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32 フィリップ=アンダーソン1

遅くなりまして、大変申し訳ありません!

いつもお読みいただきありがとうございます!


 目の前を一直線に伸びる長い長い廊下。

 窓からは淡く光が差し込み、どこか厳かな雰囲気を醸し出している。

 所々に置かれた調度品は華美ではないものの品の良い佇まい。


 今日も美しく調えられたウィステリア城。

 その城の中をてくてくと歩く一人の少女。

 彼女が歩を進めるたびに、やわらかそうな亜麻色の髪がふわりと揺れる。


 彼女はしばらく歩き続け、突然歩みを止める。

 辺りを見渡して首を傾げると体の向きを変えもと来た道を引き返す。

 しかしすぐにまた立ち止まってしまう。


「……ここ、どこ………?」


 ガラス玉のように澄んだ声が、長い廊下にぽつりと響き渡った。





 ミラは道に迷っていた。

 王宮を訪れるのはこれでまだ二回目。

 王に呼びだされたときは城の扉の前に既に案内人が立っていて、ミラを広間まで連れて行ってくれた。


 紹介したい人たちがいる。王宮の第一会議室においで、とノルに呼びだされたので、てっきり今回も案内してくれる人がいるのかと思いきや扉には番をしている人たちしかおらず


「ミラ=スチュワート殿ですね。通行証を確認します。あ、持っておりますね。ありがとうございます。いってらっしゃいませ」


 とそんな感じであれよあれよと城内に入ってしまった。

 第一会議室の場所を知らないミラにとっては地図なしで迷路に放り込まれたようなものである。

 こっちか? それともこっちか? と探っているうちに、まったく知らない場所に来てしまったのだった。


 右も左も知らない光景。

 どこまで続くのかもわからない長い廊下。

 扉もあるにはあるが、勝手に開けて覗く勇気はミラにはなかった。


「……ここ、どこ……?」


 焦って来た道を引き返そうにも、左から来たのか右から来たのか思い出せない。

 どちらの道も同じような花瓶。同じような絵画。同じような絨毯。


 愕然とし途方に暮れていると、長い廊下をずんずん歩いてくる人影が見えた。

 その人物はクマのように大柄で、ワイルドないでたち。

 日に焼けた肌で無精ひげを生やし、赤みがかった茶髪と鳶色の瞳の持ち主だ。


「おおん? どうした嬢ちゃん、こんなとこで。ずいぶんきれいなカッコしてるじゃあねえか。どっかのご令嬢か?」


 ひとりで城内を歩き回るミラを不審に思ったのか、その人物は少し屈みこみながらミラに話しかけた。

 はるか高みにあった目線が近づきミラはほっとする。


「こんにちは。恥ずかしながら、じつは、道に迷っていまして……。あの、第一会議室には、どうやって行けばいいのでしょう……?」


 この年で迷子になってしまった恥ずかしさがミラの顔を自然と俯かせる。


「ん? 嬢ちゃんも第一会議室に用か? 俺もそこに用事がある。一緒に行くか?」


 願ってもない誘いにミラは大きく首を縦に振る。


「そうかそうか。んじゃ、一緒に行くか!」


 男性はそう言って立ち上がるとまたずんずんと歩き始めた。

 しかし、その歩幅は先ほどよりずいぶん小さく、男性がさりげなくミラの歩調に合わせてくれているのがわかる。

 そのことを主張するでもなく、本人は口笛を鳴らして頭の後ろで手を組みながら陽気そうに歩いていく。

 ありがとうございますとミラが礼を言うと、大きな手で髪をわしゃわしゃと撫でられた。


 彼が背中に背負っている武器に薄紅色の造花が括りつけられていた。

 こんなにいかつい雰囲気なのに、と男性の顔を見上げてミラは少し笑ってしまう。


 ほどなくして、第一会議室の扉の前に辿りついたミラと男性。

 閉まっている扉を前にして、どうしようかと逡巡しているミラをよそに、男性はあっさりとドアノブを回して中に入ってしまった。


「おーっす来たぞー」

「遅いっすよ隊長……! もうお客さん来ちゃうっすよ!」


 中から、呆れたような叱るようなもう一人の男の人の声が聞こえてくる。


「わりぃわりぃ、昼寝してたらついな」

「なにがつい、ですか! 反省の色なしですね。まったく……」


 開いたドアからそっと覗くと、さっきのクマみたいな男性が若いお兄さんに手を合わせて謝っている。

 今の声は、どうやらこのお兄さんのもののようだ。


