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33 ライラとジゼルとそれからネイル

いつもお読みいただきありがとうございます!


 案内されたテーブルにはおいしそうなお菓子がたくさん並んでいた。

 ケーキ、クッキー、フィナンシェ、マカロン、ショコラ……しかもこれは……


「おいしい! やっふぁりふぉるのおふぁしふぁいちふぁんだね」

「いや、何言ってっかわかんないよ。ほら、ミルク飲んで」


 牛乳の入ったマグカップを渡してくれるノル。

 ありがたく受け取りごくごく飲む。冷たいミルクはまろやかであっさりとした味わいで、ノルのお菓子にも相性の良い甘さだ。


「やっぱりノルのお菓子が一番だね!」

「それはどうも」

「ほんとだよ」

「はいはい」


 そっぽを向いてしまって顔は良く見えないが、その耳が赤いのを見てミラはクスリと笑ってしまった。


「お嬢! その爪なに~!? おしゃれ~!」

「……私も、気になる」


 ジゼルさんとライラさんが言っているのはミラがつけているネイルのことだろう。

 エマに相談しながら頑張って編み出した魔法を付与している。


「これはネイルっていうんです。爪に色や模様を乗せて楽しむんです。今日は、庭に咲いてたホウセンカの色を魔法で抽出して水魔法で加工して、日魔法の応用で固めてあります」

「すごー! いいなー! これ、戦闘の時も邪魔にならないし! テンション上がるだろうなー!」

「うん……!」


 きらきらとした目でミラの爪を凝視するライラさんとジゼルさん。

 そのまなざしに、ミラのお世話したい欲が久々にうずうずと湧き出てくる。


「よかったら、お二人の爪にもやりましょうか?」

「いいの!? ほんとに!?」

「……! やってほしい」


 ミラが尋ねると二人は顔を見合わせた後うれしそうに笑った。


「モチロンです! お二人には何色がいいですかね~」


 まわりを見渡して色を取り出せそうな植物を探す。

 窓の外に目をやると、柔らかな赤色のスイートピーと、淡いオレンジをしたポピーが風にそよいでいる。


「では最初はライラさんから行きましょう。今日のコーディネート的に爪の色はあのスイートピーの色にしますね。手を出してください」


 ミラはライラの爪をてきぱきとケアしていく。

 二人の爪はとても綺麗に手入れされていて、ミラが手を加えるところはほとんどなかった。

 ライラは今日、ノースリーブの白い襟付きシャツを胸の下あたりでベルトで留めて、短めの黒のキュロットスカートをはいている。薄手のタイツに覆われたすらっとした足。太もものあたりに装着したホルスターに拳銃(ピストル)を仕舞い、ケープマントを羽織っている。

 どうやらこれが、彼女の戦闘服のようだ。

 白と黒のパリッとしたモノトーンの服とクールな紫の髪と目の色に、スイートピーの優しい赤色がきっと映えるだろう。


「”(いろ)抽出”」


 ミラは詠唱を唱える。スイートピーの赤色がするりとミラの手元に移る。最近は『自然』との『会話』にもずいぶん慣れて、短い詠唱でも魔法を顕現できるようになった。

 これもひとえにエマの指導の賜物(たまもの)である。


「”染料生成””付与””乾燥”」


 染料が伸びやかに爪にのり、ライラの指先は花が咲いたみたいにパッと明るく華やかになる。

 毒々しさを感じない、若々しくさわやかな赤がライラのコーデにアクセントとなっている。


「”ジェル生成””付与””硬化”」


 仕上げにつや出しのために薄くジェルで覆えば完成だ。

 ライラの活発な雰囲気にもよく似合っている。我ながらいい出来だ。

 出来上がった爪を見て、ライラは顔をぱぁっと輝かせた。


「すごい! すごいすごい! 気分まで明るくなったみたい! うわー! 今なら訓練室の的、全部真ん中打ち抜けると思う。ほんとに! ありがとう、お嬢!」

「えっへへへへへへ」


 満面の笑みで喜んでくれるのが嬉しく、ミラは耳を赤くした。

 ネイルをして誰かに喜んでもらうなんていつぶりだろう。

 笑い声が大きいのは許していただきたい。ギャル時代の名残である。


「次はジゼルさん。あのポピーのオレンジ色にしましょうか。お手をどうぞ」


 先ほどと同じようにジゼルにもネイルをしていく。

 ジゼルの服装は、ライラと同じ素材の半袖のシャツブラウスに、黒のミニスカートとニーハイソックスを合わせ、長めのローブマントを羽織っている。肩から背中に斜め掛けにして持っているのは、彼女の武器の狙撃銃(ライフル)だろう。

 ジゼルの髪と瞳の落ち着いた深い緑色には淡い色がぴったりなはずだ。

 思った通り、ほのかなオレンジがジゼル本来の可愛らしさを引き出し、おとなしげな雰囲気の中に柔らかさがプラスされる。


「……ありがと……! うれしい……」


 ジゼルも口数こそ少ないものの、明るい気分になってくれたであろうことが彼女の雰囲気から伝わってくる。

 ふわりと細められる天鵞絨(ビロード)の瞳にミラは思わずドキッとさせられる。


 きっと二人とも外ではモテモテなのだろうとそんなことをミラは思った。


「ライラさんもジゼルさんも喜んでもらえてよかったです。ネイルで褒めてもらえたの初めてで……私もうれしいです」


 ミラは嬉しさでついつい上がってしまう口角を必死で引き締める。


「お嬢、私らのことは呼び捨てでいいよ~! 敬語も外して! 私らなんてまだ今年で15だしー、ちょっと年の離れた姉妹みたいなもんだと思って!」


 隣でジゼルさんがうんうんと頷く。


「で、でも……」

「だめ?」

「ダメじゃないです! よろこんで!」


流石に敬語なしの呼び捨ては……と一瞬躊躇したミラだが、屈みこんだ二人からの上目遣いにあっさり陥落した。



ライラとジゼルは幼馴染で、故郷も一緒です。

一般平民の出で、王宮最年少隊員のなかの二人。

ケンカすることもありますが、双子のような仲の良さです。

ライラは大人舌で、ジゼルは甘党。

喫茶店に入ると大抵、ライラがブラックコーヒー、ジゼルがパフェとかココアを注文するのですが、いつも給仕を間違えられます。

そんな感じです。


いつもお読みいただきありがとうございます!

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