42 【閑話休題】追うもの
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「ねえ、大丈夫?」
頭上から降り注ぐあたたかな声に小さな既視感を感じながら、リオンは閉じていた瞼を開けた。
そこには、心配そうにこちらを伺う美少女がいる。
使用人のような服に身を包んでいるものの、その服は彼女にしっくりと馴染んでいる。彼女の柔らかそうな亜麻色の髪が、日を受けてきらきらと光った。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「ああお嬢さん。気にすることはないよ。少し失敗してしまっただけだ」
その少女はリオンとそう変わらない歳だろう。
おそらくリオンのほうが3つか4つほど上かもしれない。
心配そうにこちらを伺う顔に照れくささが勝る。
「えっ、ちょっ、すごいケガじゃん! なんで言わないの!?」
「本当に大丈夫だから……! ここは裏通りだ。お嬢さんみたいな子の来るところじゃない。さあ、戻るんだ」
そう言い返すと同時に鈍い痛みが身をつんざき、リオンは顔を顰める。
「ほっとけないでしょ!? ていうかあんたも十分子供だから!」
少女は呆れたような顔で腰に手を当てて、リオンを叱るように見た。
「あー、もう! ほら、掴まって!」
そう言って手を差し出してくる。
その手を取るかどうか迷っていたら問答無用で腕を引っ張られる。
「止血は済んでるのね。よかった。でも、結構汚れてる。このままだと化膿するだろうから……。ちょっと沁みるよ」
少女はリオンの怪我に向かって手をかざすと"消毒"と短く詠唱した。
少女の髪がふわりと持ち上がる。
途端、傷にピリッとした痛みが走る。しかしすぐにそれはかき消えた。
「今のは……?」
「水魔法の応用。アルコールの生成をして、度数を調整したの。あまり濃いアルコールは、人体に害だけど、薄すぎなければ消毒になるでしょ?」
アルコール、とはなんだろう。
一瞬濃い酒の匂いがしたような気がするが、酒が消毒になるのか?
いずれにせよ、見たことがない魔法だ。
「"治癒"」
次に少女が口にしたのはよく知られている魔法だ。しかし、使える人は限られる。
大抵は合格最難関といわれる王宮の医師、希少な回復魔法師のどちらかだ。
資格が必要というわけではない。
ただ、それが使えるというスキルを持っていてそのどちらの道も蹴るという人はそうそう現れない。
各属性の魔法をそれぞれ調節しながらそれを継続するため習得が難しく、緻密な魔力操作を必要とする。
そんな魔法を、少女は惜しみなくかけていく。
「……は?」
リオンは思わず声を上げた。傷跡がなかったのである。
「なんで、傷が残らない……?」
「ん? それが普通っしょ? 回復魔法じゃん。それにそれ以上の怪我はウチ治せないから。魔力少ないし。というか、無くなった血は戻らないし体力の回復もまだなんだから、ウチの泊まってる宿に連れてくから」
いや、傷を治し新たな細胞を生成する必要のある"治癒"は複雑かつ膨大な数の魔力操作を行うため、よほどの腕でも傷を残さずに治すことは困難とされている。
「お嬢さん、君、何者?」
少女は視線を下に落としていた。どこか据わっているというか、およそ年下とは考えられない彼女の深い琥珀色の瞳に、リオンの中を緊張が走る。
「何者って、え!? えっと、ミラだけど……そういうことじゃない? あ、自己紹介すればい!?」
彼女はわたわたと手を動かした。あさっての方向に話が飛ぶ。
そのときには、彼女の目は年相応のそれに戻っていて、リオンは詰めていた息をこっそりと吐いた。
「えーっと、改めまして。名乗るのが遅れて申し訳ありません。スチュワート伯爵家のミラと申します」
優雅ながらも、どこか親しみを感じる彼女のカーテシーにリオンは納得した。
なるほどたしかに、先程までの行動にも、育ちの良さがにじみ出ているような気がしないでもない。
「リオだ。よろしく頼む」
リオンは名乗るのに偽名を使った。
まだこの少女を完全に信用する気にはならない。
特に、あの目だ。何かを見透すような、すべてがバレているような、そんな気持ちにさせられる。
ただでさえ、なれない山で瘴気に毒されていたのだ。
麓の街に下りられたとはいえ、これ以上のリスクはおかせない。
オリバー=ウィステリアの一行も見失ってしまった。というより、あれは気づかれていて、撒かれたのだろう。
なにはともあれ、屋根のあるところで休めるのなら僥倖だ。
何かあったら逃げればいい。幸いにも得意分野だ。
少女……ミラの魔法は気になるが、ひとまず今は……。
リオンは少女の顔を見る。
見れば見るほど、美しさが増すようだ。
リオンはその繊麗さに見惚れながらも、多難な前途にため息をついた。
ずっと出したかったキャラですが、出しどころが随分あとになりました。これからいろんな意味で活躍するはず…。
苦労性。どんまい。がんばれ。
『木の上で』の人たちとは別人です
今話も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
作者、ノロノロ更新でたいへん申し訳ありません…。がんばりますので…。
どうか変わらぬご愛読のほど、よろしくお願い致します。
ではでは!