「まあまあ、許してやんなって~」


 今の声はその後ろから現れた快活そうなお姉さんのものだ。

 のんびりとしたあまやかな声だ。


「いやナオ、もっと言ってやれ。コイツの寝汚(いぎたな)さにはちょうどいい薬だ」


 そこに眼鏡の男性が加わる。


「フィル……、次遅刻したら……、撃つね……?」


 その隣のおとなしそうなお姉さんから、およそ似つかわしくない物騒な言葉が飛び出る。

 どうしたらいいのかわからず無言で見ていたら、後ろから声をかけられた。

 良く知っている声だ。


「あ、ミラ。よかった無事にここに着いてて。迎えに行ったら門番がもう中に入ったって言うから焦った」


 どうやら探してくれていたようだ。額にうっすらと汗が浮かんでいる。


「二日ぶり。どうやって場所わかったの?」

「道に迷ってたら、あの大きいおじさんが連れてきてくれたの」


 そう言ってミラは赤茶色の髪の男性の方を指し示す。

 男性はこちらを見てにかっと笑うと、ひらひらと手を振ってくる。


「なんだ、もう対面済か。ありがとうフィルさん」

「いーのいーの。そんでその子? 会わせたい人って」


 気安い様子で会話するノルと男性。

 他に人たちもミラの近くにわらわらと集まってくる。


「そうだよ。この子がミラ。ミラ=スチュワート。俺の婚約者」

「ミラ=スチュワートです。よろしくお願いします」

「この人たちは討伐に同行してくれるフィリップ小隊のメンバーの人たち。人数少ないけど精鋭だよ。右から、隊長のフィリップさん、副隊長のジャスパーさん、ガンナーのライラさん、ソードのナオさん、スナイパーのジゼルさん」


「フィリップ=アンダーソンだ。大抵のやつはフィルとか隊長って呼ぶが、まあ好きに呼んでくれ」


 案内してくれたクマみたいなおじさんが自己紹介する。

 見た目はこわいが気さくな人だとミラは思った。


「ジャスパー=オースティンだ。この隊の副隊長をやっている。好物は妻の手料理だ。よろしく頼む」


 蒼い髪に銀縁メガネのお兄さんがそう言って帽子を外す。

 淡々とした顔で惚気てきたので一瞬スルーしそうになった。奥様思いの人のようだ。


「ライラ=スミスだよー! 一応ガンナーでーす! 特技はー、しゃちほこー」


 すみれ色の髪をポニーテールにした、深紫の瞳のお姉さんが明るくピースする。

 しゃちほこってなんだと思っていたら、実際にやってくれた。

 腕と顎を地面につけて足を大きく持ち上げ背中より前に持ってくる

 まさしくしゃちほこのような体勢。凄まじい体幹と柔軟の持ち主だ。すごい。

 それとこの世界にしゃちほこが存在するとは知らなかった。


「ナオ=グレイっす! 自分、ソードを担当してます! 趣味はそっすねー、読書っすね!」


 にっと口角をあげて敬礼するお兄さん。

 短く切られた灰色(アッシュ)の髪がぴょこんと跳ねる。どこか犬っぽい人だ。


「ジゼル=ウォード。スナイパー」


 たったそれだけを端的に述べたのは、深緑の髪を肩口くらいでボブカットにしたお姉さん。

 透き通る天鵞絨(ビロード)の瞳が綺麗だとミラは思った。


「若の嫁、かわいすぎ~私が欲しいくらい~!」


ライラさんがずいずいと近づく。


「む、胸が……胸が……!」

「ミラはやらない」


 たゆんとゆれる胸にくぎ付けになっていたら、ノルにグッと肩を寄せられる。

 マシュマロのような胸が遠くなっていく。


「お嬢、ようこそフィリップ小隊へ。歓迎するぜ」

「お嬢、こっち来るっす! お菓子、あるっすよ!」

「若、お嬢を放してやれ。誰もとらん」


ちょっと待って、ウチの呼び名は『お嬢』で決定なのかとミラは焦る。


「お嬢、髪、綺麗……」

「お嬢! お膝乗る~?」


ジゼルさんにライラさんまでお嬢呼びだ。

これはもうあきらめるしかない気がする。


若とお嬢って、前世だったら確実に任侠(ヤのつく職業)の世界観なんだよなあと思ってしまうがこれは多分ミラが前世の記憶を持っているが故だ。

まあ、いいんだけどさ……。




新キャラ続々登場回でした!

ここら辺からそろそろ、旅編になります。

大人キャラとの絡みが書けるのが作者的に楽しいです!

今後とも、どうぞお付き合いください!

いつもお読みいただきありがとうございます!


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