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4 伯爵令嬢ミラ=スチュワート2

お風呂です。


「え~っ。それでは今からシャンプー&リンスづくり、スタートです!」


 わ~っと言ってかわいらしく拍手してくれるのは侍女のエマである。

 今はミラもエマもバスタオルを体に巻いたのみで、濡れてもへっちゃらである。


「まずは、このこの粉石けんを少しずつぬるま湯に溶かして練ります!」


 粉せっけんはお風呂場にあった。ちなみに固形石鹸をすりおろしてもいい。

 石鹸の物自体はとてもいいものらしく、清潔そうないい香りだ。

 一応作り方はわかるけど、石鹸作りからスタートじゃなくてよかった。


「どれくらい練りますか?」


 ノリノリで聞いてくれるエマ。前世でよく見てたクッキング番組を思い出す。

 ああいう感じのやつ「こちらが一晩冷やしたものになります」って急に来るから、参考にしてお昼つくろうとしたら痛い目見たのはきっとユキナだけではないはずだ。


「クリームっぽくなるまでです!」


 そういうとエマは手際よくねりねりしていく。いい感じである。


「そしたら、はちみつに精油を溶かします!」


 それから


「そのはちみつと、さっき練った石鹸を混ぜます!」

「はい! いい感じになりましたよ。次はなんです?」

「おわりです!」


 エマが、えっ? という顔をして聞いてくる。


「できあがりですか?」

「はいっ! できました! すごくカンタンっしょ?」

「これならなくなってもすぐ作れて便利ですねぇ」


 エマが呟く。まったく同感である。


「早速洗っていきましょう! エマも髪をほどいてください! 私が洗います!」

「えっ! お嬢さまが!?……でも……」


 少し難色を示すエマ。

 しかし世話好きギャルをかわそうなんて100年早い。


「おとなしくしろー! ほらほら、大丈夫! 優しく洗いますから!」


 ね? っと笑顔を向けると、観念したのかお団子に結わえていた髪をほどくエマ。

 結構長い髪に腕が鳴る。ない袖をまくり、また出てしまったとミラは思った。

 ギャル時代の名残である。


 まずはミラと同じように粗い櫛で髪を丁寧に梳かす。

 次に毛先から頭皮に向かって順番にお湯で濡らしていく。

 ここである程度汚れを落としておくことが大切!

 それからこのはちみつシャンプーを泡立てて、頭皮をゴシゴシしすぎないよう気を付けながら汚れを浮かしていく。

 そしたら今度は頭皮のほうから泡を流して――。


「うん! なかなかいい仕上がりじゃん!」

「す、すごく心地よかったです! ふわふわの泡で髪もさっぱりして! お嬢さま、髪を洗うのお上手ですね」


 褒められるのは嬉しい。

 やっぱりウチこーいうの好きなんだろうな、とミラはちょっと懐かしい気持ちになる。

 人間好きなことをして生きていくのが一番である。それで人に喜んでもらえれば、より上等だ。


「そういえばお嬢さま。リンスというのはつくらなくてよかったのですか?」

「ん? ああ、いいんですいいんです。すぐ終わるので」


 不思議そうな顔でこちらを見るエマ。


「ふっふーん♪ まず洗面器いっぱいにぬるま湯を張って~♪ レモン汁をっ♪ 一滴垂らしたら~♪ あーっという間にレモンリンス~♪」


 口から謎の歌が飛び出る。どうか気にしないでいただきたい。ギャル時代の名残である。

 さっ、どうぞ! という顔でミラはエマを見た。


「そ、それだけでございますか?」

「うん」


 案の定、驚きを顔に貼り付けているエマ。


「まあまあ、騙されたと思ってさ! これを髪に少しずつ濡らしかけてなじませて~。そう! そうです。エマ! 今度はエマが私の髪を洗ってくれませんか?」

「おまかせください!」


 いい返事をしてくれた。美人な侍女に髪を洗ってもらえるなんて役得だ。

 ミラは心の中でガッツポーズする。


 顔と体はいい香りのミルク石鹸を使ってそっと洗っていく。これはもとから浴室にあった。

 さすが伯爵家である。


 最初、エマが自分の体をゴシゴシこすり始めたので慌てて止めた。

 石鹸はふんわり泡立てて、泡で撫でるように洗うイメージだ。

 こすると肌に負担がかかって、カサカサになってしまうのだ。あぶない。

 

 泡が残ると汚れや毛穴のつまりの原因になるのできれいにお湯で流し、ちょうどいい湯加減のお湯に二人でじっくりつかる。


「ふわ! いいお湯!」


 自然と鼻歌を歌ってしまう。

 前世でよく聞いていた、シンガーソングライターの歌だ。やさしい曲調が気に入ってたのだ。

 『いつめん』にはつまらないって言われちゃったけど、と嫌なことも思い出して一人で落ち込んだ。


「お嬢さま、それなんという曲ですか? 素敵なメロディーですね」


 湯気でほんのり上気した顔でふにゃっと笑うエマ。

 やさしいなぁ、とミラは思った。ほんとうに優しい。前のミラはあんなことしちゃったのに。

 紅茶のシミを落とすのだって、大変だったに決まっている。


「へへへっありがとう……あとね、あと、ほんとうにごめんなさい、エマ」


 エマは不思議そうな、けど何もかもわかっているような顔をした。


「こちらこそ、ありがとうございます……!」


 その言葉が、ミラには泣きそうなほどあたたかく響いた。

エマと仲良くなれました…!

よかったね、ミラ!


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