31 【閑話休題】第一王子と侯爵令嬢
「それで? スチュワート伯爵令嬢はオリバーと一緒に行くことになったのか?」
ここはうららかな日ざしが心地よい午後の庭。
紅茶色の髪の可憐な少女と、珈琲色の柔らかい髪の少年が、茶を楽しんでいる。
少年の方が、少女より幾つか年上に見える。
ふたりが高貴な家のものであることはまず疑いようもなく、少女はさながら気高く咲く牡丹のように、少年はまるで凜と降る時雨のように
見るものを惹きつけ離さない一枚の絵画の如く和やかに、ふたりだけの茶会は緩やかに進む。
「そのようですねえ。昨日、ふわふわしながら報告してきましたよ。まったく、こちらの寂しさも知らないで暢気なものですこと」
呆れたような声音で答える少女。
しかし顔を見ればすぐに、それが親愛の情からくる言葉なのだとわかる。
「心配なら素直にそう言えばいい。君は昔から少々まわりくどい。ミラ嬢から聞いたがそう言う素直じゃない優しい人のことを「つんでれ」と言うそうだよ。そのまんま君のことだな」
弟に似ない淡々とした口調で、毒舌に見せかけた褒言葉を何の衒いもなく言い放つ少年。
「ええ、ええ心配ですとも。わたくしの大事な友人ですもの。そういう殿下こそ、先ほどからオリバーオリバーと……、人のことを言える立場にありまして?」
テーブルマナーも身だしなみもまったく隙のない二人だが、その間の空気にはどこか気安さがある。
「仕方ないだろう。大事な弟だ。心配して何が悪い。……それに君と二人きりのこの状況に、まあ少々、緊張しているのかもしれない」
話題を探してしまうほどには、とどこか照れたようにはにかんでそう口にする少年。
少女は意識すまいと思っていたことを否応なく思い出すことになり、さっと耳を薄紅に染める。
「た、たしかに殿下とこのように二人だけで過ごすのは、久しぶりですね。殿下が公務を補佐なさるようになってから、会うことも少なくなりましたし」
途端、先ほどまでの気品はどこえやら。
一転してあたふたと言葉を紡ぐ少女。
「よかったよ。君が僕からの婚約の打診を承諾してくれて。昔の約束ってことで、忘れられてたらどうしようかと思った」
年上の余裕なのか、少年は焦る様子ひとつなくティーカップを傾ける。
「忘れるはずありません。わたくしの初恋ですもの」
その余裕に対抗するように、落ち着きを取り戻した少女がにっこり笑って爆弾を落とす。
そのまま流れるような動作で、紅茶にミルクを垂らす。
紅の中に音もなく飛び込んだ白が、花のようにふわりと浮かぶ。
「そうか。じゃあ、好きになったのは、僕のが先だということだね」
動揺した悔しさはおくびにも出さず、そう主張する少年。
「何をおっしゃいますの? わたくしは初めてお会いした時から好きでした。わたくしが先です」
負けじと勝ちをもぎ取りに行く少女。
この双方無自覚な惚気合戦を止めるものはいない。
「殿下、先ほどからカップを持つ手が逆ですわ」
「君こそスプーンの向きが逆だよ」
この二人が歴代一の繁栄をもたらした存在としてウィステリアの歴史の一幕を彩るのは、
また別のおはなし。
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