが、あづまの支えです!


それではまた次話でお会いいたしましょう!

はぶ・あ・ないすでい!

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