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40 【閑話休題】宿にて

いつもお読みいただきありがとうございます!


「ふい~、やっぱり慣れない土地は肩が凝るねぇ~」


 宿に到着したミラとライラはとりあえず部屋で待機することにした。

 ライラが年に似合わず肩をとんとんしながらそんなようなことを言う。

 禍にいちばん近い宿は露天風呂が売りの旅館で、ほどけるような湯がなんとも心地よいと評判の老舗のようだ。

 さすがというか湯にはつかれなくてもお客さんは来るようで、仲居さんやら番頭さんやらが忙しそうに動き回っていた。


「ご宿泊ですか?」


 ミラたちが受付前のエントランスのあたりで談笑していると、番頭さんぽい雰囲気のお兄さんが問いかけてくれた。

 正直呼び鈴もなく、どうするべきか迷っていたのでありがたい。


「そうです。予約はしていないのですが可能でしょうか……」


 その人は優しげな瞳をにっこり細めて頷いた。


「可能ですよ。なにしろ禍のおかげでお客さんの足は遠のいていますからねえ。キャンセルばっかりで、参ったものですよ……」


 とほほ、といいながらその男性は頭をかいた。

 とほほってホントに言う人いるんだとミラは思った。


「こんなに忙しそうなのに……?」


 番頭さんは二度頷いて答えてくれた。


「これは、禍の被害を修繕するために皆動き回っているのです。我が宿の宿泊客はお嬢さま方を除いて一件もございません」


 聞くと、禍のせいで手入れしていた庭木がやられたり、料理に使う水を確保できなかったり、露天風呂の掃除のとき、べたべたした黒い物体が残っていたりと散々なようである。

 宿の人もてんてこまいで、番頭さんらしきその人は、従業員のほとんど皆が三徹なんです、と目をしきりにこすっていた。ちなみに残りは四徹らしい。

 ツラすぎる。


「あとから5人合流するんです。部屋を二部屋にしたいのですがいいですか? それと禍が討伐されるまで水は使わない方がいいと思うので、掃除・洗濯・料理はこちらで済ませます」


 男性はミラのどちらの言葉にも頷いた。

 見晴らしの良い部屋を選んでくれるらしく女子三人でひと部屋、男性四人でひと部屋という分け方にした。何かあったときのために、部屋同士は隣だ。

 ミラはジャスパーさんから宿代にと預かった袋から宿泊料金を支払った。


「ではお先にお嬢さま方を部屋にご案内しますね」


 男性は立ち上がり、荷物を受け取ってくれた。

 ミラとライラは彼について歩く。

 途中、壁にかかった一輪挿しの花をいくつも見かけた。

 番頭さん(実際の番頭さんだった)によるとこの花は毎日番頭さんの奥さんが摘んできた花を生けているらしく、うすピンクの秋桜(コスモス)の優しい彩がミラを和ませた。


「こちらが女性の方々のお部屋ですね。紅葉(もみじ)の間でございます。今の時期は織物のような絢爛な紅葉(こうよう)がご覧になれますよ」


 番頭さんが障子をすっと開くとなるほど、これはたしかに美しい。

 高く澄んだ蒼空に深く艶やかに色づいた樹木たちが凜と立っている。

 ミラもライラも思わず目を瞠り、その景色に見惚れた。

 しかし、そこに水を差すように黒い靄が漂い始めた。

 番頭さんは疲れたように目元をつまんでぐりぐりしていた。


「……おつかれさまです」

「ありがとうございます。一応旅館に一名、風魔法に特化したやつがいましてね。そいつのおかげで館内の空気は清潔ですから安心してください。何かご入用でしたら遠慮なくどうぞ。それでは私は失礼いたします」


 番頭さんは部屋を出て行った。


「お嬢、何かやることある? 隊長帰ってくるまで私暇なんだよね~」


 ライラは畳に寝そべり覗き込んだミラを見上げて言う。

 きっとライラも疲れているだろうし、ミラの仕事は自分だけで十分終わるものだ。

 休んでいてもらおう。


「仕事は私だけで十分終わりるし。ライラずっと私を護ってくれてたでしょ? 休んでて。明日は討伐もあるし……、そうだ! お茶淹れるよ!」


 ミラは部屋の奥から備え付けのポットを持ってきて、ライラの横に腰かける。

 茶葉はポットの隣にいくつか瓶が並んでいて「ご自由にどうぞ」と書かれていた。


「お嬢~、それ、なに茶~?」


 ライラが興味津々に体を起こした。ミラの手元を楽しそうに見ている。


「ハトムギ茶だよ! 疲れとれるし、むくみも改善するし、美肌効果もあって~!」


 『美肌効果』のワードにライラが反応する。

 いつの時代も女子にはお肌の悩みがつきものである。

 けれどライラの肌はこの年頃にしては驚くほどきれいだ。

 ニキビとかもないし、かさついたりもしていない。

 それは日々の訓練や任務できれいな汗をかいているからだろう。

 大事なポイントは代謝を良くすることである。


 ミラは手際よく水魔法で水を生成して、火魔法で沸騰させ、ちょうどよい温度に冷ます。

 茶葉を適量入れたポットにお湯を注いで、蓋をして3~5分くらい蒸らす。


「フィルさんたち、ケガとかしてないといいんだけど……」


 ふんわりと柔らかな香りが部屋いっぱいに広がる頃、ライラがポツリと呟いた。

 偵察組はそろそろ、禍の元に辿り着いた頃だろうか。

 お昼ごはんは食べてからここまで来たとはいえ、ここから大元の稲荷岩までは徒歩で1時間強かかるらしい。

 ミラの魔法が保つかどうか。


 自分の中の少ない魔力がゆっくりと減っていくのを感じながら、ミラはハトムギ茶を一口飲んで、夕ご飯の下ごしらえを始めた。


今話も最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!

これからもミラたちを見守っていただけると幸いです!


あづまひろ

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